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お嬢様は氷の女王。

 授与所ではしゃぎ、奇声を上げるふたりの女性に麗華が声を掛けた――


「あなた達は女子大生?」


「はいっ、喜多美神社の評判をネットで知って。それで御守りを授けて貰いに来たのですぅ。あなたもそうでしょ?」


「ええ、そうよ。でも、あなた達と一緒にされるのは迷惑です。いいえ、侮辱です」


「はぁ? 侮辱って何よっ、あなた、初対面で失礼じゃありませんか?」


「そうよっ、自分だって、評判を聞き付けて来たくせにっ!」


「ふんっ、血の巡りの悪い子達ね。あなた達は神道? 神を敬う気持ちも無く、御朱印帳をスタンプラリーの様に集めて自慢したり、ワンコインで買えるのを良い事に御守りを流行りのグッズかアイテムと勘違いして、テーマパークのお土産売り場の様な振る舞いは言語道断、目に余ります」


 女子大生は落ち込んで下を向き、典子と紗耶香も顔が真っ赤になり、無言でスルーした。麗華はふたりに詰め寄り、その宝石の様に輝く瞳で見つめ、優しく諭すように話した――


「神は、その様なあなた達でも、広い御心で受け入れ、恵みを与えて下さるのよ。感謝しなさい」


 女子大生は言葉を失い、凍り付いていた。典子と紗耶香も真っ赤な顔が一瞬にして蒼ざめ、同様に凍り付いてしまった――



「麗華さん、お待たせしましたぁ――っ! こちらの御守りを……あれ? 皆さん凍り付いていますけど……どうかしましたか?」


「めぐみさん、何でも有りませんよ。さぁ、この手に授けて下さいな」


「あっ、はいっ、どうぞ。この御守りを肌身離さず、お持ち下さい」


「授けて下さり、心より感謝申し上げます。あぁ、素晴らしい奇跡が待っているのね。有り難う、めぐみさん。ごきげんよう、さようなら」


 麗華が鳥居をくぐり、一礼をすると乳母と一緒に車に乗り込み、静かに去って行った。すると、凍り付いていた女子大生と典子と紗耶香のフリーズが解けた――


「はぁ、息が出来なかった」


「それに、身動きが出来なかった、金縛り状態だったよ、怖い――ぃ」


「あわわわ、おふたり共、大丈夫ですか? 怖くありませんよ、心配しないで下さいね。ん?……って典子さん、紗耶香さん、確りして下さいっ!」


「あら、御免なさい、私も金縛りだったわ」


「めぐみさん、あの、お嬢様のぉ、圧力とぉ、キレの有る言葉にぃ、面食らってしまったんですよぉ。今まで生きて来てぇ、あんな人はぁ、見た事が無いですよぉ」


「まぁ、確かに普通の人では有りませんからね。あっ、でも、おふたりさん、怖いは言い過ぎですよ……怖く有りませんよ、神社ですから、神様が居る場所ですがら……」


 めぐみのフォローも虚しく、女子大生達はそそくさと参道を抜け、去って行った――



―― 十二月三日 友引 乙酉


 喜多美神社は神聖な空気と職人たちの活気ある声に包まれていた――


「めぐみさん、紗耶香さん。食事の手配は私がするから、お茶とドリンクとお茶菓子の準備はよろしくね」


「典子さん、莫大な寄進が有ったからってぇ、大祓前に補修工事なんてぇ、師走が師走過ぎますよぉ」


「でも、紗耶香さん。傷んでいる所を直すのって気持ち良いじゃないですか。新年を新たな気持ちで迎えるためには必要ですよ。それに、建付けの悪い所をサッサと直して欲しいって、言ってたじゃないですか」



 喜多美神社に来ていた職人達は腕の良い宮大工で、テキパキとした身のこなしで、見ていて気持ちが良く、建物の状態をつぶさに観察ていた。そして、仕事がひと段落ついて社務所に集まっている所にめぐみと紗耶香が薬缶と急須、湯飲みにお茶菓子を持ってやって来ると、全員が起立して礼をした――


「ご苦労様です。今、お茶の御用意を致しますので……どうぞお掛けになっていて下さい」


「有難う御座いますっ!」


「巫女さん、気を使わないで下さいよ」


 めぐみがお茶を淹れ、紗耶香がお茶菓子を菓子盆に乗せて差し出した――



「親方、改修箇所の洗い出しをしました。確認をお願いします」


「おう、どれどれ……うーん、直す所が、殆ど無ぇなぁ……」


「へい。大正十五年に建立された社殿は不慮の火災で焼失したそうで、この社殿は平成二年に再建されたものだそうで……境内社と神楽殿の痛みが少しと、本殿に細かい手間仕事が有る位で」


「うむ、材料の調達と工数から二週間くれぇだなぁ」


「へいっ」


 めぐみは職人たちの顔色がすぐれないのが気になり声を掛けた―― 


「あの、みなさん、直す所が無くて落ち込んでいるみたいですけど……」


「いやぁ、巫女さん。気を使わないで下さいなんて言っておきながら、お通夜みてぇな面して……面目無い。わたしらは国宝と重要文化財で行われている大規模な改修工事に携わっていたんですがねぇ、屋根に使う木材の確保が困難で仕事が切れたもんでね。そこへ、この話を頂いたもんだから、渡りに船と飛び乗ったってぇ訳なんだよ」


「ふーん、ところがそれが、とんだ泥船だったと……」


 めぐみの言葉に、棟梁はお茶を吹き出し、必死で反論した――


「よ、よしておくんなさいよ。泥船だなんてぇ人聞きの悪い事を言っちゃあ、いけませんよ。わたしらの皮算用が間違っていただけで、神様の前で反省してるんですよ。仕事を与えて頂いて感謝しております」



 皆でお茶を飲みながら和気藹々と話しをしていると、典子が慌てて駆け込んで来た――


「めぐみさんっ! 大変よっ、尾原財閥のお嬢様がいらして、会いたいって、はぁ、はぁ、今直ぐ授与所に来てっ!」


 典子の慌てぶりに棟梁も職人達もビックリして硬直し、めぐみも事件が起こる臭いを嗅ぎ取っていた――







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