新嘗祭は嵐の予感。
「ポチッとな」
〝 テレビの前の視聴者の皆様、今晩は。美容家のイッケイです。寒くなってまいりましたが如何お過ごしでしょうか?『イッケイのビューティフル・ライフ』どうぞよろしくお願い致します。今日のラインナップは若造りはもう古い! 老け造りの奨め。真冬のお出掛けワンランク・アップ・コーデの掟でぇーすっ! どうぞご覧下さぁ――い ″
「何か、やっぱ凄ぇーなっ。オーラ出てるっつーか、老け造りなんて聞いた事がね ぇ――しっ! ハンパねぇっつーのっ!」
「真冬のコーデは気になる、気になる」
〝 視聴者の皆様。若く見える人と、そうでない人の違いは―――― 艶ですっっ!
〝 おぉぉ――――――――――っ! ″
〝 冬の肌荒れ。コラーゲン配合の『こりゃ、リッチ!』で完璧ですよーっ ″
〝 わぁあぁ――――――――――っ! パチパチパチ ″
〝 近頃お若い方の間で流行っている真っ白な顔に朱色の口紅、顔色が悪いですね。『老け造り』と、あえて刺激的な言い方をしましたけど、必須なのは大人のメイクなんです ″
〝 おぉぉ――――――――――っ! ″
〝 お顔の色は美白よりもまず自然な事が大切ですね。そして、朱色のくすんだフラットなお色では無くて、オレンジをベースにアクセントにマゼンダで立体感を出しつつ、透明感を忘れてはいけません。今日は二十代と三十代のモデルさんのおふたりに同じメイクをしていきますから見ていて下さいね。若いからって塗り壁みたいな白に、ペンキの様な朱色の唇ではダメですよ、ブラウン系からのゴールドで、このゴールドを強めにすればパーティにも良いですよ。普段は控えめにして自然な華やかさを演出して下さいね。ほーら、どうですか皆さぁ――んっ! ″
〝 若い人は大人っぽく、大人の女性は可愛らしい感じになりましたねぇ、これが、イッケイ・マジックなんですよねっ! ″
〝 おぉぉ――――――――――っ! わぁあぁ――――――――――っ! パチパチパチ ″
〝 さて、真冬のお出掛け。皆さん如何ですか? 見た目が温かいウールのコート? ダメですっ! 着ていて重いので肩が凝りますし着膨れしますよね。ダウンコートかライトダウン? リゾートならそれも良いでしょうけど、やはりお洒落をしなければならないシーンが有りますよね? ″
〝 そうなんですよね。着膨れするし、お店屋さんに入っても置き場所に困ることも有りますしね ″
〝 そんな時にお薦めなのが、このカシミア素材のダッフルコートです。超軽量でウインド・ストッパーとインナーにハイテク保温素材を装備して、一枚でオッケイ、着膨れしませんよ。上質な馬革と水牛の角でトグルが出来ております。しかも、付け替えが出来るんです。胡桃ボタンと大きなグラスボタンが付属しますのでシーンで使い分けて下さいね。首元にこんなストールを合わせればとってもフォーマルで大人の雰囲気になりますし、こんなスクールマフラーなら……ほら、カジュアルで遊びを演出できます ″
〝 おぉ――――――――っ! ″
〝 でも、お高いんでしょう? ″
〝 メーカー希望小売価格、税込み十五万五千円のところ……この番組を見ている方に限り…… ″
〝 限り――ぃ? ″
〝 三万九千八百円で――すっ! ″
〝 おぉ――――――――っ! パチパチパチパチパチパチパチパチ ″
〝 さあ、今なら送料無料! お色はオレンジ、サックスブルー、ネイビーの三色、ストールにスクールマフラーも付いてぇー、更に『コーディネイト・バイブル、イッケイのこれでオッケイ』も差し上げま―――す! お電話お待ちしておりま―――すっ! ″
「あっ! スクールマフラーだけ、お揃に合わせるの可愛いっしょっ! めぐみ姉ちゃん、電話、電話っ!」
「しょうがないわね……あっ、もしもし、はい、ええ、サイズはM。はい、そうです。ネイビーとオレンジで、はい、おなしゃ――すっ」
七海はトキメキ色の夢を見て、めぐみは七五三が終わり、任務が完了した事で安堵していた。だが、火の神の駿がくすぶった恋心に……焼け木杭に……触れ合う者全ての恋心に火を着けてしまう「恋の放火魔」だとは知る由も無かった――
―― 十一月二十三日 新嘗祭 勤労感謝の日
喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれ、新嘗祭は厳かに執り行われ、めぐみも紗耶香も萌黄色に身を包み浦安の舞いを奉納し、恙無く終える事が出来た――
〝 紀元二千六百八十一年、新嘗祭、滞りなく、執り納め致します。本日はおめでとう御座いました ″
〝 民やすかれと 二月の 祈念祭 験あり 千町の小田にうち靡く 垂穂の稲の美稲 御饌に作りてたてまつる 新嘗祭 尊しや ″
「やっぱり祭りは新嘗祭ね。身も心も洗われる感じがするのよね」
「典子さん、良い事言いますねぇ、本当にぃ、天照大御神と邇邇芸命にぃ、感謝する事がぁ、嬉しいんですよぉ……」
「典子さんはご機嫌で、紗耶香さんは感極まって泣いてしまうなんて。天の恵みが有るからこそ働ける、働かせて頂いたからこそ恵まれる。五穀豊穣に感謝ですね」
日が傾き、午前中の明るい陽射しが嘘の様に、気温が一気に下がり、参道を一陣の風が吹き抜けると、晴れ晴れとした心に冷たい風が吹き込んだ。
めぐみは嵐の到来を予感した――
お読み頂き有難う御座います。
気に入って頂けたなら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と
ブックマークも頂けると嬉しいです。
次回もお楽しみに