夢から覚めて目が覚めた。
〝 ベンベンッ、ベンベンッ、ベンベンッ、ベッベッ、ベベッベベベベ ″
「着いたよ、めぐみちゃん、お疲れ様。もう時を動かして良いよ」
「はいっ!」
「二時二十五分三十秒。これで彼も目を覚ますだろう」
「お力をお貸し頂き、有難う御座いました」
「お安い御用だよ。それじゃあ、僕もこれで帰るよ。必要な時は何時でも呼んでね。おやすみなさい」
〝 ベべベンッ、ベンベンッ、ベンベッ、ベェ――ンッ、ベベェ――――ンッ、 ″
めぐみは走り去る駿のベスパを見送り、階段を上りドアの鍵を差し込むと鍵が開いていて、部屋の電気も点いていた――
「あれ? いけない、鍵は掛け忘れるし電気も点けっパ……な分けね――――しっ!」
ドアを開けると、そこには帰ったはずの七海が居た――
「めぐみ姉ちゃんお帰り!」
「はぁ? 七海ちゃん何やってんのよ?」
「だってさぁ……心配だから、来ちゃったんよー」
「巫女の仕事なのっ! 見りゃ分かんだろ―がっ!」
七海は千早を羽織っためぐみの姿に何も言えなかった――
「納得したみたいね。つーか、殆ど正装した意味無かったけど、七海ちゃんには効果が有ったみたいで良かった。ん? 何見てんのよ?」
めぐみは前天冠の代わりに、頭にヘルメットとゴーグルを乗せたままだった――
「いけないっ! 返すの忘れちゃった。前天冠もサイドケースに入れっパだよっ! やっちゃた――っ、どうしよう……」
「めぐみ姉ちゃん。それって、もう一度会う為のコージツに決まってんじゃんよー」
「口実? これが? あんで?」
「鈍感女ナンバーワンだなぁ。さよならは別れの言葉じゃなくて、再び逢うまでの遠い約束なんだお」
「なるほど。そう云う事か……確かに、夢の居た場所に未練残しても、心が寒いだけだからね……夢から覚めた元旦那は、きっと、次のパートナーと幸せになるのだろう……」
―― 二時三十分 山岸大輔宅
「うわぁあぁ―――――――ぁっ! 夢かぁ……本当に夢だったのか疑念が残るほどリアルだったなぁ……何かの暗示だろうか……」
大輔はパソコンを開いて、精神分析の検索をした。ストレスが溜まっているからおかしな夢を見たのだと思ったが、目が冴えて寝付けなくなってしまった。そして、普段は絶対に見る事の無い夢占いのページをクリックした――
★矢で撃たれる夢
一見悪い夢にしか思えない展開ですが、意外にも吉夢です。特別に選ばれることを、『白羽の矢が立つ』と言いますが、まさしくそのような状態になるでしょう。
会社員の人であれば、出世や成功が期待できます。周囲の人たちがうやらやむような、まさに大抜擢と言えることがありそうですよ。
★焼死に関する夢
『過去のしがらみ・腐れ縁に縛られることがないゼロスタートの希望』や『今までの人生のネガティブな感情・思い出の影響から解放される』ことを象徴しています。
「あぁ、良かったぁ。逆夢かぁ……火達磨になって、のた打ち回って助けを求めているのに誰も助けてくれなかった。それどころか、見て見ぬ振りして去って行く通行人の冷酷な顔が脳裏に焼き付いて離れなくなってしまったが……吉夢なんだな。きっと、良い事の前触れなんだろう」
大輔は安堵して再び眠りに就いた。そして、何時もと同じ時刻に起床すると、夢の事などすっかり忘れていた。だが、会社に向うバスに乗ると異変に気付いた――
「あれ? どう云う事だろう……今日は女性が一人も居ないぞ。何時も乗って来る女子高生も、おばちゃんも誰も居ないなんて、今日は、何か特別な日なのだろうか……?」
バスを降りて会社に向うと、車中だけではなく、街にも女性がひとりとしていない事に気付き、不安は恐怖に変わって行った――
「なんだか気味が悪いな……」
夢の中と同じ信号で立ち止まり、信号が青に変わると横断歩道を渡り、会社の方へ歩いて行くと、そこには火野柳駿がべスパに寄り掛かりながら待っていた――
「おはよう。山岸大輔さん」
「お、お前は、昨日の夢の中の……何で、此処に居るんだ。それに、巫女が居ないのは何故だ!」
「僕は女性の前で、品の無い話をするのが嫌なんですよ」
「品の無い話だと? 何の事だっ!」
「フッフッフ。最後のチャンスを与えてあげたのに……」
「今日、女性がひとりも見当たらないのは、お前の仕業だな。チャンスとは一体、何の事だ、言ってみろっ!」
「大輔さん。あなたは随分、女性を泣かせていますね。だから『最愛の妻だった沙織さんに何か言いたい事は有りませんか?』と、昨日、夢の中で、そう尋ねたでは有りませんか。愛の有る言葉など期待していませんでしたが、せめて優しい労いの言葉くらい掛けてあげれば展開も変わったと云うのに」
「……そ、それが何なんだっ! お前に何の関係が有るんだっ!」
「教えてあげますよ。確りと聞いて下さいね。あなたはこれ迄、三人の女性に堕胎をさせていますね。その内のひとりは自殺未遂を起こしている。未遂で終わったから良いモノの、死んでいたら、あなたもタダでは済まなかったですよ……二股、三股で女性を品定めをして楽しんでいた様ですが……最後の女性はあなたを殺そうとさえしていましたからね」
「何だとっ……こ、殺すだなんて……そっ、そんな馬鹿な……」
「ふんっ、あなたに弄ばれた女性達から、あなたを守り、庇ったのは、産まず女と詰られ、足蹴にされた、沙織さんその人だっ!」
「さ、沙織が……」
「今日、女性がひとりも居ない理由を教えてあげましょう。大輔さん、あなたは『女の代わりは他に幾らでも居る』と言いましたね。どうですか? 何処にもいないでしょう? あなたにとって掛け替えの無い女性。今生、結ばれて幸福になるはずだった、たった一人の運命の人。それが……沙織さんだったと云う事ですよ。ハッハッハッハッハッ、アーッハッハッハ」
「クソッ、何が可笑しいっ! 人の不幸を笑いやがってっ!」
大輔が激昂して掴み掛るやいなや、駿はすかさず平手打ちにした――
〝 パァア――――――――――ンッ! ″
「触るな、汚らわしいっ! 恥を知れっ! ふんっ、哀れな男よ……フッフッフ、ハッハッハッハッハハ」
〝 べベベンッ、ベンベンッ、ベンベンッ、ベッベッ、ベ――――ッ ベ――――ンッ ″
駿はベスパに跨ると、キック一発でエンジンを掛け去って行った。柔和でジェントルな駿の形相が一瞬、死神の様に見え、大輔は恐れ慄いて腰を抜かし、その場に座り込んでしまった――
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