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ラストチャンスは燃え尽きて。

――草木も眠る丑三つ時


 〝 ベンベンッ、ベンベンッ、ベンベンッ、ベッベッ、ベベッベベベベ ″


「来たっ!」


 めぐみは部屋を出て鍵を掛けると、階段を一気に駆け下りた――


「今晩は。よろしくお願いしますっ!」 


「今晩は、めぐみちゃん。正装して見違える様だよ」


「久しぶりに千早を着て身が引き締まる感じです。今、自転車出しますから、ちょっと待って下さいね」


「それなら心配御無用。家でタンデムシートを装着して来たから。前天冠(まえてんかん)は外してコレに入れて、ヘルメットはコレを。さぁ、乗って」


「はいっ、失礼しますっ!」


「シッカリ摑まってっ! 行くよっ!」


 〝 ベンベンッ、ベンベンッ、ベンベッ、ベェ――ンッ、ベベェ――――ンッ、 ″


「めぐみちゃん、十五分位で現場に到着するからね! 寒いけど我慢してね!」


「はいっ! 大丈夫ですっ! これが、七海ちゃんの言っていたニケツってヤツかぁ……バックハグが嬉しいって事なのね……」


「何か言った?」


「いえ、何でも有りませ――ん!」


〝 ベンベンッ、ベンベンッ、ベンベンッ、ベッベッ、ベベッベベベベ ″



「到着。此処が対象者の家で間違い無いね?」


「山岸大輔……はい、間違いありません。沙織さんの元旦那です」


「良し、めぐみちゃん時間を止めて。二時二十五分、潜入開始」


 駿はめぐみの手を取って山岸大輔の深層意識の中に潜入した――


「あれ? 見た事の有る街が広がっている……」


「めぐみちゃん、弓の準備をして」


「あっ、はい」


 めぐみは改めて前天冠(まえてんかん)を着けると、弓の準備をした。そして、それを見た駿は驚いた――


「めぐみちゃんが、やじりのアタッチメントを五つも持っているなんて驚いたな……」


「そうなんですか? 携帯用に五つまでにしているだけで、まだ有りますけど? あはは。で、どれを使うのでしょうか?」


「そのブラックシルバーのメタリックな外観が特徴のヘマタイトのやじりを使うよ」


「これは……ヘマタイトって言うんですね。では、準備します」


「ヘマタイトは酸化鉄の鉱物で鉄の主要原料でね。ギリシャ語のheima(血)が由来で、和名を『赤鉄鉱せきてっこう』と言うのは、切断したり、すりつぶしたりすると血のような赤い色が見られる事からなんだ。いにしえより血液に対して良い効果を持つと信じられていて、古代ローマでは戦いの神マルスとの加護が得られるとされ、兵士を守護する石として用いられたんだよ。石言葉は『勇気、勇敢、戦いと勝利、自信』と云う意味なんだ」


「ふーん、問題だらけの元旦那の血液を入れ替えて自信をもたらすなんて、駿さんは、お優しいのですねぇ、感動します」


「ははは。優しいかどうかは……まだ分からないよ。ほらっ、対象者がやって来たよ」


 めぐみと駿が雑踏の中で待機して居ると、大輔が信号を渡って来たので声を掛けた――


「こんにちは。山岸大輔さんですよね?」


 大輔は突然、正装した巫女と駐車したベスパに寄り掛かる男に声を掛けられ、怪訝な表情になった――


「あなた達は? どうして、私の名前を知っているんだ?」


「山岸沙織さんの事でお話が有ります」


「沙織の知り合い? もう離婚したんだ。彼女とは関係が無い。終わった事を何時までも言われるのは迷惑だ。急いでいるんで、これで失礼するよ」


 駿は立ち去ろうとする大輔の前に立ちはだかった――


「おっと、そうはいかないんですよ、大輔さん。あなた……随分、女性を泣かせていますね? 只では済みませんよ」


「只では済まないとは、どう云う事だ! ははーん、お前たち興信所の者か? それで変装しているんだな。フッ、今更、慰謝料をよこせと言っても手遅れだよ。それとも手切れ金を増額しろとでも? まぁ、どう云う要件だろうと顧問弁護士を通して貰おうか。出る所に出てハッキリさせた方が良いだろ? 出る所に出れない要件なら全てお断りだっ!」


「大輔さん、まぁ、そう興奮しないで。別れたとは言え、最愛の妻だった沙織さんに何か言いたい事は有りませんか?」

 

「もう終わった事だ、言っておくが、私も苦しんだんだよ。彼女だけが被害者みたいな言い方は止めろっ! それに、女の代わりは他に幾らでも居る、よりにもよって、産まず女を掴まされるなんて、被害者は此方の方だっ! 分かったな。先を急ぐから、これで失礼する」


 大輔は言いたい事を言うと、駿を突き飛ばし、足早に去って行った――


「駿さんっ! 大丈夫ですか? このまま、放っておいて良いのですか?」


「めぐみちゃん、良いわけがないだろ? さあ、弓を構えて。物見を定めたらボクが神力を与えるから、合図したら矢を放ってね」


「はいっ!」


 めぐみは足踏みをして、胴造りをすると静かに呼吸を整え物見を定めた。すると、駿の呪文でやじりが発光して熱を持ち、火花が散り始めた。そして、ゆっくりと両手を上げて左右に引分けた――


「うわぁっ、やじりが線香花火みたいになってるっ!」


「正々堂々、正面から射る必要は無い、背中から心臓を射抜いてくれ。今だっ!」

 

 〝 ビッシュ――――――――ッツ ″


 めぐみの手から放たれた矢は、火花が爆発的に飛散したかと思うと、次の瞬間、濘猛と燃え上がり、大輔の背中から心臓を射抜いた――


「ギャァア――――ッ! 熱い、誰か助けてくれっ! 火を消してくれ……」


 大輔が火だるまになって燃えているのを街行く人は意に介さず、暫くすると、真っ白な灰になって、風に吹かれて跡形もなく消えてしまった――


「ふうっ、駿さん、これで終わりですね」


「いや、待って……」


 駿は大輔が灰になって消えた場所に行き、ポケットからハンカチを出すと、やじりの破片を拾った――


「めぐみちゃん、この破片を御守りに入れて沙織さんに渡して」


「はい。あっ、まだ熱を持っている……」


「ヘマタイトはね、血液に力を与えることで身体を活性化させ、体力や持久力、活力を高め、生命力を豊かにする事で、体内のネガティブな要素とのアンバランスを解消し、身体の穏やかさと調和を取り戻して、健康へ導く力が有るんだよ」


「ふーん、そんな力が有るんですね……」


「さぁ、戻ろう」


「はいっ!」


 めぐみと駿は大輔の深層意識から抜け出し、現実の世界に戻った。


 夜の冷たい風が、何故だか心地よかった――

 


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