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笑って笑って忘れた恋。

 桜井とイッケイは業界の話に熱が入ってしまい、周囲が見えなくなっていた――


「イッケイさん、どーでも良いんだけど、このオッサン誰なん?」


「あら、御免なさい、すっかり話に夢中になってしまったわ。こちらの男性は私が御世話になっている局のディレクターの。桜井和俊さん、面白い番組を沢山作っているのよ」


「あぁ、只今、ご紹介に与かりました桜井です。すみません、勝手に合流して皆さんの事を聞いておいて話し込んでしまって、申し訳ありません。お近付きの印に皆で乾杯しませんか?」


「そうですね、そうしましょう。毎日、辛い事ばかりだったけど、今夜は色んな人と出会いが有って楽しいっ!」


「おっ! 沙織姉ちゃん乗って来たねっ! 未成年だからソフトドリンクだけどさぁ、あっシも、賛成だお。」


「七海ちゃんが飲める様になるのは、未だ少し先だけど、皆の出会いと幸福に。カンパ――――イっ!」


 めぐみの音頭で乾杯をすると、まるで旧知の友の様に他愛の無い話をして楽しんだ――


「ねぇ、桜井のオッサン、どんな番組やってんのよー、あっシも観た事有る?」


「あぁ、そうだなぁ……『飛び出せアイドル!』とか『過激空間! ビフォー・アンビリーバボー!』とかぁ……バラエティ番組が多いんだけど。観た事有る?」


「観た事、有る有る。でもさぁ『飛び出せアイドル!』って、収録中に本当にアイドルが飛び出しちゃって打ち切りなったヤツじゃね? 『過激空間! ビフォー・アンビリーバボー!』も悪ふざけが過ぎるっちゅうのか、人が住めない変な家になって視聴者ドン引きだお?」


「うわぁ、酷いっ! テレビって、やり過ぎですよね」


「七海さん、沙織さん、違うんですよ、それには訳が……」


「テレビは数字が取れなければ、直ぐにお払い箱にポイなのよっ」


「まぁ、だからと言ってヤラセや嘘を放送して良いわけでは無いので。自分は情報バラエティはやって無いんですけどね……視聴者の生の声を七海さんから『ドン引き』って聞いてガックシですよ。普通に前衛っぽい住宅にしたら『過激空間じゃない!』『どこがアンビリーバボーなんだ、このタコ!』ってクレームが殺到したもので……ちょっとやり過ぎたのかなぁ。反省します……」


「桜井ちゃん、柄にも無く随分落ち込んでいるわね……大丈夫? 新番組をやるって聞いていたから、てっきり元気ハツラツだと思っていたのに。やる気満々じゃなきゃ、息切れするわよ」


「ねぇ、桜井のオッサン、新番組ってどんなん? 視聴者として気になるお」


「それが、その、『今日のマーシー』と『さん社員・池垣の今日のジャスティス』っていう五分の帯なんですよ、月金で。良かったら観て下さい」


 桜井が照れ臭そうに言うと、沙織が話題に食い付いた――


「ん? マーシーって、まさか覚醒剤で捕まったマーシーですか?」


「そうです、毎日、マーシーの自宅に行ってピンポンして『やってる?』って聞いて『やってねぇーわっ!』とか『やらねぇよっ!』って毎日確認する番組です。もう一つは、小学生に『今日、何か良い事した?」って聞いて『消しゴム貸してあげた』とか言うじゃないですか、そうしたら『ジャァスティイ――――スッ!』って絶叫するだけの番組なんです。面白いでしょ?」


「ウケるぅ――っ! チョーおもろいヤツですよ、それっ! お腹よじれる、あはははははははははは」


 桜井と沙織以外は全員ドン引きだった。だが、めぐみは沙織の表情に笑顔が戻り、笑っている事に驚き、心の中で呟いた――


 〝 もしかしたら……このふたり、良いかも! ″


「そんな番組、良くOKが出たわねぇ、信じられない、まぼろしぃ―――っ!」


「俺も、まさか通ると思いませんでしたよ。でも、最近の若い子は長尺が駄目なんですよ。TokTikみたいなショート動画に慣れていて、YoTubeも皆、1.5倍速で流し見して、ツマラなければ直ぐ視聴を止めるのが習慣化しているので、それで、ショートの帯を企画したって訳なんですよ」


「でも、桜井ちゃんは何でも笑いに変える男だからOKが出たのよ、実力が認められたのね」


「嬉しいなぁ、イッケイさんだけですよ、そんな事言ってくれるの。まぁ。何でも笑いに変えると言えば聞こえは良いですけど、何をやっても笑いになってしまう、駄目な俺なんですよねぇ……」


「何でも笑いに変える事が出来るなんて素敵です。私なんて、全部、悲しくなってしまって……」


「ねぇ、皆にバラしちゃうけど、桜井ちゃんはAVを観ても笑ってしまって、抜けない男なのよ。どんだけ――っ!」


「あんだって! エロで抜けなきゃ男じゃねぇっつーの! おホモだち?」


「いえ、違いますよ。女性の前で……なんですけど、だから……その、女教師が弱みを握られたり、秘密捜査官が敵に捕まったり、借金の返済だったり、要するにAVってフォーマットが決まっているんですよ」


「んだって、抜けなきゃ意味ないじゃんよー!」


「あの、要するに色んな事が有る訳でしょ? 物語として、設定として。だけど……最後に一言『結局、ヤリたいんかぁ――――いっ』と付け加えて観て下さい、もうダメなんですよ。笑ってしまって、腹痛ぇ――――って、なるんですよ」


「ウケるぅ――っ! チョー面白いっ! お腹が痙攣した、あはははははははははは」


「そうでしょ! ヤクザの親分とか組織の幹部が、結局、ズボン下ろして突っ込んでピストンですよっ! もう、おーまーえーはぁ、あーほーかぁ! とか、拷問じゃなくて御褒美か――いっ! とかツッコみたくなるんですよっ」


「やだぁ、もう、突っ込んでるの見てツッコむだなんて、可笑しい、あはははははははははは」


「しかも、その時、俺もズボン下ろしてチンコ握り締めているんですよっ!『結局、ヤリたいんかぁ――――いっ』って、自分にツッ込んでしまうオチってどうですか?」


「きゃっは――――っ! 面白過ぎて、笑いが止まらない、あはははははははははは」



 めぐみも、七海も、イッケイも、言葉を失っていた――





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