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第141話 女と女神とオカマと男。

 感情のブレーキが解放された沙織は自分の口がひとりでに動いて、湧き出る感情を止める事が出来なくなっていた――


「あぁ、すみません……私、一体、どうしたのかしら? なんだか心が軽くなって、言いたい事が言える。いえ、言いたい放題になってしまって……申し訳ありません」


「うぅん、良いのよっ! 謝るのは私の方よっ、そんな酷い目に合っていたなんて、知らなかったのよ、御免なざぁいっ! うっ、えぇ――ん、えんえんえん、でも、負けないでっ! しっくしっく、すんすん」


「イッケイさん、鼻水出てるお。おしぼり、おしぼり」


「沙織さんイッケイさんの言う様に……負けては駄目ですよ。元気を出して、死ぬなんて言わないで下さいよ」


「皆さん、有難う御座います……こんな私に共感してくれる人なんて……今迄ひとりもいませんでした……何だか勇気が湧いてきました。本当に有難う」


「ねぇ、飲みましょう? 今夜は嫌な事を全部、吐き出して。涙枯れるまで泣きましょう!」


「うえぇ――――いっ!」


 飲みが始まると、周囲で話を聞いていたお客さんまで励ましてくれたので、沙織の表情にも明るさが戻り、すっかり元気を取り戻し、まるで別人の様になっていた――



「しっかし、そのダーリンも酷ぇなぁ。養子を貰うとかさぁ、何とかなんねぇのかっつーの、子供の居ない夫婦なんて、いっぱい居るじゃんよー、愛が無ぇっつーかさぁ、そんな男、こっちから願い下げだぜぇ」


「私も……何度も考えました。でも、どうしても自分の子供が欲しかったの」


「子供は親の所有物ではないのよ。旦那はいらないけど子供だけは欲しいなんて言う人が居るけど、父親の居ない子供の人生を考えた事が無いのよ。自分の心を満たすために子供が欲しいなんて、私には考えられないわ。私、真剣に生きているんでっ!」


「はい、私はエゴの塊になっていました……他人の子供なんてどうでも良かったし、自分、自分、自分。自分の子供さえ手に入ればそれで良かった……だから、主人の家族から家畜みたいに扱われたのは……きっと、そのせいで罰が当たったんですよ」


「沙織姉ちゃん、まーた、自分を責めてるよぉ。しょうがねぇっつーの! あっシの手羽タレあげるから、機嫌直してよんっ!」


 焼き鳥とベルギービールでウォーミング・アップを済ませると寿司を摘まみ、お腹が満足した所で、カラオケに行った――


「山岸沙織、歌います『産まずに愛して』聞いて下さい」


 〝 ヒュー、ヒュー! ピィー、ピィー! ドンドンッ パフパフッ! ″


「涙ぁ、枯れてもぉー、夢ぇよおぉー、枯れるぅなぁ。二度とは咲かないぃー、花ぁだぁ、けぇれぇどぉぅー」


「マジかよっ! 藤井圭子かよぉ! 歳幾つだよ、怨歌が似合い過ぎだお」


「ねぇ、それを知っている七海さんこそ、歳を誤魔化しているでしょう? もう、どんだけぇ――っ!」


「夢の夢の、続きぃうをぉぉ―、せめて、せめて、心にぃー」


「歌、旨ぇなぁ」


「産まぁ、ずぅにぃ――、愛ぃしぃーてぇー、何時何時ぅー、まぁあでぇもぉおぅぅー。有難う御座いました」


「おーしっ! 今度はあっシが……って、マイク離さねぇーしっ!」


「私は産んだ事が無い、灯りの点いた診察で、子宮筋腫に内膜症で、辛い不妊治療しても怖くなかったぁー」


「今度は中森秋菜かよぉ――っ! 変なオーラが出まくってるお!」


「飾りじゃないのよ子供は、HA HAN、欲しいと言ってるじゃないのHO HO、可愛いだけなら良いけど、ちょっと可愛過ぎるのよ子供はHO HO HO」


「めぐみ姉ちゃん、静かだけど死んでんの? 生きてる?」


 めぐみはブラック・ホールを塞いだ事で、心が軽くなり弾けている沙織に未だ残る翳を見つめていた――


「このままでは終わりそうもない……きっと、空っぽの心ではダメなんだよ……心の部屋の中に、希望が無くては駄目なの……」



 カラオケは山岸沙織大会だった。そして、皆で風呂に行き、涙でグジャグジャになった化粧を落とし、サッパリすると、もう一軒寄ってから帰ろうと云う事になった――

 

「めぐみさん、七海さん。付き合わせちゃって御免なさいね」


「イッケイ、オッケイ、気にすんなっ、フッフッー!」


「今夜は最後まで付き合いますよ!」



 タクシーに乗って着いたのは六本木だった――


「何か、どエラいキラキラしてんよっ! ヤベぇ感じだお」


「心配しないで。行きつけの居酒屋が有るの。メニューなら何でも有るし、朝までオッケーよ」


 クラブやバーで遊ぶ粋人か狂人か分からない人並みから離れ、少しひと気の無い場所に、その居酒屋は有った。そして、暖簾をくぐるとそこは別世界だった――


「めぐみ姉ちゃん、こんな時間に人で一杯だおっ! こいつ等何やってんのよー」


「本当だ……まるで、仕事終わりの夜七時って感じね」


「ここは、MHK及び在京キー五局の、テレビマンが集うお店なの。だから、本当に二十五時終わりで来ていたりするのよ。沙織さんも気が紛れると思って」


「皆さん、本当に……こんな私の為に有難う御座います」


「泣かないでよ、もう涙は打ち止めぇ――――っ!」


 イッケイの声を聞き付けた男が立ち上がって挨拶にやって来た――


「おっ! その声の主はイッケイさん! やっぱりイッケイさんだ。お早う御座います!」


「あら? 桜井ちゃん、お早う。来てたんだ」


「収録終わったのがぁ、つい、さっきなんですよ。あの人気女優の×××が、勘違いして大女優気取りで『×××が無いなら、私帰るっ!』とか云うものですからね、ジャーマネが×××で××××××して、もう、大変だったんですよ」


「そうなんだぁ、お疲れちゃん。でも、我儘じゃ無ければやってられないのよ。事務所も×××して×××すれば良いのに×××で××××××のままでしょう? ある意味可哀想よねぇ」


「まぁねぇ、終われば良いんですよ、こっちは。納品に間に合えば多少の事は、ねっ! ところでイッケイさん、此方の方たちは……?」


「私のお友達なの。めぐみさん、七海さん、沙織さん。今日は朝まで飲んで嫌な事を全部忘れるのっ!」


「えぇっ! イッケイさんに嫌な事なんて有るんですか? イッケイさんは私生活も番組も絶好調じゃないですか。本当は、飲みたいだけでしょ? あはははははは」


 めぐみは、桜井の底抜けの明るさに何かを感じていた――





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