表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
140/470

世に悲しみの種は尽きまじ。

 ゾンビと化した沙織達が死滅して消えて行くのを眺めていると、これで心が安らぐだろうと思ったのも束の間、「ピィ――――ッ!」っと目赤のゾンビが指笛を吹くと、部屋の奥がらゾンビが湧いて出て来て、その数は、あっと言う間に部屋一杯に膨れ上がって行った――


「うっわぁ、これじゃ埒が明かない、どうしよう……」


「あははははは、めぐみさん。さっき迄の勢いはどうしたの? この程度で済むと思っていたのかしら? 安く見られたものねぇ……何時もそうなのよ……見下され……馬鹿にされて……でもね……こんな所まで来て……私の心に土足で踏み込んで……鞭打つなんて……あなたは酷い人! 絶対に許せないっ! 死んで貰うわよ……ヒッヒッヒッヒ」 


 めぐみは部屋の中央付近まで踏み込んでいたが、溢れ変えるゾンビ達に部屋の入り口まで押し戻されてしまった。そして、AA12Full Auto Shotgunを連射して再びゾンビを退治した時、目を凝らし意識を集中した――


「なるほど、てっきりゾンビの数には限界が有ると思っていたけど、目赤のゾンビが流す血の涙が床に落ちると、その雫が小さなゾンビとして生まれ大きくなっているのね……つまり、目赤のゾンビを退治しなければ終わらないのね。shotgunで死なないなら、アレを出すしかないっ!」


 めぐみは天の国で特別注文をして制作したまま使う事が無かった|Pfeifer Zeliskaプファイファー・ツェリスカ700| Nitro Expressナイトロ・エクスプレスを取り出すと目赤のゾンビの眉間に照準を合わせて引き金を引いた――


 〝 ボゥッガアァ――――――ンッ! ″


「ギャャァ―――――――――ッ…………」


 目赤のゾンビの頭は吹っ飛び、死滅して消え去ると、部屋の中は静寂に包まれた。めぐみは、仄暗い部屋の中で何か蠢く気配を感じ、足元にチクチクと刺すダニの様な物が見えたので、部屋の照明を点けた。すると、黒いフロアが全てダニで埋め尽くされている事に気付いた――


「これは、床が波打っているのでは無く、このダニのせいだったのね……目赤のゾンビの飛散した血から湧いて出て来るなら、どうすれば退治できるの……」


 めぐみは踏み潰すのが精一杯で、気が付くとダニは膝下まで増え行き、時間の問題で腰まで達する状態だった――


「駄目だ……部屋の奥から泉の様に湧いて出て来ている。どんどん血を吸われている、それだけじゃない、毒が廻っているみたい。助けて……武御雷神タケミカズチよ、力を与えてっ!」


 めぐみの声は武御雷神タケミカズチの深層意識に届いた――


「ん? めぐみさんが助けを求めているぞ……ピンチの様だなぁ。良し、分った。今直ぐ力を与えよう。神のイカズチ! ライトニング・サンダー・ボルト!」


 めぐみは和樹の力を受け取るために小烏丸を抜いて天に向けると、その切っ先に雷が落ちてめぐみの全身に電流が巡り、部屋中に閃光が走ったかと思うと、ダニは電流のショックで身体から落ちて死に絶え、潮が引くように消えて行った。そして、白い床が見えて来ると部屋の隅に空いていたブラック・ホールが塞がって行った――


「ふぅっ、助かった。和樹さん、ありがとうっ! この心の部屋に穴を開けて侵入して蝕んで行ったのね……艱難辛苦の断崖に立ち投身自殺する寸前だったなんて、本当に苦しかったでしょう、辛かったでしょう……沙織さん。もう、大丈夫だからね」



 めぐみは沙織の意識がら離脱して時を動かした――


 〝 沙織さん、せっかくこうして出会ったのも何かの縁ですから、胸の奥に仕舞った思いを吐き出してみたらどうですか? ″


 〝 そうですか……そうですよね……私、もう生きていても無意味なんです。死にたいんです ″


 〝 もう生きていても無意味なんです。死にたいんです ″


 〝 無意味なんです 死にたいんです ″


「ちょっと! 沙織さん、知り合ったばかりで、何ですけど、言わせて貰います。軽々しく死にたいなんて言う物じゃないわよっ! 自分だけが苦しんでいるみたいに思っては駄目よっ! 私、真剣に生きているのっ!」


 突然、イッケイに怒鳴られた事で沙織の潜在意識と意識が繋がり生気が戻った―――


「イッケイさんナイス・アシスト!」


「わぁお……イッケイさん激怒げきおこだお」


 潜在意識に巣食うゾンビを退治して心が軽くなった沙織は溢れ出す感情にブレーキが利かなくなり饒舌になった――


「軽々しい? 冗談じゃないわよっ! あなた達に私の何が分かるの? 私の苦しみや悲しみを知っているとでも言うの? 軽々しいとか決めつけてんじゃないよっ!」


「めぐみ姉ちゃん、イッケイさん、メンヘラのヤベぇヤツ連れて来ちゃったよ……ドロンする?」


「七海ちゃん、急いでお酒を注文して、何でも良いから。ねっ!」


 目に涙を溜め、歯を食いしばっていたイッケイが、鼻から息を吐くと反撃のターンになった――


「知っているかって? 知る訳ないでしょ、初対面なんだから。じゃあ、私の苦しみや悲しみを御存じなのかしら? 自分以外の人は皆幸せだと軽々しく決め付けているのはあなたでしょう!」


「何よっ! じゃあ、言ってやるわよ。私はねぇ、産まず女って言われているのよっ! 長男の嫁なのに、子供が産めないポンコツ、ガラクタ、役立たずの出来損ないのぽんぽこぴーなのよっ!」


「うわぁ、めぐみ姉ちゃん、寿限無みたいになってるお……」


「七海ちゃん、お酒が来たらさりげなく、焼鳥追加でヨロッ!」


「はぁ? 甘い甘い。おカマ舐めんじゃないわよっ! 子供なんて最初から考える事さえ出来ないし、パートナーを探す事だって困難なのよっ! 最愛の人と結婚出来ただけでも幸せでしょう? 贅沢を言ってんじゃないわよっ!」


「贅沢? 贅沢? ふんっ、何が真剣に生きているだぁ、ふざけてんじゃぁないよっ! あっ、知らざぁ、言って聞かせやしょう。長男の嫁でありながら、子宮筋腫に内膜症を、患い苦しみ我慢の子、家族の無情なプレッシャー、辛く苦しい不妊治療、するも失敗また失敗、出来ない事が確定するや、汚いものでも見る様な、冷たい視線で三行半、突き付けられて追い出され、泣きの涙で多摩川に、飛び込み死んで見せようと、覚悟を決めたこの私、浜の真砂は尽きるとも、世に悲しみの種は、尽きまじぃぃいっ!」


「いよっ! 山岸家! ゆーてる場合かっ! めぐみ姉ちゃん、今度は歌舞伎だお。この人……古典が好きなん?」


「七海ちゃん、飲ませて、食わせて、場を和ませてっ!」


 婦人病と不妊治療の失敗、離婚届を持ったまま死ぬ覚悟をしていた沙織の話にイッケイは涙していた――








お読み頂き有難う御座います。


気に入って頂けたなら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と


ブックマークも頂けると嬉しいです。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ