あなたは酷い人。
女の手は透けていて、死相が見えたにも拘らずエラー・コードが出ていない事を不審に思い神官に問い合わせをした――
「もしもし、めぐみです。今日の参拝客で、女性なんですが……えっ? いえ、七五三では有りません、ひとりで来ていた女性なのですが。はい、エラー・コードは有りません。願い事が何だったのか知りたいのですが」
「めぐみ様。その女性の名は山岸沙織、世田谷区在住の三六歳。願い事は別れた御主人が最愛の人と幸せな人生を歩んで行かれる事を願うと云う事で御座います」
「そうですか……別れた御主人の幸福を願うとは、愛の有る、お優しい人なんですね。でも、それなら余計に分からなくなりました」
「分からないとは……?」
「子宝に恵まれたいと言って御札と御守りを求めましたので。離婚して独り身になったのなら必要が無いし、既に相手が居て幸せなら死相が出るはずが有りません。彼女は生気が全く無く死相が出ていた物ですから気になって……」
「めぐみ様。僭越ながら私の推測では御座いますが、恐らく子宝に恵まれなかった事が原因で離婚に至ったと考えられます。又、周囲に理解者も無く、その事を責められた為、魂が押し潰され痩せ細っているものと思われます。気の毒な事で御座います」
「まぁ、随分とリアルな憶測だこと。経験者は語るって感じですね」
「私はそんな冷血漢では有りませんよっ! この問題はとても大きな問題です。天国主大神様も大変、心を痛めております」
「エラー・コードも出ていないので、任務外ですが、何か……彼女の役に立てる事が有るのなら力になりたいと思います」
「流石、めぐみ様! それでこそ、縁結びの神、恋の女神です。私も陰ながら応援させて頂きますので、宜しくお願い致します」
めぐみは一日の仕事を終えて帰宅をすると、もう、二度と会う事が無いかも知れない山岸沙織の事は忘れかけていた。典子から十一月十五日の七五三に向け心構えと注意点を聞き、そちらに意識が集中していた――
「めぐみ姉ちゃん、ただいまー」
「七海ちゃんお帰り。どうしたの? 元気無いね」
「授業について行くのが大変なんよー、んでも、成績はトップなんだぜ」
「あら、凄いじゃないの。頑張っているねぇ。エライっ!」
「でも、いっぺん上がると落ちんのが怖くてさぁ……必死なんよっ」
「そうなんだ。私も仕事が忙しくて、スキルアップしたら展開が変わってしまったから、変な緊張が続いて気忙しくて、何だか疲れちゃったぁ……」
「たまにはリフレッシュしねぇーとな。久しぶりに皆でカラオケでも行こっか?」
「えっ? 皆って……」
「前からイッケイさんに誘われてんのよー、皆でカラオケしたり、飯食ったりして風呂でも行こうってさぁ」
「えぇっ、知らなかったぁ。行くわよ、行く行く何時にする? 何でもっと早く言わないのよー」
「めぐみ姉ちゃんが忙しそうだからさぁ、言えなかったんよー、あっシも気を使ってたんよっ」
「気を使うって……何を?」
「ふたりの邪魔は出来ねぇっつーのっ!」
「和樹さんの事? そんなこと心配しなくて良いのよ。馬鹿ねぇ」
めぐみと七海は何時もの様に仲良く湯舟に浸かっていた――
「ふぅ――っ、いい湯だなぁ。ところで、めぐみ姉ちゃん。和樹と何処まで行ったん?」
「何処まで? スター・ブルックス・カフェに行っただけよ」
「ちげーよっ! ほら……男と女だろ?」
「あー、そう言う事かぁ。やったよ」
「えぇっ! やっちゃったの? どんなだった? 優しかった? 激しかった?」
「直ぐに殺そうとするとするから、こっちは必至よ。もう、大変だったのよ」
「イクって言うより死ぬって感じかぁ……やっぱ、ワイルドなんだぁ……それで?」
「やり返したわよ『余計な事しないで!』って言ったの、そしたら『高見の見物だ』とか云うから『こうするのよ! 見てらっしゃい!』ってなったの。まぁ、最後は『凄い! 見事だ!』って感動してたけどね。でも、彼じゃ無ければ出来ない事も有って『お互いに力を合わせてやって行こう』って感じかな」
「メモメモ、最中は余計な事はさせない。騎乗位で『良い眺めだなぁー』言わせてからのーっ、グラインド。『凄い! 見事だ!』言わせてイカせてからのーっ、フィニッシュ。互いに身体を合わせてヤッてイクッ……かぁ。うーん、大人じゃん」
「ん? 何ブツブツ言ってんの? のぼせるから出るよっ!」
風呂から上がるとタフ・ウーマンを正しい作法で飲んだ――
「うーんっ、ん旨い! 生き返る、力漲るぅー、この感じよねぇー、須藤玲子さんに感謝!」
「めぐみ姉ちゃん、毎月送ってくれる友達が居てうらやまっ! あっシも感謝だお」
七海が「今日は泊って行かないよ」と言うので、湯冷めをしないうちに送って行く事にした。そして、部屋に戻ると睡魔に襲われて、直ぐにベッドに潜り込むと、気を失う様に眠りに就いた――
〝 あなた、酷い事を言うのね 子供が産めない私に 安産祈願だなんて ″
〝 あなたも私の事を産まず女って言うのね 女じゃないって言うのね 酷い ″
〝 生きている価値の無い不良品 ポンコツ、ガラクタだと言うのね 酷い ″
〝 苦しむ私をおもちゃにして楽しむのね あなたって酷い人ね 酷い人よ ″
〝 ねぇ、だったら殺して下さいな 殺してよ 殺せって言っているのよっ! ″
「うっわぁああ――――っ!」
めぐみは人の夢の中に侵入する事は有っても、自分の夢の中に人間が侵入して来たのは初めての事だった――
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