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ブラック・ホール・ウーマン現る!

 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「お早う御座います」


「おっはー!」


「おざっす」


「あーぁ、今日はもう女子高生達は来ないのよねぇ。何だか淋しい、可愛かったわねぇ……楽しい時間は過ぎ去って行く。胸キュン・ロスね」


「可愛く無くてぇ、悪かったですよぉ。典子さんもぉ、若いんだからぁ、胸キュンくらい、自前で調達しなくてはぁ、ダメなんですよぉ」


「そうですよ。ゆーても、六年前は高校生だった訳ですから」


「めぐみさん、思春期の六年を甘く見ないで。高三と小六よっ! あぁ、マッチング・アプリで男と会ってもツマらなくて。やっぱり、同級生とか先輩とか自然な出会いが良いのよねぇ。職場恋愛はダメっ! 神職とそんな関係は無理っ!」


「なるほど。でも、美桜さんは優斗君と、芽衣さんは翼君と結ばれて本当に良かったですね。うふふふっ」


 めぐみは歩の事が気になり、竹林に姿を隠すと神官に問い合わせをした――


「もしもし、めぐみです。歩さんの件はどうなりましたか?」


「めぐみ様。歩さんの件は和樹様が既に解決しております。御心配無く」


「心配ですよっ! 共感力ゼロなんですからっ!」


 めぐみは神官から「令和の今、刀を持つ本当の意味を知りたい」と云う歩の願いを叶えた和樹の対応を聞き納得した――


「和樹さんで無ければ解決出来ない事だったのですね………」


「はい。今回の件は全て解決しており、天国主大神アメクニヌシノオオカミ様も素戔嗚尊スサノオノミコト様も大変お喜びで御座います。歩さんは願いを叶えました。そして、その先の夢は……又、別の話で御座います」


「分かりました……有難う御座いました」


 めぐみは、自分なら迷う心で刀を持つ事を止めさせていただろうと思った。だが、それではその先の夢にはたどり着け無い事を静かに悟った――



――昼休み


「めぐみさん、紗耶香さん。明日は土曜日で大安だから、朝から大忙しになるから覚悟しておいてね」


「はいっ!」「はいっ!」


「祈祷受付時間は午前十時から午後三時迄だから、集中してねっ!」


「はいっ!」「はいっ!」


「でも、そんなに肩に力を入れなくても、大丈夫な気がしますけど……」


「めぐみさん、七五三はぁ、めっちゃ可愛いからぁ、心奪われてぇ、気が緩むんですよぉ。女子高生のレベルじゃないんですよぉ」


「そうねぇ、小っちゃくて可愛い上に、綺麗な着物に髪飾りでしょう。皆、笑顔で嬉しそうで親御さんも誇らしげで……本当に幸せな時間なのよねぇ」


「髪置き、袴着、帯解き。日本人に生まれてぇ、良かったぁと思う、最初の瞬間なんですよぉ」


「あっ、それから、初穂料の管理は私と神職の者に任せて。記念写真の撮影に写真館の人も来るから邪魔にならない様にね」


「動画とか、撮影には気を遣いますよね。でも、明日が楽しみです。賑やかで楽しそう。うふふふっ」



――翌日 十一月六日 大安 戊午


 喜多美神社は和やかな空気と温かい笑い声に包まれていた。参道を小さな足取りで両親と手を繋いで歩く晴れ着姿の子供達を祖父と祖母が優しく見守る姿、ちんころ、かのこ、前櫛、かんざしが木漏れ日に輝き、風に揺れ、袴姿の男の子は小さいながらも堂々と振舞い笑顔が絶えなかった。だが、そこに招かれざる者が居た――


「めぐみさんっ! ちょっと、ヤヴァイ感じのぉ、危ない人がぁ、狛犬の向こうに居るんですよぉ、見ないで下さいよぉ、目が合うとぉ、面倒くさそうなんですよぉ」


「えーっと、あぁ、分かりました。それとなく視界に入りましたけど……」


  狛犬の陰から七五三を祝う家族を呪う様に佇む女が居た。色白に見えるが血色が無く、身体中を零度の血液が巡って居る様だった――


「生気が無いと云うより、死相が出ている……参道を歩いて来たはずなのに気配すら感じ無いなんて……」


 健やかに成長した子供の笑顔を見守る家族の暖かい優しさに包まれていたその中で、まるでブラックホールの様に幸せのエネルギーを吸い込み、負のオーラを放つその女は、参拝を済ませると授与所に立ち寄った――


「あの……こちらの神社には子宝に恵まれる御札や御守りが有りますか?」


「子宝の御守りは御座いませんが、こちらに開運の御守りと安産の御守りが御座います。安産のご祈祷でしたら原則として、すべてのいぬの日に出来ます。いぬは、多産で、お産が軽いことから、この日にご祈祷を受けられる方が多くみえますが……」


「安産祈願では無く、子宝ですよ……水天宮にも……鬼子母神堂の子授け銀杏に子授け祈願もしましたけど……駄目だったのです……子宝に恵まれない私に……安産祈願だなんて……あなた、酷い事を言いますね……」


「こっ、これは失礼を致しました……」


「あ。別に良いですよ……慣れてますから……気にしないで下さい。それでは開運の御守りを下さい……」


 女は御守りを手にして礼を言うと参道を陽炎の様に消えて行った――


「めぐみさん、この幸せな雰囲気の中でぇ、地雷を回避したんですよぉ、何事も無くてぇ、よかったですよぉ」


「いえ、ちょっと、傷付ける様な事を言ってしまったみたいで……反省しています」



 全ての祈祷を終える頃には日も傾き始め、喜多美神社は神聖な空気と静寂を取り戻していた。めぐみは一日を振り返り、ふと、あの女性が気になりケータイを開いた――


「ん? エラー・コードが出ていないっ! 良かったぁ。あっ、でも、問題が無い分け無いのに……どうしてだろう?」


 めぐみは、あのブラック・ホールの様な女が御守りを手にした時に、既に消えかかっている命を感じていた――





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