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君の刀で君を生かせ。

 武御雷神タケミカズチと歩は睨み合いなり、間合いを詰めれば離れ、押しては返す波の様になり、一向に切り合いにはならなかった――


「ほほう、出来るな。此処は夢の世界……オレは敵だ。さぁ、斬って来いっ! 来なければ此方が斬るっ!」


「うぅっ、怖い。斬って来いって言われても、一分の隙も無い……少しでも動いたら斬られるっ! 何も出来ないっ……」


 歩の額からは汗が流れ、背中はびっしょりと濡れ、息も乱れていた。そして、諦めて刀を鞘に納めると手をついた――


「参りましたっ! これ以上は、どうか、御勘弁下さい」


「ふんっ、潔く負けを認めるのだな。良いだろう、ならば最後に教えてやろう。君が負けたのはオレでは無い、自分だ。斬るか斬られるか……その状況で相手を斬る勇気の無い自分に、斬られる事から逃げようとする自分自身の心に負けたのだ。どうだ、これが真剣勝負だ」


「真剣勝負……何時も、お爺ちゃんが言っていました。刀を抜いたふたつの魂は、必ずひとつしか残らないと……」


「そうだ、その通りだ。覚悟っ!」


「えっ!」


 顔を上げた歩が見たのは、刀を振り下ろす武御雷神タケミカズチだった――


「キャァァア――――――ッ!」


 振り下ろした刀は、歩の頭のてっぺんから肛門まで、一気に切り裂いた――


「あぁっ……死んでしまった。可哀想な私……ふたつになった身体と……粉々に砕けた私の心……これで終わりなんだ……皆、ありがとう……さようなら……」


「はっはっは。此処は夢の世界だと言っただろう。今、君が見ているは、だ。君の心の弱さが肉体を亡ぼし、心は砕け散った。だが、入れ物を失った霊は家族や友人達に感謝をしているではないか」


「これは……夢なのですか? でも、私の身体と心は、もう、戻らない……」


「戻るさ、夢の世界に導いたのは君の願いを叶えるためだ。これで刀を持つ意味が分かっただろう?」


「いいえ、分かりませんっ。だって、どちらかが死ぬ真剣勝負なんて、無意味ですっ!」


「人を生かすのが刀だ。君は君の刀で自分を生かすのだっ!」


「私の心が弱いから斬られて死んだのに……私には人を斬る事なんて出来ませんっ!」


「はっはっは。出来ないのでは無く、やらないだけだ。君の心は恐怖に支配されている。人に斬られる事よりも、人を斬る事を何よりも恐れている」


「そうですっ! だから……出来ないんです、分っているじゃないですか。私には怖くて、そんな事は出来ません……」


「はっはっは。ならば、何故、怖いのか答えを教えてやろう。君は相手を一刀両断にする事が出来るからだっ! 出来るが故に恐怖が迫真性を持って眼前に迫り、君は恐怖から目を逸らそうとする。真っ二つになって死んで居る自分を良く見ろっ! 君は自分自身を守れなかった。自分を生かす事が全ての人々を生かす道なのだ」


「全ての人々を生かす……そんな事、どうすれば……」


「良いか、決して刀の行方を占ってはいけない。勝とうと思って相手の動きを予測すれば動けなくなる。そして、必ず討たれるのだ。予想外の動きに意表を突かれたのでも無ければ、裏を書かれたのでも無い。予測したから討たれたのだ、分かるな。常に瞬間に集中する事で相手の動きが全て見える様になる。もし君が望むなら、相手の鼓動を感じ、空気の振動さえ耳で聞く事が出来る様になる」


「そんな事、望んでなんかいません。そんな事が出来る様になっても、私は嬉しくなんかないっ! 戦う事が人を生かすなんて……理解出来ません、殺し合いに何の意味が有るのですか?」


「いいや、君はもう分かっている。さらばだっ!」


 武御雷神タケミカズチが去って行き、歩の目の前には真っ二つになった自分のむくろと粉々に砕け散った心が残った――


「人を生かすのが刀……自分の刀で自分を生かすって、どう云う事なの……全ての人々を生かすなんて……自分さえ守れない私に……とても考えられない……どうすれば良いの……」


 歩は真っ二つに斬り裂かれ、冷たくなった自分のむくろを合わせると、粉々になった自分の心の欠片を集めた――


に分裂してしまった私……どうすれば元通りになるの……」


 歩が心の欠片を繋ぎ合わせようとした時、不意に手を切って血が流れ出すと、心の欠片に吸収されて行き、破片は水晶の塊りの様になり、透けて見える血管が脈を打ち始めた――


「やった! きっと、これを戻せば元通りになれるっ!」


 歩は自分のむくろの上に心の塊を置くと、膨張と収縮を繰り返しながら身体に吸収されて行き、真っ二つに斬り裂かれた身体は元通りなると起き上がた――


「うわぁっ、生き返った! これで元通りになれるのね」


「ダメよ……その前に答えて。ねぇ、私……どうして私を……守ってくれなかったの?」


「えっ、だって……人を殺すなんて、私には出来無い。私なんだから、分かるでしょ?」 


「分からない。だって、私を殺したでしょう? どうして私を守ってくれなかったの? どうして私を……守って……くれなかったの……どうして……私を……殺したの……私を見殺しにしないで……お願い……助けてっ!」 


 歩のはひとつになったに責められて意識を失ってしまった――



 〝ジリリリリ――――ンッ! ジリリリリ――――ンッ! ジリリリリ――――ンッ! ″


「うーん、もう朝なのっ……五時? 目覚まし掛け間違えたよ……あと一時間は眠れるのにぃ、何やってるのかなぁ、私。ぁっ……私、私?!」


 夢と現実が繋がりベッドから起き上がった。十一月の冷え込んだ朝、歩は真夏の炎天下に居た様に全身にぐっしょりと汗をかいている事に何かを悟った。そして、汗で濡れたパジャマを脱ぎ、風呂に入って汗を流し、身を清めると道場に向った――



 〝 ブンッ、ヒュッ、ブンッ、ヒュ――ッ、シュッツ、ダンッ、ブ――ンッ ″


「おや? こんな朝早くに道場から物音がする……只ならぬ気配を感じる、何者か……」


 歩の祖父であり師匠の忠重が道場の物音に気付き、起き出して道場に向った。そっと中を覗くと、燈明に照らされ木剣を手に稽古する歩の殺気と隙の無い構えに、その目と耳を疑った。僅か三寸の返しを振る音がブンッと唸りを上げていた――


「私の刀が誰かを救えるのならっ! 誰かを生かす事が出来るのならっ! 苦しむ全ての人々を生かす事が出来るのならっ! 躊躇せずに斬るっ! 私を守れなければ、誰も守れないっ!」


 武御雷神タケミカズチの力で開眼した歩がそこに居た――

 






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