恋は叶わぬ夢では無い。
めぐみは邪神を退治すると時を動かし、身軽になった翼は最後のボールを蹴った。そのボールはゴールから大きく外れた—―
「あぁ、何で今日に限って……こんな醜態をっ、クソッ! まだ負けた分けじゃないっ! 絶対に諦めるもんかっ!」
優斗は最後のボールをセットして、芽衣のホイッスルを待っていた――
「今日に限ってあんな凄いシュートが蹴れるなんて、不思議だなぁ……本当に神様が憑いているのかもしれない……泣いても笑っても、このシュートで決める。右サイドを狙って勝つんだっ! 美桜ちゃんを守るんだっ!」
芽衣のホイッスルと同時に優斗が走り込み、翼は軌道を読みつつ、その威力に身構えた――
「ウォオォ――――リャアッ!」
だが、邪神を退治しためぐみは優斗から離脱をしていて、何も知らない優斗は全力で右足を振り抜いたが、力が入り過ぎて空振りの様になってしまい、踵の端が当たったボールはへなちょこだった――
「うわっ、ダメだ、やっちゃった、大失敗」
優斗は絶望したが、鋭い軌道で左を刺すと読んで飛んでいた翼は慌てて戻ったが間に合わず、ボールはゴールの中にコロコロと転がり込んだ――
〝 ゴォォォ――――――ルッ! ″ 〝 ワアァァァア――――ッ! ″
全校生徒の大歓声がグランドに響き渡った――
「やったぁ――――っ! 決まったっ! 勝ったっ!」
「あぁ、やられた……クソッ!」
それは、本当の翼と本当の優斗の戦いだった――
〝 ピ――――ッ! ″ 0対1で勝者は前田優斗君っ!
「先輩、美桜ちゃんの事は諦めてくれますね?」
「あぁ、勿論だ。あんな威力のあるシュートが蹴れるのに、最後にコロコロシュートを蹴るとは……オレの完敗だ。美桜ちゃんの事は諦めるよ。大切にしろよっ!」
「ありがとう!」
邪神を退治し、蟠りが解けたグランドに爽やかな風が吹いていた――
――午後二時
神聖な空気と静寂に包まれた喜多美神社の鳥居を女子高生達がくぐった――
「めぐみさんっ!」「典子さんっ!」「紗耶香さんっ!」
女子高生達は瞳を輝かせて三人の巫女の前に来た――
「聞いて下さいっ! めぐみさんに言われた通り、素戔嗚尊に祈りが届いたんですっ! 本当なんですっ! 優斗君が勝って、翼君が諦めたんです」
「ウッス、ボクも優斗君を見直しました。勇気のあるプレーでした。先輩も潔く負けを認めて格好良かったし、美桜がこんな風に嬉しそうな顔をするの久しぶりに見れて、本当に良かったです」
「結局、美桜は全高生徒の前で交際宣言して拍手喝采。芽衣は翼君を慰め、励まし、良い感じになって、ちゃっかり告白してOK貰ったんですよ。だから本当は一番嬉しいのは芽衣なんですよっ! うふふふふっ」
「あら、良かったわねぇ、全てが丸く収まって。めでたし、めでたしじゃない」
「何時だってぇ、青春は残酷なんですよぉ、でもぉ、勇気を持ってぇ、傷付く事を恐れずにぃ、前へ前へと突き進めばぁ、道が開けるんですよぉ」
「みんなの祈りが届いて良かったねっ! 神様を信じてみるのも良いものでしょ?」
「はいっ!」「はいっ!」「はいっ!」
三日間の職場体験の授業は終わり、女子高生達は素戔嗚尊に心から神恩感謝をして帰って行った――
「三日間なんて、あっと云う間ねぇ。何だか淋しいわぁ……」
「本当にぃ、灯が消えたみたいでぇ、木枯らしが身に染みるんですよぉ。でもぉ、歩さんだけぇ、彼氏がいないのがぁ、残念って言うかぁ、後ろ姿を見送るのがぁ、ちょっと辛かったんですよぉ」
「あっ! 忘れてたっ。そう言えば歩さんは自分の事は何も言わなかった……歩さんの祈りはふたりの事だと思っていたけど……」
めぐみは竹林に身を隠しケータイを取り出して確認をすると、歩のエラー・コードは消えていなかった――
「歩さんのエラー・コードは何なのだろう? 文字化けしていて解読不可能じゃない……あぁ、神様、助けて」
〝 めぐみちゅあーん 本殿にいらっしゃい 待っておるぞ ″
「あっ! その声は……神様が近くに居る事も忘れていたよ」
本殿に到着し中に入ると、素戔嗚尊は大喜びだった――
「いや――ぁ、良くやった、良くやった。でかしたぞ、縁結命! 人気爆上がりじゃっ! あんな可愛い女子高生に感謝されまくりの日々が夢だったのじゃ! こんなに早く夢が叶うとは、夢の様じゃのぅ。かっかっかっか」
「あの、その夢の事なんですけど……歩さんの夢だけが叶えられていないんです。彼女の願いが何なのか、祈りは何だったのか、教えて頂けませんか?」
「おぅ、そうかそうか、良いじゃろ。歩ちゃんの祈りは『芽衣ちゃんと美桜ちゃんの恋の鞘当てが上手く行き、ふたりが以前の様に仲良くなる事』それだけじゃ。願いは……願いは、と……うむ、心の奥に隠して居るが、武道に励む意味が分からなくなっている様じゃ『令和の今、刀を持つ本当の意味を教えて欲しい』と云う物じゃなぁ。そして、夢は……夢は……夢は……うむ、止めておこう」
「えっ、止めておこうじゃなくて、勿体付けずに教えて下さいよぉ!」
「そうじゃなぁ……これに関しては、わしの口からは言えぬのぉ。そなたには解決出来ぬ故、武御神雷の力を借りるのじゃ。良いな」
めぐみは和樹の力を借りたら再び死人が出る様な予感がして、憂鬱な気分になったた――
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