邪神の姿を見付けたり。
歩が励ます事で美桜と芽衣が泣くのを止めて元気を取り戻した頃、快晴の空が一転にわかに掻き曇り雷鳴も轟き始めた。めぐみは不穏な空気が漂っていると感じたのは女子高生達からでは無い事に気付き始めていた――
「あら、ひと雨来そうね。あんなに良い天気だったのに」
「涙雨なんですよぉ、神様は見ているんですよぉ、だから降ってもぉ、直ぐに止んでぇ、からっと晴れるんですよぉ」
「何だか嫌な予感がするなぁ……濡れる心配はなさそうですけど……」
空が真っ暗になり闇に包まれると、突然、眼が眩むほどの閃光が走り、大気を引き裂き天地が割れる様な音が響いた――
「ゴロッグゴロッガルルルル――バリッバリッバリ――ドゥッダァア――――――――――――ン!!!」
「キャァア――――――――――ァァッ!」
「大変っ! 雷が近くに落ちたわよ。学校の方じゃない? 心配ねぇ」
典子の言葉に不穏な空気が漂っていた原因は何者かの力であり、それは竹見和樹だと確信した——
「至急、確認しなければ!」
めぐみは竹林に姿を隠して神官に問い合わせをすると、嫌な予感は的中した――
「めぐみ様、お問い合わせについて御報告致します。先程、グランドで練習中だった森山翼君は和樹様の雷に打たれ死にました。詳しい事は和樹様に直接お問い合わせ下さい。では」
めぐみは慌てて和樹のケータイを鳴らした――
「もしもし、和樹さん、あなた何て事をしてくれたのっ! 何故そんな事を……信じられないっ! 殺すなんて有り得ないわっ!」
「おいおい、落ち着けよ。君の手伝いをしたんだ、お礼を言って貰いたい位だ」
「前途有る若者を殺すなんて、私は絶対に許さないっ! 余計な事をやってんじゃないわよっ!」
「余計な事? 君は何も分かっていない様だな。翼は執念深く嫉妬深い。諦めが悪くストーカー気質だ。その力をスポーツで発揮すれば才能が開花すると思っているなら大間違いだ。翼の心には邪神が入り込んでいる、ボールよりも女の尻を追い駆け回している事が証明しているだろ。生かしておけば卒業後も美桜に付き纏い、危害を加える様になる。美桜だけじゃない、美桜が助けを求める者、全てにだ。やがて美桜は自分さえ我慢すれば良いと思う様になり諦める。君はそれでも良いのか?」
「良いわけないでしょっ! だからって、殺したら何もならないのっ!」
「はっはっは。何もならない? 君は何か忘れていないか? 人間は必ず死ぬのだ。遅かれ早かれ肉体は滅ぶ。フッ、どうと云う事は無いさ」
「肉体を破壊すれば邪神は居場所を失う。でも、居場所を失うだけっ! 同時に霊の居場所まで無くしたら意味が無い、何の解決にもならないのっ! 私が解決して見せる。だから勝手な事をしないでっ!」
「おいおい、そうカッカするなよ。分かったよ。それなら高見の見物をさせて貰おう。まぁ、答えは同じだと思うがな。はっはっは」
めぐみは既に死者となった森山翼を救う為には、死者のゾーンに行き面会をして地上に連れ戻さなければならなかった――
――天の国 死者のゾーン
「面会をお願いします。性別は男性、年齢は十八歳、死亡時刻は……数十分前、死因は建御雷神の雷です」
「あぁ、さっき運ばれて来た子ね。死にたてホヤホヤで、まだ穴が開いていますけど、良いでしょうか?」
「はい、大丈夫です。あっ、それから、面会後に地上に連れ戻す予定なので、その準備もお願いします」
「分かりました。それでは直ぐに準備しますので、あちらのベンチで掛けてお待ち下さい」
程なく森山翼がやって来たが、頭頂部に直径十二センチほどの穴が開き、右足まで貫通していた為に足は空洞で踵は無くなっていた――
「初めまして、鯉乃めぐみです。あなたが森山翼君ね」
「こんちは。めぐみさん? どうして僕の事を知っているの? 僕は死んだのだけれど、何か用ですか? それとも……罰を受けるとか?」
「違うわよ。あなたを蘇らせるために来たの。死ぬには早過ぎるでしょ?」
「本当っ! 生き返って、もう一度サッカーが出来るの? 良かったぁ、嬉しいですっ!」
「でもね、それには条件が有るの。翼君はサッカーが大好きみたいだけど、美桜さんとサッカーのどちらが好き?」
「えっ……美桜ちゃんの事も知っているんだ? 美桜ちゃんとサッカーのどちらが好きって聞かれても……困るなぁ」
「どちらか、ひとつしか選べないとしたら?」
「僕、どっちも好きなんだっ! 選ぶ事なんて出来ないよぉ……どうして女の人って『仕事と私』とか比較出来ない物を天秤に掛けるのかなぁ……」
「うふふっ。翼君、残念だけど美桜さんは諦めて貰うわ。美桜さんには好きな人が居るの。知っているでしょう?」
「はい、知ってます。でも、諦めたくないんです、諦めたらそこで終わりだから……もしかしたら、気が変わるかもしれないでしょ?」
「ふーん、そう……仕方が無いわねぇ。美桜さんの事を諦められないなら、蘇る事は出来無いの。このまま死んで貰うわ」
「えっ………」
「翼君。死ぬと云う事はね……両方諦めると云う事なの。それで良いのね。じゃあね」
めぐみは背中を向けて帰ろうした――
「待ってっ! 分かったよ、美桜ちゃんの事は諦めるよ。せめてサッカーだけでもやらせて下さい、お願いしますっ!」
めぐみは翼の諦めの悪さを逆手に取って利用し、地上に戻った――
「翼君、あなたが本当に心から愛し合える人は美桜さんじゃないの。美桜さんの事は忘れてサッカーに専念するのよ、良いわね」
「はいっ! もう、俯かないし、振り向きません」
「うん、君は美しいよ。じゃあね、頑張ってね、応援しているよ」
「さようなら、めぐみさん。有難う御座いましたっ!」
深々と頭を下げた翼の霊が身体に入るのを見届けて時を戻した時だった、めぐみは気配を感じた――
「何者だっ!」
〝 蘇りさえすればこっちの物よ、ヒッヒッヒッヒ ″
めぐみは遂に邪神の声を聞き、姿を見た――
だが、直ぐに翼の身体の中に逃げ込まれてしまった――
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