涙に濡れた恋心。
めぐみは神官が何を言ったのか気になっていた――
「君の力を利用するのではなく、君の力になれと言われたのさ。君の地上勤務と時を同じくしてオレも道場から出て自由に活動が出来る許しを得たので、オレはてっきり自分の力が認められたと思って喜んでいたのだが、君の活動記録を読んで分かったのさ。君をフォローをするために解放されたと云う事がね」
「私の活動のフォロー? どう云う事かしら、私はひとりで黙々と任務を遂行して来たし、フォローされた覚えなんて無いけど?」
「木村克也と高倉健二を覚えているか?」
「覚えてはいるけど……どう云う事なのか説明してよ」
「レイプ・サークルのガキ共と極道を何匹かオレが始末したのさ」
「何ですって? そんな事、頼んでないわよっ! 始末って……殺したって事でしょう? とんでもない事を仕出かしたわねっ!」
「おっと、君は人間に共感して、まるで人間と同化している様な口ぶりだが、我々は神だ。そして、オレは君とは違う。人間に共感などしない。君だって自業自得だと思っていただろ? 君は曲霊を直霊に戻し良縁を結んでいる。だが、その幸せの裏側で嫉妬し逆恨みする者も生み出している。縁を結んでいると良縁だけでは無く悪縁も結んでしまうのだ」
「それなら、縁結びなんて意味が無いじゃないっ! 同じ数だけ悪縁と因縁を呼び込むなんて……」
「気を確り持てっ! 神代の昔から続いている事だ。人間は弱い、弱過ぎる。悲しみや苦しみ、絶望と欲望に心を奪われると直ぐに邪神、悪心が入り込む。肉体は霊の入れ物に過ぎない。だから、オレは躊躇無く肉体を破壊する。邪神、悪神が生まれ、拡散し、力を付ける前に退治する事がオレの使命なんだ。君の縁結びの力でオレは生かされている。だから、自信をもって縁を結び続けるんだ。互いに力を合わせれば、きっと新たな世界が生まれる。信じるんだ」
めぐみは邪神、悪神の入り込む余地のない健全な人間は、自然に良い縁に恵まれる事を誰よりも知っていた。和樹の言う通り敵を倒す為、欲望を果たすために祀られた神も有り、御利益にあやかりたいと人々が集まる事で力を増して行く事も分かっていた。だが、邪神、悪神の入り込む肉体を破壊するだけでは退治した事にはならないと思っていた――
「あのぉ、おふたりさん。マジな話しをしてんのに悪ぃけど、夕飯が出来ちまったんよ。続きは食ってからっつー事で、ヨロッ!」
「あぁ、七海ちゃん、もう済んだから気にしないでくれ。オレは帰る、さらばだっ!」
「あっ……めぐみ姉ちゃん、送って行かなくて良いの?」
「良いのよ、今日は。さぁ、食べましょう」
「めぐみ姉ちゃん、あいつ『サラダだ!』とか言いやがって、これはロールキャベツだっちゅうのっ!」
――翌日
職場体験は午後からだった——
「ねぇ、紗耶香さん。昨日、あれから学校に戻って美桜さんは告白したと思う? 良いなぁ……こっち迄、キュンキュンしてしまうわよ」
「典子さんがぁ、キュンキュンしてもぉ、無意味なんですよぉ。大体、フラれていたら何て声掛けるつもりなんですかぁ」
「あら、フラれるなんて絶対無いわよ。チアリーディング部でナイス・ボデーの美桜さんに我慢出来る訳無いじゃない、欲しがらない男なんていないわよ」
「ナイス・ボデーなんてぇ、オッサンみたいな言い方しないで下さいよぉ、恋に絶対は無いんですよぉ。めぐみさんも何か言ってやって下さいよぉ」
「恋に絶対は無いかぁ……何だか嫌な予感がするなぁ」
昼休みが終わり、女子高生達がやって来たが参道を歩く足取りは重く、表情は暗かった。紗耶香の指摘通り、玉砕され、打ちひしがれている事が手に取るように分かった――
「どうしよう、何て声を掛けて良いか判らなくなっちゃったよ……」
「不味い事になったみたいね。めぐみさん、責任重大よっ!」
「だからぁ、めぐみさんの責任じゃ無いんですよぉ。青春は何時も、何時もぉ、残酷なんですよぉ。そうやってぇ、少女から大人の女に成長するんですよぉ。無傷ではいられないんですよぉ、ビビってちゃダメなんですよぉ」
めぐみは不穏な空気が漂う三人の女子高生に勇気を持って声を掛けた――
「こんにちは。皆さん、昨日は……あれからどうだった?」
「あの……昨日、めぐみさんに言われた通り……告白したんです。そうしたら……」
めぐみは美桜の表情に翳りが見え、泣き出しそうな顔になるのを見て必死に励ました――
「上手く行かなかったみたいけど、ドンマイ、ドンマイ、これから幾らだってチャンスは有るんだから」
黙り込む美桜と芽衣に代わって、歩が代弁をした――
「いえ、違うんですっ! 美桜が告白して優斗君も喜んで、ふたりは仲良く結ばれたんですけど、先輩の翼君が逆上して、優斗君に殴り掛かって大騒ぎになってしまったんです」
「ウッス、ボクも先輩のあんな姿は見たくなかったけど……でも、美桜に対して本気なんだなぁって、ゾッコンなんだよ。絶対に諦めない性格だからさぁ……」
芽衣の言葉に、とうとう美桜は泣き出してしまい、歩は肩を抱いて励ますと顔を上げた――
「めぐみさん、典子さん、紗耶香さん。力を貸して下さい。芽衣も気丈に振舞っているけど、翼君が諦めて美緒と優斗君を爽やかに祝福してくれたら、告白するつもりだったんです。でも、こんな事になって、どうすれば良いのか教えて下さい!」
歩の力強い言葉に、芽衣も声を出して泣きだしてしまった――
「芽衣さんまで泣かないで、これで涙拭いて」
「典子さん、良いんですよぉ、涙が枯れるまでぇ、泣いた方がぁ、スッキリするんですよぉ、思いっきり泣けっ!」
紗耶香の一言で美桜と芽衣は号泣した――
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