時を駆ける女神。
めぐみは時を戻し、書き替える事で手掛かりを掴む事が出来た。そして、美桜が告白して優斗と結ばれる事で解決すると確信していた――
「ねぇ、美桜さん。優斗君のどんな所が好きなの? 格好良いの? 可愛いの? 優しいの? お姉さんに、おせーてっ」
「典子さん、大人なんだからぁ、興味本位でぇ、面白がって聞かないで下さいよぉ、真剣なんですよぉ」
「あら、失礼ね、私だって真剣よ。良いじゃない、恋バナなんて何年振りかしら? 私にだってそんな時が有ったのよ。何かアドバイスが出来るかも知れないでしょ? ねぇ、美桜さんっ!」
「あっ……優斗君は格好良くて、可愛いくて、優しいんですよ。彼の事を意識するようになったのは、授業中に彼が朗読をしたんですけど、その時に凄い世界が広がったんです、聞き惚れちゃって……それから、彫刻も塑造も上手なんですけど、水彩画がとても素敵で……心が綺麗な人しかあんな絵は描けないです……それに、私は絵が下手で皆に笑われるんですけど、彼は良い絵だって褒めてくれて、私の持っていない絵の具を差し出して『この色を使うと、もっと良いよ』って、言ってくれたんです。照れちゃうなぁ、恥ずかしい……」
「格好良いのは先輩の翼君の方ですぅーっ、FWだし、優斗君みたいな優しいだけの男じゃありませんーっ!」
「だったら芽衣がゲットすれば良いでしょっ! 私はデリカシーの無い人が苦手なの、恋愛対象になんか絶対ならないっ! 自信過剰、自意識過剰の傲慢なだけの脳筋野郎はお断りですぅーっ、私は要らないの、要りませんからっ! 熨斗を付けて芽衣にあげるって言っているじゃないのっ!」
「ふたり共止めて! 巫女の皆さんが相談に乗ってくれているのに、喧嘩しないで。すみません、ふたりは何時もこうなっちゃうんです」
「美桜さん、何もしなければ今のまま何も変わらないよ。勇気を出して一歩前に進もうよ、そうすれば恋の女神が現れるかもしれないよ。きっと、思いは届くよ。もしダメでも次への一歩が踏み出せる。翼君にもはっきりと迷惑だと伝える事も出来るでしょ?」
女子高生達は顔を見合わせると頷いて、美桜は決意した――
「はいっ!」
「あら、めぐみさんが背中を押して決心が出来たみたいね。良かった」
めぐみは体験授業を終えた女子高生達を見送ると作業に戻り、拝殿の清掃をしていた。そして、本殿に目をやると扉が開いて、すぅ――っと手が出て来ておいでおいでをしているのが確認出来た――
「うふふふっ。もう言いたい事は分っているし、無視、無視、ガン無視。それより美桜さんの問題が明日には解決すると良いなぁ。さて、時を戻そうっ!」
めぐみは時を書き替えて七海がやって来た元の時間に戻った――
「お帰りっ!」
「ただいまっ! めぐみ姉ちゃん元気良いねー、顔色も良いし何か良い事でも有ったん?」
「別に何もないけど、気にしてくれるのは七海ちゃんだけよ、ありがとう」
〝 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ″
「めぐみさん、居るか?」
「あっ、めぐみ姉ちゃん、気にしているのは、あっシだけじゃないみたいだお。ヒューヒュー」
「もう、からかわないでよ。和樹さん、いらっしゃい。丁度良かった、あなたに聞きたい事が有ったの」
「今晩は、オレも話したい事が有ってね。七海ちゃん、今晩は」
「今晩は。兄貴、今日はクールだねっ!」
「あぁ? オレはカ・ズ・キだ、ア・ニ・キじゃない!」
七海は首を横に振って、めぐみに無言で訴えていた――
「また拗れてるっ、和樹さん、どっちでも良いの。七海ちゃん、和樹さんの事は気にしないで」
七海がキッチンで料理を作っている間、めぐみと和樹は机の前で話をした――
「ねぇ、和樹さん。私、時を戻して書き換えて来たの。あなた、シローちゃんの病を取り除いたって言っていたでしょう? 七海ちゃんのお父さんを蘇らせる方法が分からないかしら?」
「七海ちゃんのお父さん? 死人を蘇らせるならその地点まで戻るしかない。事故死ならその地点に戻れば解決できるが、病死なら生まれる時か発病する地点だな……七海ちゃんの父上は何時頃亡くなったんだ?」
「七回忌が済んだって言っていたから……六年以上前だと思うけど」
「シローは君が地上勤務になった後に死んだんだ。だから戻って蘇らせる事が出来たが、地上勤務以前に戻る事はオレには出来ない。それに、今はまだ君にもその力は無い。だが、慌てなくても何時の日かそれも叶うだろう。何故そんな事を?」
「七海ちゃんのお父さんが出て来たの」
「なるほど……そう言う事か。それ以外に何か変わった事は?」
「それ以外? それ以外だと……素戔嗚尊が出てきた位かなぁ」
「何っ! 祀られている神が現れたと云う事は、君の能力で実体化したと云う事だなぁ……凄い力だ」
「そうなの?『素行不良で追放されて英雄になったけど、最近。忘れられてね? もっと人気出たいぞ』って言っていたよ。でも、元ヤンでパリピって感じだったけどなぁ」
「はっはっはっは。君の力にも驚くが、素戔嗚尊の前でそんな口が聞けるとは、あっはっはっは。素戔嗚尊をそんな風に言えるなんて、度胸が良いし肝が座っている。大したものだ! どうやら神官の言う通りの様だな」
「神官の言う通りって……何の事?」
和樹のめぐみを見る目は、すっかり変わっていた――
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