青春の光と影。
生徒達は一生懸命お手伝いをして神社の仕事を体験すると、あっという間に時間が過ぎてお昼になり、典子の提案で一緒に昼食をする事になった――
「お疲れ様でした。さあ、どうぞ皆さん召し上がれ」
「ウッス、旨そうっ! いただきま——すっ!」
「いただきますっ!」
「有難う御座います。頂きます」
「みんな一生懸命働いてくれたから、奮発して仕出しを取った甲斐が有ったわ。食事が済んだら今日はもう、お終いだからね」
「あざ――――っす!」
「芽衣ったら、口の中の物が飛び出してるって!」
「お騒がせして、すみません。芽衣は元気が有り余っていますから、明日からはもっとコキ使って下さいね。うふふふふっ」
「あっ! 酷いなぁ……歩だって、ボク以上に体力余りまくりの癖にっ!」
「あはははは、きゃははははは、うふふふふふふふっ」
何時もと違い、元気な女子高生達との楽しい食事に大いに盛り上がった――
「あっ、そういえば素戔嗚尊って強いんですよね? ボクも強くなりたいなぁ」
女子高生のフリに今こそイメージ・アップのチャンスとめぐみは張り切った――
「素戔嗚尊は、その力強さが転じて『厄もなぎ払う』という意味で、厄除けのご利益があるとされるようになったの。うふふっ」
「そうなんだ。最近、流行りの漫画では、やんちゃなパリピに描かれているから、てっきり、変なおじさんかと思いました」
「あの漫画では荒々しい乱行により天上界から追放された不良のように描かれているけど、苦難の末に出雲ではヤマタノオロチの退治に成功した正義感の強い、知恵者としての一面も持っている多面性のある神なの。また、英雄的側面を以て、武の神として崇められる事もあるのよ。完璧では無い乱暴者が一転ヒーローになった事が『災い転じて福となす』とも言えるのかな」
「人の痛みの分かる人情味の有る、優しい神様なんですね。マジ、リスペクト!」
「優しいって……強い事だものね。強くなりたいなぁ……私も」
「そういう時は御利益にあやかりたいって言うの。そうですよね? 合ってますよね?」
女子高生の会話に楽しい気分になっていると、紗耶香が思いを口にした――
「でもぉ、女の子ならぁ、可愛くなりたいとかぁ、モテモテになりたいとかぁ、そう言う事ならぁ、分かるんだけどぉ、強くなりたいだなんてぇ、今時の女子高生は違いますねぇ」
「紗耶香さん、もう既に可愛いから良いんですよ。それに三人共、とってもモテそうだし、男子からの激しいアプローチが鬱陶しいのですよ。ねぇ、皆さんっ!」
めぐみの話の途中で三人の顔色が変わり無言になってしまい、和気藹々だった雰囲気は一変、重苦しい空気に変わってしまった――
「あれっ? 皆さん、どうしたの? 何か、悪い事を……言ったかしら……あはははは……」
昼食が済むと、三人の女子高生は神職の者に挨拶を済ませて、参道を静かに歩いて行き、鳥居をくぐると振り返り一礼をして帰って行った――
「でもぉ『神様っているんですか』なんてぇ、ド直球で聞い来てもぉ、ちゃんと神様がいるって信じてぇ、作業をしているんですよぉ、素直でめっちゃ可愛いんですよぉ」
「そうなのよ。疑いの心で聞いているのではなくて、いるって信じたいから聞いていたのよねぇ。まるでサンタが来るのを待っている子供みたいで、キュンとしちゃった!」
「クリスマスかぁ。まだ、ちょっと早いですけどねっ!」
典子も紗耶香も、今年のクリスマスもボッチだと云う事を思い出してしまい、ブルーになった――
「あれっ? どうかしましたか? 何故そんな遠い目を……何か、悪い事を……言いましたか私? あはははは……」
「今日のめぐみさんは、ひと言、多いのよ――っ!」
めぐみは作業に戻り、拝殿の清掃をした後、何気に本殿に眼をやると扉が開いて、すぅ――っと手が出て、おいでおいでをしているのが見えたので、誘われるまま中に入ると、素戔嗚尊は大喜びだった――
「でかしたぞっ!『人の痛みの分かる、人情味の有る優しい神様!』『優しいって……強い』と言っていたぞ、いや――ぁ、もっと、もっと言ってくれ。女子高生人気ナンバーワンになるのが、わしの夢だったのだ」
「女なら誰でも良いって顔に書いて有りますよ、まぁ、変なおじさん扱いは酷過ぎますからね。時折、ブッ込んでおきますよ。あっ、巫女のケツ擦ったり、おっぱい揉んだりしない様に! チクりますよ。それでは失礼します」
めぐみはしょんぼりとした素戔嗚尊に背を向けて本殿を後にした――
「もっと言ってと云う神有れば、ひと言多いと云う物在り……うーん、難しいものよ……でも、結局、ひと言多かったのかなぁ、あんなに落ち込むとは思わなかったよ。ふふふっ」
めぐみはイレギュラーな一日が終わりに近付いた頃、ケータイが無い事に気付いた――
「あっ、ケータイは何処にしたのだろう? えっと……そうか、社務所だっ! 朝の挨拶でカバンをロッカーに仕舞う時に、慌ててケータイを出し忘れていたよ」
社務所に行くと、カバンの中にケータイが入れたまま置きっ放しだった――
「有った! 良かった。無くしたら大変だよ、ふぅっ」
電源を入れ画面をチェックすると、そこにはエラー・コードが三つ並んでいた――
「有った……見なきゃ良かった、失敗したら大変だよ、はぁ」
三人の女子高生が抱える問題を解決するのかと思うと、一日の疲れがどっと出た――
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