表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
123/470

愛しい父と疎ましい父。

 湯船に浸かっている男の顔を見ると、滴り落ちているのは汗では無く涙だと分かった――


「ちょっと、あなたっ! 何をやっているのっ! 何処見てんのよっ! スケベ! 泣いて詫びたって許さないからねっ!」


「これは、どうも済みません。初めまして、七海の父の良仁よしひとと申します。何時も七海がお世話になっております。本当に可愛がって頂いて……心より感謝申し上げます」


「えぇっ! 七海ちゃんの……お父さん? よりによって何で入浴中に……心より感謝申し上げますなんて言っても、何の説得力も無いですよっ!」


「何でと言われましても……めぐみさんが私の姿を見える様になっただけで、私は何時も七海のそばに居ましたので」


「はぁ? じゃあ、何時も一緒にお風呂に入っていたって事? 気絶しそう……」


「はい、そうです。七海もおっぱいも大きくなって、毛も生えて。でも、未だにシャンプーハットをかぶっているでしょ? 子供の頃、私がシャンプーをして失敗したせいなんです。せめて、もう少し生きていられれば良かったんですが……めぐみさん、あなたのお陰で妻も元気になりました。本当に有難う御座います。何時までも七海と仲良くしてあげて下さい、これからもずっと七海のそばに居て見守って下さい。よろしくお願いします」


 良仁よしひとはそう言い残すと、湯気になって換気扇から出て行ってしまった――


「あっ! 消えちゃったよ……何時も一緒なのに見えなかったと云う事は、スキルアップしたから見える様になったと云う事なのね……でも、消えてしまったと云う事は……ふぅ――っ。あぁ、いけねっ、息吐いちゃった」


「めぐみ姉ちゃんっ! シャンプーが目に入ったっ! シャンプーが目に入ったから流してよー、背中も頼むよぉー、早くぅ」


「分かったよ。今、目に入ったの流してあげるからね」


「もうっ、変な声出すから目に入ったじゃんよーっ! 何の為にシャンプーハット被ってると思ってんのー!」


「だってぇー、ゴキブリが出たんだもの、仕方ないじゃないの。あぁ、驚いた。シャンプーが目に入ったくらいで死にはしないわよっ!」 


「あっ、そうなん? でも、痴漢で変態なん? ゴキブリが?」


「あー、そのぉ、太腿辺りにいたものだから。ちょっと大袈裟だったね……あははは」



 風呂から上がると正しい作法でコーヒー牛乳を飲んだ――


「ふうっ、ん旨いっ! 七海ちゃん、お父さんのこと覚えている?」


「えっ? なんで? あっシの父ちゃんは普通の仕事じゃなかったから、何時も家に居なくて一緒に居た時間があんまり無かったんよ。でも、その分、父ちゃんと一緒に居た時の事は良く覚えてっけどね」


「そうなんだね……ゴメンね変な事を聞いて」


「ん? 別に平気よ、もう七回忌も済んだし。そう言えば、七回忌が済んで直ぐにめぐみ姉ちゃんに出会ったんだよなぁ……良い縁に恵まれたっつー事よ、めぐみだけに」


「あははは。そんな、無理して駄洒落なんて言わなくても良いのっ!」


 七海が泊まって行くと言うので、ベッドに寝かせると直ぐに寝息を立てて眠りについた。めぐみは何故、父が出て来たのかが気になって眠れなかった。そして、気を遣わせない様にふざけているように見せても、七海の悲しげな表情に胸が締め付けられる思いだった――


「何時の日か、七海ちゃんのお父さんを蘇らせる事が出来たら良いなぁ……」



――翌朝


「ミュウ、ミュウ、ミャ――ッ! ペロッ、ペロッ、ペロッ」


「うぅん、ねむいよぉ。おはよう……あっ! シローちゃん? シローちゃんなのね、うまれかわって、きてくれたのね。ありがとう」


「ミュウ、ミュウ、ミュウ、ミュウ、ミャ――ッ!」


「おはなしできないの?」 」


「ミュウ、ミュウ」


「でも、かえってきてくれて、とーっても、うれしいよっ」


 結菜はシローを抱いて階段を下りると、直人と綾香に報告をした――


「おとうさん、おかあさん、シローちゃんが、うまれかわって、きてくれたの」


「お早う、結菜。そうだね、生まれ変わって来てくれたんだよ。きっと、結菜が良い子にしていたからだよ」


「お早う結菜。シローだって分かるのね? また、可愛がってあげてね」


「うん、わかるよ。だって、やくそくしたんだもんっ! ずっと、いっしょなんだよ。うーんと、うーんと、かわいがるんだもんっ!」


「ミュウ、ミュウ、ミュウ、にゃんっ!」


「結菜、シローをソファーに置いて、顔を洗って来なさい」


「はいっ!」


「良く出来ました」



 めぐみは朝食を済ませて七海と一緒に仕事に向い、途中で別れて暫く自転車を漕いでいると神官からケータイに連絡が有った――


「めぐみ様、報告致します。この度の件は、無事に全て解決いたしました。天国主大神アメクニヌシノオオカミ様も大変お喜びで、褒賞金が出ております」


「あー、もしもし、今回の件は私一人の力では有りませんので……褒賞金は辞退します。それから、もし、建御雷神タケミカズツチに会ったら、私が礼を言っていたと伝えて下さい。では、急ぎますのでこれで失礼しますっ!」


「あっ! めぐみ様、褒賞金はスキルアップの実践に対して……」


「ツゥ――、ツゥ――、ツゥ――、ツゥ――」


「うーん、代ろうと思いましたが切れてしまいましたねぇ……建御雷神タケミカヅチ様、めぐみ様が礼を言っていました。確かに伝えましたよ」


「はっはっは。礼など要りませんよ。彼女の存在に感謝したいのはオレの方ですからね」


建御雷神タケミカヅチ様、めぐみ様の力を利用しようなどとお考えでしたら……それは筋違いです」


「どう云う事だ? 何故そんな事を……」


「貴方様が道場から出て活動出来る様になったのは、以前、申し上げた通り、めぐみ様の縁結びの力の成せる業で御座います。全てめぐみ様のお陰なのです」


「何だってっ! それでは、この半年間、色んな人間に神罰を与え始末して来たのは、彼女のお陰だと……」


「活動の報告書に眼を通して頂ければ、御納得頂けるかと存じます」


 建御雷神タケミカヅチはめぐみの日報と活動報告書に眼を通して唖然とした――


「やっと、父の威光から離れる事が出来て、自信を持ち始めていたのに、自分だけの力で手柄を立てていたと確信していたのに……オレは何時まで経っても子供扱いだっ!」


建御雷神タケミカヅチ様、めぐみ様を利用するのではなく、どうか貴方様のお力をお貸し下さい。めぐみ様の力になる事で…いえ、力になる事こそが、必ずや、貴方様に力を与える事になると存じます」



 大祭が終わり暦は神無月から霜月になろうとしていた――





お読み頂き有難う御座いました。


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と


ブックマークも頂けると嬉しいです。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ