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賢者と気違いは神一重。

 建御雷神タケミカヅチは地上に降りると、めぐみの家に向った――


「此処だな。ん? コインランドリー? まさかっ……これが、家なのか?」


 周りを見ても門はおろか玄関さえも無い事に驚き、ようやく階段に気が付いて上って行った――


 〝 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ″


「鯉乃めぐみは居るか?」


「めぐみ姉ちゃん、宅急便が来たお。また何か買ったのかよぉー、ったく、しょーがねぇなー」


「えぇっ、何も頼んでいないわよ……誰かしら?」


〝 ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ! ″


「竹見和樹だ、此処に鯉乃めぐみは居るか?」


 めぐみはその声に驚いて飛び上がり、背中に羽が生えた様にスキップで玄関に向うとドアを開けた――


建御雷神タケミカヅチじゃなくて……竹見和樹! 会いたかったぁ! ちょっと聞きたい事が有ったの」


「あぁ、分かっているさ。こっちも話したい事が有ってね」


「あんだおっ! 最近、夜は遅いし、ちっともあっシにかまってくれないと思ったら、男が出来たんかよぉー。言ってくれれば、来なかったっつーのっ! んじゃ、帰る。お邪魔虫は退散しま――すっ」


「あぁ、七海ちゃん帰らないでっ! この人は仕事の仲間よ。勘違いしないで」


「つぅ割には弾んでね? 羽根生えてたっしょ?」


 女の感は鋭かった――


「七海ちゃんとやら、余計な気遣いは無用だ」


建御雷神タケミカヅチ、さっきの事なんだけど……どう云う事かしら?『スキルアップのガイド』の解読法を教えて欲しいの……」


「あぁ、分かった。だがその前に報告が有る。シローは蘇り再会をした。明日の朝、あの少女も元気を取り戻すだろう」


「有難う御座いました。あなたのお陰で皆が幸せになれて良かった」


「それから、事後の出来事はレポートには記載の必要は無い。心配するな、神官に会って直接確認したから間違いない」


「本当ですかっ! 重ね重ね有難う御座います。でも、備考欄に概要だけは書いておきますね」


「うぐぅ……神官の言った通りだな……」


 めぐみは『スキルアップのガイド』を机の上の本棚から取り出して開いた――


「ねぇ、建御雷神タケミカヅチ。この下の段になると何の事かさっぱり分からなくなるの。問い合わせるとログインして下さいと言われるのだけど、そうすると今度はケータイに送られて来た認証番号を入れなくてはならないの。でも、何処にもスペースが無いし……」


「そう、つまり上段に書いて有る事を実践し、マスターしなければ先に進めない様に出来ているのさ。だから、まず実践だね。時間を掛けて取り組めば、最終的に君は『時読みの力』を持つことになるんだっ!」


「へぇー。そうなんだ」


「おい『へぇー。そうなんだ』じゃないだろっ! 天上天下を支配する力だぞっ! 分かっているのかっ!」


「天上天下を支配する力……ふーん、私はそんなの要らないのに」


 めぐみの天真爛漫さに建御雷神タケミカヅチは言葉を失ってしまった――


「ねぇ、おふたりさん。何の話をしてんのか知んねーけど、お茶を淹れたお」


「おぉ、これは有難い。地上に降りると喉が渇いて困る。ふぅ――っ」


「ねぇ、おふたりさん。何でフルネームで呼びっこしてんの? たるくね?」


「あぁ、そうだった。鯉乃めぐみはめぐみさんで、オレは竹見和樹だから和樹さんだ」


「ん? さっきカズチって言ってたじゃん。お兄ちゃん、()()が違うと大変だお。これが本当の気違いだから。てへっ」


「あーはっはっはっは、これは面白い! 気違いとは上手く言ったものだ。はっはっはっはっは」


「はぁ? 全っ然っ、面白くねーしっ! 七海ちゃん、初対面の人に失礼でしょっ!」


「まあまあ、良いじゃないか。七海ちゃんさんは面白い娘だな」


「ちゃんの下にさんは要らねーよっ! お姉ちゃん、マジで……」


 七海はめぐみの顔を見ると「こいつヤバい奴じゃね? マジキチじゃね?」と言わんばかりの顔をして首を横に振った――


「そうか、七海ちゃんで良いのか。めぐみさんに和樹さんに七海ちゃんで良いんだな」


 めぐみは建御雷神タケミカヅチの言動が七海に不信感を与えている事が分かると、立ち上がった――


「さぁてと、もう遅いし、女性の部屋に何時までも居ては駄目よ。送って行くわ」


「あぁ、そうしよう。邪魔したな、七海ちゃん! はっはっはっは」


「七海ちゃん、直ぐ戻るから留守番していてね」


 七海をひとり部屋に残し、ふたりは出て行った。そして、話をしながら歩いて行くと、公園のベンチに腰を下ろした――


「めぐみさん。どうやら七海ちゃんに聞かれると不味かったみたいだな。気を遣わせて済まない」


「私たちの会話の内容は理解出来ないから大丈夫。でも、私は一応、人間として生活しているので。あなたの事、本気で変な人と思ったみたい。うふふふつ」


「まぁ、どう思われても構わないさ。だが、問題は君の神力だ。時間を止める事くらい直ぐに出来るのだから、マスターしなくてはならない」


「えっ、そうなの? 出来る気がしないけど……どうやってやれば良いの?」


「『スキルアップのガイド』上段に書いて有った様に、鼻から息を吸って丹田に力を入れて止めたら、口から一気に吐く。只それだけで良いのさ」


「あぁ、呼吸を整えるって書いて有ったから、深呼吸していたのよ。バッカみたい」


 めぐみは何度も繰り返し、繰り返し、試みたが全く出来なかった――


「ほらー、出来無いよ。時間を止められる気がしないもの……和樹さん、私にはきっと無理なんだよ」


 めぐみの余りにも不甲斐ない姿に、和樹も疑いを持ち始めていた――


「この程度の事が出来ないなんて有り得ない……どうやら、勘違いの様だ。オレは神官と双子の巫女に騙された様だ……嘘吐きめっ! 期待させて済まない。君には無理だ」


「ふーん、やっぱりね。所詮、追放された私に、そんな力が有る訳無いよ……ふぅ――っ」


 めぐみが力を抜いて息を吐いた時に、瞳の奥がキラッと光ったのを和樹は見逃さなかった――


「それだっ! 今のだよっ! もう一度やってみるんだっ!」


「はぁ? 今のって何よ……もう一度って言われても、何の事だか分からないよ……」


 和樹は立ち上がり、めぐみの正面に立つと肩を掴んで立たせた。そして、めぐみの両頬にそっと手を添えると、めぐみの瞳をじっと見つめた――


「和樹さん……ダメよ、いきなりこんな所で。人に見られたら恥かしい……」


「恥ずかしくなんか無いっ! オレが探し求めていたのはコレだっ! コレなんだっ! 嘘じゃなかった、君だったんだっ!」


「和樹さん、こんな時に……言いにくい事を言うけど、また言葉の使い方を間違っているわ『オレが探し求めていたのは君だっ! 嘘じゃない、君だったんだっ!』が正解なのっ……」


 めぐみはファースト・キスの予感に心を震わせ、和樹は遂に「時読みの力」を持つ賢者を見付けた喜びに武者震いをしていた――





お読み頂き有難う御座いました。


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援と


ブックマークも頂けると本当に有難いです。


次回もお楽しみに。

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