ノープランはフリープラン。
建御雷神は話を聞き終えると、めぐみの行き当たりばったりで、出たとこ勝負の行動に呆れ返った――
「そうやって、ノープランで行動するから、次から次へと問題が噴出するのさ。その女の子は愛猫を失ってから自分を責め続けて傷付いていた。つまり、解決方法は唯一つ。その猫を蘇らせる事だ」
「蘇らせる? そんな簡単に言わないでよ……そんな事どうしたら出来るの? 確かに蘇らせる事が出来れば結菜ちゃんは嬉しいだろうけど……無理よ、私は蘇らせる方法を知らないもの……」
「方法を知らないだって? ふーん、なるほど……君は『スキルアップのガイド』を読んだだけで、使用方法が分かっていない様だなぁ……」
「使用方法って……何なの? どうすれば良いの?」
「おっと……此処で言う事は出来ない。仕方ない、同行しよう」
建御雷神は呪文を唱えると、シローと共にめぐみの身体の中に入った。そして、軌道エレベーターに乗って地上に降りると離脱した――
「ほら、上手く行っただろ?」
「本当だ……有難う御座いました。あぁっ、でも、蘇りの方法も知らないし『スキルアップのガイド』の使用方法も分からないし……これからどうすればいいの?」
「ニャンニャン、にゃーんっ! ニャラニャンにゃん」
「さあ、早く! 少女を助けに行け!」
「ニャンッ!」
シローが多摩川幼稚園の中に走って行くのを見届けると、建御雷神は左手で空を切り結界を張った――
「これで大丈夫、天の国では誰に聞かれているか分からないからな。さて、本題に入ろう。君が渡された『スキルアップのガイド』は作成時に解読されない様に暗号化されている。だから、読んだだけでは分からない様になっているのさ」
「何よっ、分からないガイドなんてガイドになっていないじゃない! 何の意味も無いっ! 神様は意地悪ね」
「はっはっは。そんなに怒るなよ『スキルアップのガイド』が暗号の様になっているのは、読み人の解釈によって変わってしまうからさ。邪神、悪神が手にすれば悪用する事にのみ使うだろう? だが、その文脈では読み解く事が出来ない仕様になっているって訳さ」
「なるほど……そう言う事かぁ、だからログインできないし、ケータイに認証番号を送られて来ても打ち込むスペースが無いのか……スキルアップガイドをよく読んで、理解するだけでは何も出来ないと云う事ね……」
「そう言う事。だが、君が解読方法を知らないとは……驚きだな。はっはっは」
「笑わなくても良いでしょっ! どうすれば良いの?」
「答えは『理解するだけでは何も出来ない。実践有るのみ』と云う事さ」
「実践って……その実践が何の事か分からないのっ! 何をすれば良いのか、何から手を付けたら良いのか、私には全く分からないのよ……」
「言っただろ? 地上には時間の概念が……おっと、その前に、少女が猫と再会して抱きしめているぞ。これで、園児達の不安は解消されるだろう。はっはっは」
結菜が言った通りシローが助けに来てくれた事で、園児達は大喜びではしゃぎ回っていた。だが、お楽しみ会の為に園長先生が教室に入って来ると、再び戦慄に震え硬直し、静まり帰った――
「はーい、静かになりましたね。皆さんお行儀が良くてなによりです。さあ、お楽しみ会の始まり始まりーぃ」
園長先生の指示で、教員たちが入って来て手品の準備を始めたが、園児達は身動きひとつせず、固唾を飲んで見守っていた。すると、シローがひと声鳴いた――
「にゃんにゃらニャンっ!」
シローに見つかったネズミが、ビックリして園長先生の頭上に逃げて行くと、手品のタネの小鳥が驚いて飛び立とうとした。だが、今朝の失敗を繰り返さない様にヘア・ピンで固定されて動けなかった。そして、園長先生も微動だにしなかった――
〝 わぁぁあ――――っ! パチパチパチパチパチパチパチパチパチ ″
「どうして? まだ何もしていませんよ?」
園児達は園長先生の頭にネズミと小鳥が戻って、クマにさんに食べられる運命から解放された喜びに沸き、園長先生も結果オーライで喜んでいた――
「ほら。上手く行っただろ?」
「ありがとう! 結菜ちゃんがあんなに笑っている、良かったぁ。あっ、もうお昼休みが終わってしまうよっ! 急いで戻らなくては、話はまた後で聞かせてねっ! じゃあねっ!」
建御雷神は、慌てて喜多美神社に戻ろうとしためぐみの腕を掴んだ――
「待ちなよ。君はせっかちだなぁ、話はまだ終わっていないだろ。慌てなくても大丈夫だ、オレに任せな。それより、何処か話が出来る所へ案内してくれ」
めぐみは話が出来る所と言われて困ってしまい、仕方なく何時ものカフェに寄る事にした――
「いらっしゃいませ! スター・ブルックスへようこそ! 御注文をどうぞ!」
相変わらず鬱陶しい程の笑顔が「キラッキラ」していた。そして、カフェ・ラテのスモールとグランデを注文して受け取ると、建御雷神を案内して席に着いた――
「どうぞ」
「有難う。良い香りだな……うーん、旨い。どうした? 浮かない顔をしているな」
「だって、此処で話をしていたら、お昼休みが終わってしまうもの。もう間に合わないから良いけど。任務の方が優先だから仕方が無いよ」
「はっはっは。オレに任せろと言っただろ? 間に合うよ、間に合わせて見せるさ」
「えっ?」
めぐみが驚いて聞き返すと、建御雷神は手に持ったコーヒーの容器から手を離した――
「あぁぁ――――っ!」
めぐみが思わず声を上げると同時に、建御雷神は指をパチンと鳴らした。すると、床に落ちるはずのコーヒーの容器が空中で止まった――
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