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おっちょこちょいは恋の始まり。

 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「お早う御座います」


「おはよう、めぐみさん。今日は早いわねぇー、昨日は遅くまでご苦労さん。大変だったでしょう?」


「典子さん、夜が明けました。お陰様でミッション・コンプリートしましたよ。有難う御座いました。うふふっ」


「えぇっ! 本当? 良かったじゃない」


「お早う御座いまーす。でもぉ、深夜まで仕事をしてぇ、夜が明けてぇ、一睡もしていないとかだとぉ、居眠り連発なんですよぉ」


「お早う御座います、紗耶香さん。大丈夫ですよ、ちゃんと寝ましたから」


「紗耶香さんったら、大祭が終わったら仕事の鬼になっちゃったのよねぇ」


「めぐみさんがぁ、典子さんみたいにぃ、なって欲しくないだけなんですよぉ」


「ふんっ、何よっ! 鬼は退治するものよっ、節分祭で追い払ってやるから首を洗って待ってなさいっ!」


「もう、おふたり共、仲良くして下さいよ。うふふふっ」



 結菜は目が覚めると、直人と綾香に昨日のシローとの出来事を話した――


「結菜、シローが元気で見守っていてくれて良かったね。良い夢を見れて良かったね」


「あのね、ゆめじゃないんだよ。ほんとうに、シローちゃんとチュウをしたの」


「あぁ、分かったよ結菜。ほらっ、もう幼稚園に行く時間だよ。準備は出来ているの?」


「うん。じゃなくて……はいっ!」


「良く出来ました。お父さんは先に行くから。綾香、気を付けて送って行ってくれよ」


 綾香は直人を見送り、結菜を幼稚園に送って行く時にシローのお供えが無くなっている事に気が付いた――


「ゆめじゃないの。ほんとうなんだよ」



 結菜は幼稚園に着くとお友達にも昨日の出来事を話した。すると、園内は歓喜に沸いて収拾がつかなくなってしまった――


「皆さんお静かにっ! お行儀良くして下さいっ!」


 園長先生の言葉も虚しく、誰一人として騒ぎを止める者はいなかった。しかし、園児が走り回り、大騒ぎをしている事に驚いたネズミが飛び出して園長先生の頭に避難をすると、絹を引き裂くような悲鳴と共に小鳥が飛んで行った。すると、それを見た園児達は園長先生が大きなクマさんに変わってしまう、食べられてしまうと思い、恐怖に慄き動きを止めて無言になった――


「はい。皆さん、良く出来ました。それで宜しいのですよ。何時も静かに、廊下は走らない。約束ですよ」


 園長先生は突然、飛び出したネズミに年甲斐もなく奇声を上げてしまったが、園児達が静かになったので、結果オーライだと思った。しかし、残念なのは午後のお楽しみ会で披露する手品のネタがバレてしまった事だった――


「ゆなちゃん、ゆびきりげんまんしたから、はりせんぼんのむの? いやだよぉ、こわいよぉ」


「はりせんぼんより、えんちょうせんせいが、くまさんにかわったら、みんなたべられちゃうんだよぉ」


「どうしよう、こわいよぉ……」


「だいじょうぶ。シローちゃんが、みまもっていてくれるって、いってたもん。シローちゃんが、たすけてくれるもんっ!」



 めぐみが拝殿の清掃をしていると突然、ケータイが鳴り、慌てて画面を見ると神官からの緊急連絡だった。急いで竹林の中に身を隠し、通話ボタンを押した――


「めぐみ様、申し訳ありません。ちょっと問題がありまして……」


「問題って……もう解決したはずですけど?」


「はい。任務は完了しております。ところが、何か約束が有るとか、無いとかで……結菜さんの事を心配してシローちゃんが暴れておりまして……」


「はぁ? 指切りしたって? うーん、分りました。昼休みに一旦、戻ります」


 めぐみはお昼休みになると、典子と紗耶香に外出する事を伝え、軌道エレベターに乗って天の国に戻った――


「シローちゃんっ! シャーシャー言っても、ニャーニャー鳴いてもダメよっ! 大人しくしなさい」


「あっ! 貴方様は昨日の……結菜ちゃんが助けを求めています、クマに食べられそうなんです、助けて下さいっ!」


「クマに食べられそう……って? あぁっ! そう言う事かぁ……私のせいなのかぁ、あ痛たたっ……それで呼び出されたと云う事なのね。参った、困ったなぁ……どうしよう」


 めぐみはシローを連れて地上に戻る為、外出の手付きをする事にした――


「昼休みだから空いていると思ったけど、逆に外出届は混んでいるのね……ふぅっ」


 めぐみがシローを連れて列に並んでいると、後ろから笑い声が聞こえた――


「はっはっは、昼休みだなんて面白いな。天の国に時間の概念など無い。此処は昼も夜も関係無く、何時も地上に降りたい連中で混んでいるのさ。はっはっはっは」


「あっ! 竹見和樹さん……じゃなくて建御雷神タケミカヅチ。そんなに笑わなくっても……良いでしょっ。私、これでも必死なんですからっ!」


「はっはっは。これは、失礼。だけど君が人間みたいな事を言うからさ。悪く思わないでくれ。それより、君は並ばなくても自由に外出する事が許されているはずだろう? 何故、猫を連れて並んでいるんだ?」


「士郎とシローを間違えた後始末をする為に、この猫を地上に連れて行くの……」


「地上に連れて行くだけなら、君が憑依して軌道エレベーターに乗れば終わりだよ。手続き的には問題だけど、そっと戻って離脱すれば誰も気付きはしない。仮に気が付いたとしても責任追及する者など誰も居ないよ」


「えぇっ? そうなんだぁ……知らなかった。教えてくれて有難う……」


「地上には時間の概念が有る。今、地上の時間は神無月だが、神在月で神が集結をしている場所が有るだろ。此処に居る連中はその集会に出席する為に並んでいるのさ。君がそんなに真面目にやっていたら、日が暮れるどころか夜が明けてしまうよ。それに、その猫を連れて行ってどうする気なんだ?」


 めぐみはこれ迄の経緯を話し、連れて行った後はノープランだと白状した――









お読み頂き有難う御座いました。


次回もお楽しみに。

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