明けの明星。
地上に戻ると、大慌てで喜多美神社に向った――
「すみません、遅くなりましたぁー」
「遅いも何も、もう午後三時よ」
「もうっ、めぐみさんまでぇ、クソゲーに嵌まったらぁ、この神社は廻らないんですよぉ、確りして下さいよぉ」
「何よ、オンライン・ゲームを親の仇みたいに言うのは止めなさいよー。めぐみさんは夜まで勤めれば良いのよ。紗耶香さんの言う事は気にしなくて良いからね」
「すみません。残りの仕事は全部、私がやりますから。典子さんも紗耶香さんも私の事で喧嘩しないで下さい」
めぐみは仕事帰りにやって来た七海に遅くなる事を告げ、深夜まで仕事をした。そして、仕事を終えると、結菜の自宅に向った――
「えっと、世田谷区西城……この辺だけど……あった! 小さいけれど綺麗なお家ねぇ。この辺は高級住宅街だからウロウロ出来ないよ、サッサと『神への祈りの舞い』を済ませて憑依しなくては」
めぐみが舞を舞っていると、警ら中の警察官に発見され声を掛けられたが、間一髪。結菜に憑依して姿を消した――
「ここは、結菜ちゃんのお部屋ね。可愛いベッドで寝ているのね。シローちゃんの写真が飾って有るよ……切ないなぁ……」
結菜に憑依しためぐみは、そっと部屋から出て階段を下りた。軌道エレベーターで天の国へ戻り、シローと再会を果たした後、チュウをして解決する計画だった――
「結菜。こんな時間にどうしたの? 目が覚めてしまったの?」
「シローちゃんが……」
「言ったでしょう? シローの大好物はお供えしてあるから大丈夫よ。さぁ、早くお部屋に戻って寝なさい」
「はぁい……」
めぐみは家人が寝静まるまで待って、シローのお供えを手にすると、そーっと玄関から外に出て、軌道エレベーターに乗って天の国へ戻った――
「ふぅ。何とか戻って来たものの、此処まで来て午後五時迄だったらどうしようかと不安だったけど、死者のゾーンが二十四時間、年中無休で良かったぁ!」
めぐみは手続きを済ませると死者のゾーンに向い、到着すると結菜の身体から離脱した――
「あれ? ここはどこ? おかあさんと、おとうさんは? おねえちゃん、おせーて」
「結菜ちゃん、此処は天の国。お父さんとお母さんには内緒だよ」
「てんのくに? どうして、ないしょなの?」
「それはね、シローちゃんと逢う為なの。結菜ちゃんだけの秘密だよ」
「ヒミツにすれば、シローちゃんと、あえるの?」
「そうよ。約束出来る?」
「うんっ」
めぐみは指切りをすると、丹田に力を入れ、右手で空を二回切った――
「藤島結菜の縁者、シローよ、此処に出でよっ!」
すると「どうっ」と風が吹いて白い雲に覆われ、風が止んで雲が消えると、目の前にシローちゃんが駆けて来た――
〝 ニャンニャラ、ニャンニャン、ニヤ――ン。ニャンニャラ、ニャンニャン、ニャ――ン ″
「うわぁぁあ! シロ―—ちゃ——んっ!」
「結菜ちゃ——んっ! 逢いたかったよ——っ! 淋しかったよ——っ!」
ふたりは抱き合い、再会を喜ぶとシローは結菜の頬を伝う涙をペロペロして身体中をスリスリと擦り付け、ゴロゴロゴロと喉を鳴らした――
「シローちゃん。おはなしできるの?」
「うん。出来るよ」
「ごめんね、チュウしなかったから、しんじゃったんでしょ?」
「結菜ちゃん、それは違うよ。僕は寿命だったんだ。結菜ちゃんに死ぬところを見られたくなかったから、ベッドの下に隠れていたんだよ。だから、もう心配しなくて良いよ」
「ほんとう? ゆなのせいじゃないの?」
「本当だよ。結菜ちゃんのせいなんかじゃないよっ! それより、可愛がってくれて有難う。本当に、本当に、有難う。僕は本当に幸せだったよ」
ふたりは思い出話をして、一緒に遊んだ。そして、結菜が大好物のおやつを与えシローがペロッと平らげると、めぐみはさよならをする時間になっている事を無言で伝えた――
「結菜ちゃん、お父さんとお母さんが心配をするから、もう帰らなくてはいけないよ」
「かえらなくてはいけないの? シローちゃんもいっしょでしょ? いっしょにかえろう。ねぇ、かえろうよ。ねぇ、かえろうよ」
「結菜ちゃん。僕はもう、天の国の住人だから一緒に帰る事は出来ないんだ。ごめんね」
「やだっ! シローちゃんも、いっしょじゃなきゃ、かえらないっ! もう、はなれたくないもんっ!」
「結菜ちゃん、帰らないと父さんとお母さん悲しむよ。僕は此処からずっとずっと見守って居るから大丈夫だよ。もう僕の事で苦しまなくて良いんだよ。生まれ変わったら……きっと、また会えるよ。さぁ、お家に帰りなさい。さよなら」
「また、あえるの? うん、わかった。ゆなもシローちゃんのこと、わすれないからね。はやくうまれかわってね。すぐだよ。やくそくだよ」
結菜は指切げんまんをして別れを告げると、シローにさよならのチュウをした――
めぐみは再び結菜に憑依をすると、地上に戻り、そっとベッドで寝かせると「おやすみ」と言って帰宅した。そして、レポートを提出して任務を終えた――
「あぁ、典子さんの言う通り、夜明けが近いよ」
窓を開け、明けの明星を見ながら、今回の任務を振り返っていると、心の中に建御雷神が居る事に気が付いた――
「ふと、自分に戻ると彼の事を思ってしまう、彼の事ばかりを考えてしまう……これが恋なのかなぁ……」
めぐみは建御雷神との会話を思い出しては、その爽やかな笑顔と逞しい身体、優しい声、輝く瞳を何度も繰り返し脳内のスクリーンで再生していた――
〝 やあ。縁結命、遂に死者のゾーンに来るようになったんだね。おめでとう ″
「あれっ? おめでとう? おめでとうって……何なの?」
めぐみは死者のゾーンに赴いた事を祝福された理由を知りたいと思っていた――
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