死者と神との再会。
めぐみは綾香から得た情報を頼りに、半年位前に病死した者のページを開きシローちゃんを探した――
「ちょっと待って、こんなにシローが居るなんて……でも、結菜ちゃんに近い年頃のシローちゃんは……三人だけ。これなら直ぐに解決しそうね。うふふっ」
めぐみが手を上げると直ぐに係りの者がやって来た――
「はい。お決まりですか?」
「えっと、このシローちゃんと、こっちのシロー、それと、此処のシローでお願いします」
「はい。それでは御注文を繰り返します。このシローと、こっちのシローに、此処のシローで宜しかったですかぁ?」
「はい。」
「有難うございま―す、少々お待ち下さい」
暫くすると、めぐみの座っている席に三人のシローちゃんが現れた――
「こんにちは。皆さんに聞きたい事が有るんだけどぉ、教えてくれるかなぁ?」
「うんっ! 良いよ」
「結菜ちゃんと仲良しの子は誰かなぁ?」
三人は黙ったまま、首を横に振った――
「おねえちゃん、ぼくはママにあいたいよぉ」
「ぼくは、おにいちゃんと、いもうとに、あいたいの」
「僕はパパと遊園地に遊びに行きたいなぁ……」
めぐみは人違いだと気付くと係りの者を呼び、三人に丁重に詫びて帰って貰った。しかし、帰り際の三人の淋しそうな顔が脳裏に焼き付き、いたずらに気を持たせてしまった事を反省した。そして大いに焦った―――
「藤島夫妻の年齢から考えても、そんなに歳は離れていないはずなんだけど……シローという名前は圧倒的に昭和生まれが多いし、皆、成人病や寿命だもの……叔父さんや、お爺ちゃんをシローちゃんと呼ぶ可能性はゼロに近いと思うんだけどなぁ……」
めぐみは半日掛けて全てのシローちゃんに面会をしたが結局、分からないままだった――
「どう云う事なの? 又、振り出しに戻ってしまった……致命的なミスというよりドジった感じ? もう打つ手は無いから、とりあえず地上へ戻ろう……はぁ」
項垂れて肩を落とし、すっかり落胆してまっためぐみの足取りは重かった。そして、死者のゾーンの出口に差し掛かった時、突然、後ろから声を掛けられ振り返った――
「やあ。縁結命、遂に死者のゾーンに来るようになったんだね。おめでとう」
「あなたはっ! 竹見和樹っ、じゃなくて建御雷神……」
めぐみは、胸の鼓動が早くなり時めくと同時に、恥ずかしい所を見られたと思い落ち込んでしまった――
「あぁ、神様っ、よりによって今日、こんな所で会うなんて……せめてリップ位しておけばよかった……運命は残酷だなぁ」
「こんな所? 君は死者の登録に来たのではないのか?」
「死者の登録だなんて……そんな事ではありませんよ、面会に来たの。でも結局、分からず終いで……格好悪い所を見られてしまいました……」
「はっはっは、格好悪くなんかないさ。でも、君はスキルアップのガイドをちゃんと読んでいない様だな」
「えっ……全部目を通しましたよ。でも、ちょっと意味が分からない事が多くて……」
「探し人なら、右手で空を二回切り『出でよ』と唱えるだけで良いんだよ。ほらっ、やって御覧よ」
めぐみは言われるがまま、右手で空を二回切り『出でよ』と唱えたが何も起こらなかった――
「はっはっは。おいおい、君は自分が神様だと云う事を忘れてしまったのか? そんな屁っ放り腰で、囁くような声では天国主大神に聞こえる訳が無い、届かないよ。もっと堂々と、丹田に力を入れてやって御覧よ」
「はい、分かりました。では……『藤島結菜の縁者、シローよ、此処に出でよっ!』」
すると「どうっ」と風が吹いて、白い雲に覆われた。そして、風が止んで雲が消えると、目の前にシローちゃんが居た――
「うわぁ、出来たっ! 出来ましたけど……シローちゃん? あなたがシローちゃんなの??」
「そうです、僕がシローです。お呼び頂き有難う御座います。ところで……何の御用でしょうか?」
「結菜ちゃんの事であなたに会いに来たのだけれど……まさか、猫だとは思わなかったよ……」
「はっはっは。良かった、解決したようだね。それでは、これで失礼するよ」
「あぁ、あのっ、有難う御座いましたっ!」
めぐみはうっとりと建御雷神の後ろ姿を見送っていた――
「あのぉ……僕の事をお忘れでは有りませんか?」
「おっつ、御免なさい。あなたに結菜ちゃんの事で大切な用が有るの、結菜ちゃんがあなたの事で辛い思いをしているの」
「結菜ちゃんが……うっ、うぅっ、うぇ――――んっ!」
シローは結菜の名を聞くと、楽しかった日々を思い出して泣き出してしまった――
「あぁ……御免ね、そんなに泣かないで。ねぇ、訳を話して。結菜ちゃんと何が有ったの?」
「はい。僕は生まれつき腎臓が悪く、尿路結石になって、何度も治療して頂いたのですが、とうとう命尽きたのです。結菜ちゃんが生まれる前から直人さんと綾香さんに飼われていたので、生まれてからは何時もベビーベッドで寝かし付けて、一緒に遊んで……うぇ――――んっ!」
「あわわわ、泣かないでよー。辛いだろうけど、結菜ちゃんの為に頑張って。話しを続けて」
「はい。僕が元気が無いと結菜ちゃんはとても心配をして、お父さんとお母さんに相談をすると『結菜がチュウすれば、シローは元気になるよ』って言われた事を信じていたのです、うぐっ、だから、何時も結菜ちゃんがチュウをしてくれて、うぅっ、それなのに……うぇ――――んっ!」
「命尽きてしまったと云う事なのね……」
「はい……」
「残念だけど、仕方が無い事よ。でも、それなら結菜ちゃんには悔いが残らないはずなんだけどなぁ……あなたには何か心残りが有る?」
「はい。最後の日に、私は苦しさと戦いながら、結菜ちゃんに心配を掛けない様にと思って、ベッドの下に隠れて出て行かなかったのです。今思えば、結菜ちゃんの膝の上で、腕の中で死にたかったです」
「それだっ! 結菜ちゃんはチュウをしたのに死んでしまった事を嘆いているのでは無く、最後の日にチュウをしなかったから、あなたが死んでしまったと思い込んでいるのよっ!」
「えぇっ! そんなぁ……うぅっ、うぇ――――んっ! うぇ――――んっ! えん、えん、えんっ! うぇ――――んっ! うぇ――――んっ! えん、えん、えんっ!」
めぐみは急いで軌道エレベーターに乗って地上に向った――
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次回もお楽しみに。