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此処では無い何処か。

―—翌日


 めぐみは朝早くから多摩川幼稚園に向った。園児が登園する前に教諭に憑依して情報収集をする計画だった――


「昨日は新人の高橋さんだったから、やたらと指示を出されたし、情報収集の為にはやはり担任の教諭にするしかないかなぁ……しかし、担任ともなると……上手く誤魔化せるかなぁ」


 幼稚園に到着すると、結菜ちゃんの担任を特定し、恥を忍んで祈りの舞いを舞うと、担任の杉浦教諭に憑依した――


「ふぅっ、上手く憑依出来たよ。しかし、路上で『神への祈りの舞い』を舞うのは恥ずかしいなぁ、失敗したら頭のおかしい人がいるって通報されそう。さて、この園内にシローちゃんがいない以上、交友関係を探らなければいけないなぁ……」


「お早う御座います。杉浦さん、今日はピアノをお願いしますね」


「あっ、園長先生、お早う御座います。ピアノですね、分かりました」


 ベテラン教諭ともなると園長からの指示もレベルアップしていて、めぐみにしてみれば殆どムチャ振りだった。だが、皆の前でピアノを弾く前に退散する準備が出来て安堵した――


「やれやれ、指示を出して貰って良かったぁ。突然、弾いてくれなんて言われたら、バレてしまう所だったよ、早く情報収集を済ませないと大変な事になりそうね……おーっと、いよいよ園児たちが登園して来ましたよ。藤島さんと直接話をして手がかりを掴まなくては……」



 幼稚園の朝は元気な子供達の明るい表情と楽しそうな声に包まれ、心を癒されると同時に園内は活気付いて行った――


「杉浦先生、お早う御座います」


「藤島さん、お早う御座います。結菜さん、お早う御座います」


「すぎうらせんせい、おはようございます。きょうも、いちにち、よろしくおねがいしまーすっ」


「はーい、良く出来ました」


 結菜がバイバイして園内に入って行く姿を見送ると、綾香は挨拶をして帰ろうとした――


「藤島さんちょっとお話が……」


「はい、何でしょうか? 結菜が……何か問題でも?」


「いえ、あの、シローちゃんの事なのですが……」


「先生、あれから半年ほど経ちますが、未だに傷は癒えていない様で……以前の様に授業中に塞ぎ込んだり、泣き出したりはしなくなったと思いますが、時折、思い出してしまうのか、無口になってしまう様で……御迷惑お掛けして申し訳ありません」


「あー、迷惑だなんて、とんでも有りませんよ。只、シローちゃんの事で結菜さんが小さな胸を痛めているのが気懸かりなものですから……」


「御心配頂き有難う御座います。生まれつき腎臓が悪かったものですから……私達夫婦は覚悟が出来ていましたけど、結菜は……ずっと傍にいて支えてくれた存在が、突然いなくなったものですから……」


「相当なショックを受けてしまったんですね。無理も有りません……」


 シローちゃんが既に亡くなっている事に、めぐみもショックを受けていた。そして、憑依した杉浦教諭から離脱すると仕事に向った――


「死んでいたなんて……死者との接吻を実現するのがミッションなの? だとすれば、死んだシローちゃんに会いに行かなけばならないけど……」



 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「おざーっす……」


「あれ? めぐみさんどうしたの? 今朝は元気が無いじゃない」


「あ、ちょっと問題がありまして……朝飯前のはずが日が暮れても解決しなくて……」


「分かるぅ――っ! でも大丈夫よ、夜明けは近い! きっと、コンプリートするわよ」


「典子さん。めぐみさんはぁ、ゲームの話をしている訳じゃないですよぉ」


「何よっ! アドバイスをしただけじゃないの」


「クソゲーにハマってぇ、夜明けになった人にぃ、説得力なんてゼロなんですよぉ」


「めぐみさん、紗耶香さんが虐めるのっ! 何か言ってやって」


「まぁまぁ、紗耶香さんもそんなに怒らないで下さい。そして典子さんお心遣いに感謝致します」



 めぐみは仕事が一段落着くと、竹林に身を隠し神官に連絡をした――


「あ、もしもし、シローちゃんの件でお話が有ります。ええ、はい。うーん只、もうこの世にはいない訳ですから……えっ! 天の国に戻って死者の名簿を確認して探し出すのですか? 私が? あー、そうですかぁ……そうなんですかぁ……分かりました」


 めぐみは死亡報告をすれば、このミッションは終わりになるかもしれないと淡い期待を抱いたが、無情にもミッションの難易度は上がっていた――


「あぁ、何だか典子さんと同じ様な状況になってしまったけど……でも、クソゲーと云うより無理ゲーなのよねぇ……ふうっ。仕方が無い、一旦、天の国に戻ろう」



 めぐみは軌道エレベーターで天の国に戻ると、面会の手続きを済ませ、死者のゾーンへ向かった――


「いらっしゃいませ。死者のゾーンへようこそっ! 本日は登録ですか? 面会ですか?」


「あぁ……面会です。って言うか、面会する人を探しに来ました」


「はいっ。それでは、此方の名簿をどうぞっ!」


「有難う御座います。何だかファミリー・レストランみたいで拍子抜けするなぁ……」


 テキパキと明るい「死者のゾーン」の対応に驚きつつ、周囲を見渡すと過去数千年分の名簿が有る事に気付いた。そして、手にした名簿が過去一年分であることを確認すると、黒い革の表紙を開いて中を確認した。すると、そこには病死、事故死、不審死の項目が有り、死者が日付順に記載されていた――




お読み頂き有難う御座いました。


次回もお楽しみに。

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