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初めてのチュウ。

 幼稚園の朝はとても忙しく慌ただしかった。保護者との挨拶や連絡事項の確認と共有まで、不慣れなめぐみは目が回った――


「幼稚園教諭とか保育士って、楽しそうに見えて結構、神経使うのね……ふうっ」


「ねぇ、ちょっと、高橋さん。慶矩さんには気を付けてね」


「あ……先輩。気を付けるって、何をですか?」


「さっき遊んであげてたでしょ? 気を許すとおっぱいモミモミ、お尻をペロンちょ、股間をウリウリ、必殺技は内緒のお話がしたいって顔を近づけると電光石火でチュウするからねっ!」


「えぇっ! とんでもないエロガキじゃないですかっ! まぁ、意識していないでしょうけどね。あはははっ」


 暫くすると、駐車場に入れ代わり立ち代わり保護者が送りにやって来て、園内は賑やか声が響き渡っていた。そして、お母さんと一緒に結菜が現れた――


「お早う御座います。今日も一日、よろしくお願い致します。結菜、きちんと先生の云う事を聞いて、良い子にしてねっ!」


「うんっ! あっ……ちがったぁ、はい。わかりましたっ!」


「結菜さん、良く出来ましたぁ。本当に可愛いですねぇ、うふふふふっ」


「それでは先生、よろしくお願いします。お迎えは何時も通りですから。失礼します」


 めぐみは結菜と手を繋いで教室に向かった。だが、長居をすればする程、ボロが出る事が分かっていたので、先輩からの情報を信じて授業になる前に早期解決を図った――


「結菜さんは良い子だから、先生が良い事を教えてあげようか?」


「うんっ! あっ……はい。せんせい、いいことって、なぁに?」


「秘密だよ、内緒だよ。どうしようかなぁ」


「せんせい、おせーて」


「じゃあ、耳を貸して。あのねぇ、園長先生の髪の毛の中にはぁ、ネズミさんと小鳥さんを飼っているんだよ」


「ほんとう? きゃはっ!」


「しぃ――――っ! 誰にも言わないでね。もしも、誰かに言ったり、この秘密を人に言うと、髪の毛の中からネズミさんが逃げ出して、小鳥さんが飛んで行ってしまうの」


「ネズミさんがにげて、ことりさんが、とんでいっちゃったら、どーなるの?」


「ネズミさんと小鳥さんはねぇ、悪い魔法使いから園長先生を守っているの。ネズミさんが逃げ出して、小鳥さんが飛んで行ってしまったら、悪い魔法使いが園長先生に魔法をかけて大きなクマさんに変えてしまうの。そしたら、みんな……食べられちゃうんだぞぉーっ!」


「うわぁー、ぜったい、ひみつにするっ。だから、せんせいも、ひみつにしてねっ。しぃ――っ!」


 めぐみはウインクをして指切りげんまんをすると、憑依していた高橋先生の身体から離脱した――


「これで準備は出来たよ。後は自動的にシローちゃんとチュウをして完了ね。うふふっ。スキル・アップしてスピード・アップ! こんなに簡単に解決出来るんて、今迄は何だったのかしら。うふふふっ、ルンルンッ!」



 喜多美神社は神聖な空気と静寂に包まれていた――


「お早う御座いまーすっ!」


「あら、めぐみさん。今日は一段と元気ねぇ、何か良い事でも有ったの?」


「ええ、ちょっと。あれ? どうしたんですか典子さん、お疲れモードですね」


「めぐみさん、典子さんはぁ、朝までゲームをやっていたんですよぉ。叱って下さいよぉ」


「だって、面白過ぎて止められなくなって……気が付いたら朝だったのよ。大祭が終わると魂が抜けた様な感覚になるのよねぇ……」


「ならないですよぉ、むしろ、魂が浄化されて軽くなったと言って下さいよぉ」


「あーっ、私の魂が穢れているって言いたいのね、何よ生意気ねっ!」


「まぁまぁ、大祭が無事に終える事が出来たのは偏に典子さんのお陰ですよ。神楽も紗耶香さんのお陰でとても評判が良かったですから。いやぁー、素晴らしい神社に素晴らしい人、素晴らしい人生の始まりなんですよっ!」


「めぐみさんが……神憑っている」



 多摩川幼稚園では、めぐみの計画通りに事が進んでいた。結菜が内緒話を友達にすると、その友達がまた次の友達に内緒話をするものだから、あっという間に拡散して行った。そして、遂に慶矩の耳に入り、結菜の番になった――


「ゆなちゃん、ないしょで、いいことを、おしえてあげるから、おみみをかして」


「うん、いいよ」


 内緒話が済んだ次の瞬間、慶矩の唇は結菜のお耳から、ほっぺを掠め唇にチュウをした――


 〝 チューッ、チュパッ! ″


「きゃはっ!」


「エヘヘへッ!」


 めぐみはケータイのベルが鳴ったので、竹林の中に入って確認をした――


 〝 おめでとうございます。あなたの計画は予定通り実行されました ″


「よっしゃ―—っ! ミッション・コンプリート! これが本当の朝飯前ねっ。やったぁー!」


 めぐみは上機嫌で一日の仕事を終えて帰宅をすると、レポートを仕上げていた。そして、する事も無ければ、当然、書く事も無いので直ぐに書き終えた。毎日、日報を書いていた日々に別れを告げ、簡潔明瞭に書き上げたレポートを神官に提出した――


「七海ちゃんが来る前に全てが終わっているなんて。あぁ、幸せ……」


 暫くすると、めぐみのケータイに神官から連絡が有り、めぐみは「お褒めの言葉」を頂戴する気満々でいた――


「あー、もしもし、めぐみです。スキルアップしてスピードアップしましたよっ!」


「はい。めぐみ様の計画通り、士郎慶矩ちゃんと藤島結菜ちゃんはチュウをしました。おめでとうございます……只、大変申し上げ辛いのですが……計画に誤りがありまして、シローちゃんは別にいます。ですので、レポートは返却しますので、明日から再び通常通りに任務の遂行をお願い致します。それでは私はこれで」


「えぇっ! スキルアップしてスピードアップしたつもりが、これが本当のあっぷあっぷだよ……どうしよう……シローちゃんは今何処……」


 めぐみは天の国から奈落の底に叩き落された様な気分になり、魂が抜けていた――




お読み頂き有難う御座いました。


次回もお楽しみに。

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