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君の名は。

 御本殿の中には既に一年の成果報告を済ませた八百万の神々が集まり、わいわいガヤガヤと賑やかだったが、天国主大神アメクニヌシノオオカミが来臨すると静まり返った――


「神は人の敬によりて威を増し、人は神の徳によりて運を添ふ。その言葉の通りに実践し、結果を残し、今年一番の功績を残した者は……」


三管、両絃、三鼓が鳴り響き、今か今かと一同が固唾を飲んで発表を待っていると、最後の太鼓が鳴った――


 〝 チ、チン、ドン、ドンッ! ″


縁結命エニシムスビノミコトです」


「うおぉ―――――――――っ!」


「えぇ―――――――っ!」


「何てことだ、信じられんっ!」


 御本殿の中は一時騒然となったが、天国主大神アメクニヌシノオオカミの御前と云う事も有り直ぐに静まり返った――


「いやいや、一番驚いているのは私なんですけど……」


縁結命エニシムスビノミコト様、さぁ、起立して前へどうぞ」


 めぐみは神官の案内に従い恐る恐る前に出て行くと、褒賞金と御札に目録が授与された。だが、賞賛の陰に嫉妬も有り、天国主大神アメクニヌシノオオカミが去ると御本殿中は響めいた――


「今年こそ、一番の座を獲得できたはずだったのに……小娘がっ、調子に乗るなよ!」


「地上でよろしくやっているなんて許せないっ!」


「結局、追放ではなく特別扱いじゃないかっ! お主ばかりが良い思いをして、ずるいぞっ!」


「まあまあ、皆さん、地上では色々な問題解決をしたのですから、褒めてあげて下さいませんか?」


「大体、地上で格闘しているのは、あなた達が問題を何百年もほったらかしにしたせいでしょうに」


「そーだよっ! 彼女は地上でたったひとりで、おめぇ―らの、尻拭いをしてんだろ―がっ!」


「手柄になったとたんに欲しがるなんて、卑しい根性は捨てなさいよっ!」


「あ、あの……皆さん。そんなに怒らないで下さい、地上で人間との縁が日々拡大していまして、私も神様なのか友達なのか分からない位で……」


「おうよ、縁結命エニシムスビノミコト、それが良かったんだよ。こいつ等みたいに上から目線で罰を当てるだけで、解決したフリをしてたんじゃぁ、埒が明かねぇっ! だから天国主大神アメクニヌシノオオカミが、お前さんを見込んだって訳だ。贔屓でも特別扱いでも何でもねぇんだよ」


「あ、はい。でも、私も……随分と上からだったんですけど、段々と人間が好きになって、それで……」


「神は人間の敬う心によって力を増し、人間は神の徳を頂いて運を開いて行く。そのご利益によって人間は更に敬い、好循環の中で神は力を増して行く……人間を愛して人間に愛されるなんて、最高じゃないか。君は素敵だね」


「えっ! あの……素敵だなんて、私は只、当然の事をしたまでですから……」


 突然めぐみの前に現れた、その男の言葉に八百万の神々は口を閉ざし姿を消した。そして、めぐみが拝殿を出て地上に戻ろうとした時に神官に呼び止められた――


縁結命エニシムスビノミコト様、目録の確認をお願い致します。通常、その中に新しい神力やら、今後の地上での任務の為の注意事項が入っておりますので」


「あっ、そう云う物なのですか? それでは……」


「ふむふむ、縁結命エニシムスビノミコト様。目録には弓、槍、帯刀の許可と、日報はレポートに、メールからホットラインでの連絡に変更、問題解決の為の呪文、地上の神との連携及び、天の神の力を借りる事の許可と有りますねぇ……」


「うーん、帯刀の許可って言わても、出来るだけ武器は使わない様にと心掛けていたのですが……それに呪文や連携って何だか大事になっていませんか?」


「より一層の御活躍を期待しての事だと思いますので、良かったではないですか」


「はぁ……そうだと良いんですけどぉ」


「それでは手続きが有りますので、私はこれで」


 すると「そっそそっそそっそそっそ」と足の音と「サシサシサシサシ」と衣擦れの音が聞こえ、双子の巫女がやって来た――


「まぁ、大賞を受賞するだなんてぇ、お見事ですわぁ。おめでとうございますぅ」


「いやぁ、照れるなぁ……あまり褒められるのに慣れていないので……」


「神様は見ているのですよぉ、私達もお力になれて光栄ですわぁ。うふふふ」


「ねぇ、照れると言えば、先程の男性はどなた? 八百万の神々が皆、口を閉ざすなんて、相当の力の持ち主の様だけど……」


縁結命エニシムスビノミコト様。あのお方は鹿島様ですよぉ。鹿島様の御子息の建御雷神タケミカヅチ様です。御存じ無かったのですかぁ? ちなみに武器は自由に持ち出せますのでぇ、何時でもどうぞ。うふふっ」


竹見和樹タケミカズキ……あんな素敵な人に『素敵だね』なんて言われて。恋する気分ってこんな感じなのかなぁ……ふぅ。これまで地上で使える呪文は限られた物だったけど、これからは問題可決の時短が課題ね」


 めぐみは地上生活のお陰で神様の名前を氏名に自動変換していた。そして、自分自身がスキルアップしている実感が無いまま地上に戻って行った――



――翌日


 神聖な空気と静寂に包まれた喜多美神社に大森文子がやって来て神恩感謝の参拝を済ませると、授与所にやって来た――


「こんにちは」


「あ、文子さんこんにちは」


「めぐみさん、あなたのお陰で縁談が纏まりましたよ。これでひと安心。本当に有難う。これからもお力を貸して下さいね。それでは皆さんごきげんよう。おーっほっほ」


「嫌と言わせないあの押しっ! 絶対に力を貸せって感じね」


「さりげなくぅ、優しく見せてぇ、実は強引なんですよぉ」


「まぁ、でも人の為に頑張っているのですから、良いじゃないですか」


「あら? めぐみさんは寛大ね。その様子なら、いつの日か東の横綱にも会うと思うけど心配要らないわね」


「ん? 西の横綱が狛江ばばあで、東の横綱は……」


「東の横綱はぁ、世田谷婦人って言うんですよぉ、謎多き女なんですよぉ」


「謎多き女ですか? 狛江はババアで世田谷は婦人だなんて、地域対立になりそうな呼び方ですけど……」


「あはは、そう言わてみればそうね。でも、見たまんまだから大丈夫よ」


 大祭を終え清々しい気持ちの典子と紗耶香と違い、めぐみはこれから先に何が待っているのか、心中穏やかでは無かった――






御読み頂き有難う御座います。


次回もお楽しみに。

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