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十三夜に曇り無し。

 喜多美神社に神輿が宮入すると、社殿前は多くの見物人と担ぎ手で大混雑して、熱気が溢れトランス状態になっていた。宮入後は木遣り歌が奉納され、御霊戻しの神事が行われて、その後は慌ただしくトラック山車は解体され、神輿は部品を外されて神輿蔵へ納められ、屋台の片付けも始まると、境内では直来の宴会が大いに盛り上がり、それは深夜近くまで続いた――


「はぁ、終わったわね。ふたり共、お疲れ様でした」


「もう、テンション上がり過ぎてぇ、疲れがぁ、ドッと出るんですよぉ」


「一瞬で真っ暗闇に包まれて……石灯篭の明かりだけになった参道を見ていると、さっきまでの賑わいと、あの熱気がまるで幻の様ですね」


 祭りが終わり、三人の巫女は寝静まった夜の街を秋の夜風にあたりながら帰って行った――



――翌日 十八日 先負 己亥


 お見合い当日、文子にこってり絞られた菜月の両親も上京して出席する事になり、両家が揃い正式なお見合いになった――


「本日、仲人を務めさせて頂きます、大森文子で御座います。よろしくお願い致します」


 文子の采配で両家の紹介が終わると、菜月の両親が話し始めた――


「文子さんが、わざわざ新幹線で家まで来てくれたお陰で目が覚めました」


「娘が主人と私の人生の犠牲になっていた事に気付かされました。本当に有難う御座いました」


「親として、恥ずかしい限りです。菜月、すまなかったね」


「もう良いじゃないですか。分かって貰えて良かったわねぇ、菜月さん」


 皆の前で謝罪をすると、蟠りがとけて心が軽くなり、菜月の目に光るものが有った――


「まぁまぁ、どんな人も生きていれば無傷ではいられませんよ」


「無傷どころか、家の近所には計画倒産して偽装離婚してのうのうと暮らしている人が居ますからね。国のお偉いさんが不正受給する時代ですよ」


「美佐江、言葉が過ぎるぞ」


「何よっ! あなたにはもっと野心を持って頂きたいです」


「黒田家の皆さん、これが我が家の日常で御座います」


「もう、一輝さんたらっ、うふふふっ」


「あーはっはっはは」「おーっほっほ」「うふふふっ」


 菜月の笑いを切っ掛けに一同が笑い出して、場の空気が和んだ――


「生きていれば色んな事が有りますよ。人間万事塞翁が馬と言うじゃないですか」


「そうですよ。それよりも此れからの方が大事ですよ」



 色とりどりの料理に舌鼓を打ち、いよいよ御両人の話題になると、何時もならフォローをしたり話題の提供をして、お節介ババアの真骨頂を発揮するのだが、一輝と菜月は既に唇を重ね、心がひとつになっていたので、会話はひとりでに弾んでいた――


 暫くしてふたりの会話が途切れると、文子は静かに立ち上がり、正しい作法で障子を開けると照明を暗くした――


「今夜は十三夜。十三夜の月は満月になる前なので少し欠けていて、満月の様に完璧ではないけれど……欠けた月も美しいと称えるところに、昔の日本人の豊かな感性を感じますねぇ。人間も同じ、完璧な人なんて居ません。だから、一輝さん、菜月さん。お互いの足りない所を補い、助け合って満月の様な円満な家庭を築いて下さいね」


「はいっ!」


 ふたりが声を揃えて返事をすると、文子はゆっくり頷き満面の笑顔になった――


「十三夜に曇り無し! おーっほっほ、おーっほっほっほっほ」


 お節介によるお見合いは、両家の喜びの笑顔の中で無事に終える事が出来た。皆を見送り、ひとり佇む文子を十三夜の月が優しく見守っていた――



 〝 ピンポーン、ピンポーン ″


「めぐみ姉ちゃん、ただいま……」


「お帰り。七海ちゃん遅かったね。あれ、どうしたの? 今日は元気無いね」


「うん、元気が無いのよー、ってか、昨日の神輿で元気を出し切って、魂が抜けて、肩が腫れて、全身筋肉痛なんよー」


「なーんだ、そんな事か。ゆっくりお風呂にでも入って、マッサージしてあげるから」


「うん。あんがと」


 ふたりで湯船に浸かり、体を温めると石鹸を付けて揉み解し、風呂上がりに正しい作法でコーヒー牛乳を飲むとベッドでマッサージをした――


「ほえぇぇー、気持ち良い……楽になったよ、極楽極楽。何だか風俗に通うオッサンの気分だお」


「へぇ―、七海ちゃん風俗に行った事有るんだ。今度、私も行ってみようかなっ!」


「行った事有る訳ねーしっ! 言い方間違えたっつーか、エステだおっ! エステっ!」


「エステって言う風俗店が良いって事ね。分かった」


「ヤベぇなぁ、めぐみ姉ちゃん。あのね、風俗とエステは似て非なる物っつーか、似てねーしっ! 風俗って言うのは……」


「えぇ―、うっそぉー、やぁだぁー、ほんとにぃー」


 七海がこっそり教えてくれた内容に驚いていると、神官からメールの返信が有った――


「あれ、縁結びは昨日のキスで完了したはずだけど? まだ、何か?」


縁結命エニシムスビノミコト様。昨日の件で天国主大神アメクニヌシノオオカミ様が大変お喜びで、直々に褒美を授けるそうです。早めに天の国にお戻り下さい」


「おやおや、良い事も有るものね。直々に褒美だなんて……」



 めぐみは七海を送って行くと、直ぐに軌道エレベーターに乗って天の国に戻った――


「お帰りなさいませ。縁結命エニシムスビノミコト様。さぁ、どうぞ此方へ」


「まぁ、随分賑やかだと思えば……神在月で全員集合って事ね」


「地上も天の国も『縁結び会義』で大忙しで御座います」


 拝殿に昇殿し御本殿に向うと「どうっ」と風が吹いて白い雲に覆われた――







御読み頂き有難う御座います。


次回もお楽しみに。

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