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お面でゴメンね。

 めぐみはお見合いの前にふたりの心をひとつにしようと、神様が神輿に乗って出って行った神社で縁結びをする計画だった――


「これは不味いなぁ……お節介ババアが余計な真似をして『あーら、おふたりさん仲が良い事。おーっほっほ』なんて言おう物なら、再びふたりの心は殻に閉じ籠ってしまうかも知れないし、父上にお見合いの前に発見されたら『これは一体どう云う事だ? お前達はどう云う関係だっ!』と問い質される事は必至。何としても避けなければならないわ」


 文子と重信が鳥居をくぐり参道に入って来しまったので、めぐみは覚悟を決めて指笛を吹いた――


 〝 ヒュイ――ッ! ″


 すると、向かい合う狛犬が向きを変え文子と重信をギロリと見据えると、石の様に固まり、ふたりの時間が止まった――


「おじさんっ! これと、このお面を下さい」


 〝 ヒュイ――ッ! ″


 再びふたりの時間が動き出すと、めぐみは里神楽を静かに見学している一輝と菜月の元へ走って行った――


「ふたり共、冷静に聞いて下さいね、間も無く文子さんと重信さんが此処に来ますから、見つからない様にお面を被って顔を隠して下さいっ! さぁ、早くっ!」


「分かりました、頃合いを見て此処を離れますからっ!」


 ふたりがお面を被って顔を隠すと、直ぐに文子と重信がやって来た――


「いつ見ても里神楽は良いわねぇ、不思議なんだけど心が穏やかになる様な気がするのよ」


「文子さんもそうですか。日々の生活の中で、何か忘れていた物を思い出させてくれる気がしますよ。宮入り前は落ち着いて見られるから良いんだよなぁ、時を忘れますよ」


「重信さんたら、思い出したり忘れたり、忙しいわねぇ。おーっほっほ」


「本当だ、あっはっは」


 文子は里神楽を見学しているお面のふたりに気付いた――


「あら? 嫌だ、お二人さん、ご苦労様です」


 めぐみは焦り、一輝と菜月はバレたと思い落胆したが、そのお面は地域起こしの為に企画された戦隊ヒーローの物だった――


「重信さん、多摩川戦隊狛江レンジャーの狛江レッドと狛江ピンクが揃って見学しているわよ。おほほ」


「あぁ、お祭りに営業とはご苦労さんっ! 地域を盛り上げてくれて有難うっ!」


 ふたりが全く気付いて居なかったので、ホッとすると、一輝は勇気を出して菜月の手を取って立ち上がり、その場を離れた――


「ふぅ、バレたかと思いましたよ……」


「私もです、うふふふ」


「あはははは」


 手を繋ぎ、見つめ合う二人の姿を見て、めぐみは安堵した――


『良し良し、良い感じだよ。うふふっ』


「菜月さん……あ、あのぉ……」


「一輝さん……」


「……………………」


『見つめ合っていないで何か言えって!』


「…………射的でもどうですか?」


「はいっ!」


『やるんかーいっ!』



 ふたりは射的に金魚すくいに人形釣りをしてタコ焼きを買うと、喜多美神社を後にして多摩川に向っていた――


「あの、一輝さん。宮入りに居なくて良かったんですか?」


「あぁ、父が居るから良いんですよ。元々、僕は縁日とかお祭りと縁が無い人間なんですよ」


「そうですよね、一輝さんは読書ばかりですものね。ウチのお店であれだけ本を買う人なんて、数える程しか居ませんから……」


「菜月さんは縁日とか、好きですか?」


「嫌いじゃないです。と言っても、誘ってくれる人も居ないですし……幼い頃、父と母に連れられて行った記憶が有るだけなんですけど……」


「そうですか。ねぇ、菜月さん。僕は昆虫や野鳥の本を買うでしょ? でも、一度も昆虫採集やバード・ウォッチングをした事が無いんですよ」


「えぇ、そうなんですか? 私はてっきり研究でもされているのかと思っていました。うふふっ」


「あはは、そうでしょ。でも、何故だか分かりますか?」


「え?……何故って?」


「本を見て満足してしまっているんです」


「……………………」


「菜月さんの事も、出会った時からずっと好きだったんですっ!」


「えっ!」


「見て満足していては駄目だって、分かっていたんですけど、きっかけが掴めなくて。だから、もう、見ているだけなんて止めますっ! 僕が誘ったら縁日や昆虫採集やバード・ウォッチングに一緒に行ってくれますか?」


「はいっ! 私で良ければ……」


 菜月は頷いた後、勇気を出して文子にカミングアウトをした事や家族の事を全て打ち明けた――



「カミングアウトがセーフだなんて、文子おばさんらしいなぁ。あっはっは」


「『あたぼうよっ』なんて言われて、私も驚きました」


「あたぼうだなんて、面白いなぁ。でも、お見合い写真の中に菜月さんが居たのは本当に驚きましたよ」


「一輝さん、巫女さんに言われたのですけど、あの胡桃が割れた時に願い事が叶うって……」


「えぇ。明日のお見合いが楽しみになって来ましたよ」


「あのぉ、でも……」


「何か問題でも?」


「もう、お面を取りませんか?」


「あっ! そうですね。お面を被っていた方が話し易かったので……つい」


「私もです。素顔の方が、言いたい事が言えないなんて……変ですよね?」


「そうですね。あはははは――」


 ふたりの笑い声が夜空に溶けて行き――


 お面を取ったふたりが見つめ合うと――


 どちらからともなく近付いてキスをした――


 多摩川の水面に月が映り込みキラキラと輝いて――


 ふたつのお面が静かに流れて行った――




御読み頂き有難う御座います。


次回もお楽しみに。

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