表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/470

祭り囃子に誘われて。

 喜多美神社の宵宮は美しく妖しく―― 


 温かい優しさに包まれていた――


「あの、巫女さん……この間は有難う御座いました」


「あぁ、一輝さん今晩は。お父さん大した事が無くて良かったですね」


「はい。御心配をお掛けしました。あっ、いえ、その事では無くて……御守りの事です」


「あぁ、あの御守りがどうかしましたか?」


「同じ御守りを持った人と出会ったら絡みついてしまい、外そうと引っ張っると胡桃が割れて……赤い紐が解けるかと思ったのですが、ひとりでに絡んで結ぶとフッと消えたんですよっ!」


「まぁっ! 良かったじゃないですかっ! きっと、願い事が叶いますよっ!」


「その願い事の事なんですが……長年、探し続けて見つからなかった本が手に入ったので、てっきりその事だと思っていたのです。ところが、突然、縁談の話が有りまして……お相手の写真を見たら、探し続けた本を持って来てくれた女性なんですよっ! 僕が慕い続けた、その人だったんですよっ! なんだか盆と正月がいっぺんに来た様な……」


「今は秋、お盆は過ぎたし、正月はまだ先。うふふっ。でも、探し求めていた物が両方手に入るなんて喜ばしい事です。正に実りの秋ですね」


「いえ……まだ手に入ったわけでは有りません。同じ御守りを持っていた彼女が、僕と同じ願いだったら……って事ですよね?」


「心配しなくても大丈夫だと思いますよ。あの御守りは強力なので。うふふふっ」



 テンツク テケツク テンツク ツ チン チチン チン チキ チ ドンドン ドコドン ドコドコ ドン ドン オッピキ ピ ッピッ ピーヒヤララ オッピキ ピ ッピッ ピーヒヤララ


 お囃子の音色に誘われて、近所から大勢の人が訪れると、楽しそうな笑い声がそこかしこから聞こえ、神様と人間の深い繋がりを肌で感じた――


「典子さん、お囃子って良いですねぇ」


「本当……いつの間にか心が踊り出して、浮足立ってしまうと云うか……アナザーワールドに誘われる感じがするのよね」


「お囃子ってぇ、元祖、トランスミュージックなんですよぉ、心のバリアが外れるんですよぉ。だからぁ、典子さん集中して下さいよぉ」


「そうね、祭礼は九時半からで、社殿前で国歌斉唱と日の丸掲揚でしょ。忠魂碑、戦没者慰霊碑の前を通って、そして祓戸で修祓を行って、それから、神前舞ね。紗耶香さんっ!」


「分かってますよぉ、だから集中しているんですよぉ」


「十二時前に太鼓のお祓いをして、十二時に太鼓の宮出し。十二時半頃に神輿が上がって宮出しで、神輿渡御と。神輿が戻って来るのは六時過ぎだから、それ迄に色々準備もしなきゃね。神楽殿で神楽の舞いが始まって、直来の宴会が始まればゴールは見えた様な物よ」


「あれ? 典子さん、紗耶香さん、縁日はどうなるの?」


「あぁ、参道を出た後だから、慌ただしいのよねぇ。ホッと一息ついた頃には撤収して居るから」


「縁日を楽しむ余裕なんてぇ、一切、御座いませんっ!」


「あぁ、縁日を楽しめる日が……私には来るのだろうか……ぐっすん」



 テンツク テケツク テンツク ツ チン チチン チン チキ チ ドンドン ドコドン ドコドコ ドン ドン オッピキ ピ ッピッ ピーヒヤララ オッピキ ピ ッピッ ピーヒヤララ



―― 十七日 友引 戊戌 大祭の日 ―― 


「はぁ―、良い天気っ! 清々しいですね」


「私達のぉ、日頃の行いがぁ、良いって事なんですよぉ」


「神様のお力よ。ふたり共、神前舞の準備は良い? さぁ、地の精霊を圧服するわよっ! 世田谷区の無形民俗文化財に指定されているのだから確りねっ!」


「もう、プレシャー掛けないで下さいよぉ」



 神前舞は五座で構成され、一座が奉幣の舞、二座が榊の舞、三座が舞扇、四座が弓の舞、五座が太刀の舞で、社殿の中を東西南北に移動し、四方固めを行い、無事に終える事が出来た――


「紗耶香さん、良かったわよ」


「何故だかぁ、身体がひとりでにぃ、動いたような感じだったんですよぉ」


「それで良かったんですよ。うふふふっ」



 神前舞いを終えると、大勢の神輿の担ぎ手達が集まっていた――


「めぐみさんっ! 久しぶりっ!」「お久しぶりです」「こんにちは」


「あっ! 総長……じゃなくて美織さん。お久しぶりです。耕太さんに、栞ちゃん、つかさちゃん しおんちゃんに崇介君まで、皆お揃いですねっ! うふふっ」


「ちょっと―っ! 肝心な人を忘れてませんかっ!」


「えーっと、どちら様でしたっけ?」


「あっシだよっ! あっシ、七海だっつーのっ!」


「いやぁ―っ、七海ちゃん? 半纏なんか着て、まるで別人だよ。髪型も決まっているじゃないっ! 皆で神輿を担ぐのねっ!」


「そーゆー事っ! 栞ちゃん達は太鼓のお祓いが終わったら一足先に出発だけどね。めぐみ姉ちゃんも今日は特別に綺麗だお、なんか神憑っている感じがする」


「そりゃあそうよ、私は神様ですから。あははは」



 太鼓の宮出しの後、御霊遷し、発輿祭、祝詞奏上、木遣り奉納が行われ、神輿ダコが盛り上がった担ぎ手達が神輿を上げると、ありとあらゆる雑念が消え、宮出しとなった――


「セイヤッ!セイヤッ!セイヤッ!」「セイヤッ!セイヤッ!セイヤッ!」「セイヤッ!セイヤッ!セイヤッ!」「セイヤッ!セイヤッ!セイヤッ!」


 お囃子用のトラック山車が先導して、神輿渡御に人が出て行くと、縁日の準備が始まった――




御読み頂き有難う御座います。


次回もお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ