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写真の中の君の名は?

 一輝はリビングでコーヒーを飲むと、部屋に戻って読書を続けるつもりだった。だが、シウマイ弁当の臭いがそれを許さなかった――


「病院でサンドイッチだけだったからなぁ、この臭いは我慢出来ないよ。文子おばさんは胃袋を掴むのが上手いよ……うーんっ、旨い。やはりシウマイはコレッ! 決定版だな」


 シウマイ弁当をペロッと平らげると、読書を続けようとしたが、気が散ってしまったので食休みも兼ねてお見合い写真を眺める事にした――


「さぁて、今度はどんな人だろう?」


 お見合い写真を開くと、そこには慕い続けた菜月の姿が有った――


「えぇ――っ! 黒田さん? 菜月さん……って言うんだ、可愛い名前だなぁ……しかし、慕い続けた人が、お見合い写真の中に居るなんて……こんな、こんな事が有るなんて……」


 〝 その堅い胡桃が割れた時、願いが叶うと言われています ”


「うわぁっ! 何か声が聞こえたけど、気のせいだよな? 願いが叶うって、もしかして、この本の事ではなくて……恋人が出来るって事? 結婚するって事なのか?」

 


 めぐみは前夜祭の準備を終え、帰宅をすると、何時もの様に日報を書いて神官に送った――


「後は若いおふたりに お・ま・か・せ、おーっほっほって事で、よろしく。うふふっ」


「ピンポーン、ピンポーン、めぐみ姉ちゃん、ただいまっ!」


「お帰り。七海ちゃん早かったね。今日は泊って行く?」


「うん、母ちゃんに許可を貰ってからっ!」


 めぐみがお風呂の準備をしていると、七海はテレビの前に陣取って、番組が始まるのを待っていた―― 



〝 テレビの前の全国の視聴者の皆さん、今晩は。美容家のイッケイです。毎週、最新の美容情報をお伝えする『イッケイのビューティフル・ライフ』本日もどうぞよろしくお願い致します。ラインナップは若見えの真実! 間違いだらけのアンチエイジング。御馴染み、お出掛けワンランク・アップ・コーデのコーナーは目先のコスパより、本当のコスパでぇーすっ! どうぞご覧下さい ″



〝 若く見える人と、そうでない人の違いは―――― 艶ですっっ! ″


〝 おぉぉ――――――――――っ! ″


「殆どお約束だなぁ、おいっ! こればかりだと……そりゃあ視聴率も下がるよ」


「黙っててよー、あっシは観てんのっ!」


〝 視聴者の皆様、最近、劣化とかババアとか、汚い言葉で罵る人が多いですよね? でもぉ―、歳を重ねる事はいけない事でしょうか? 違いますよね? ″


〝 んん――――――――――んっ! ″


〝 良いですか? 最近、若見えを若作りと勘違いしたり、アンチエイジングで年齢詐称みたいな事をして喜んでいる人が居ますが、全く違いますのでっ! 大人のメイクと装いは―、歳を重ねた美しさっ! 若者には真似出来ない、成熟した大人の女性の美しさを表現する事なのですっ! ″


〝 艶は有るけど張りが無い、張りは有るけど艶が無いとお悩みの皆様。そこで、艶と同時に『張り』を手に入れる事が出来る、コリャリッチEXなんですねぇ ″


〝 おぉぉ――――――――――っ! パチパチパチパチパチパチパチパチ ″



「なるほど、ババアを逆手に取ってババアの視聴者を獲得するって魂胆かぁ。上手い事やりやがったなぁ。流石イッケイさんだぁ」


「もう、真面目に観てんだっつーの!」



〝 秋のお出掛け。皆さん如何ですか? 朝晩は冷え込むようになりましたから、温度調整の出来るミッドレイヤー? ダメですっ! 結局、着膨れしておばさん感が出てしまい、良くありませんね。ファストファッションの高機能アンダーウエア? それも良いでしょうけど、やはり若者では有りませんから、大人の女性がヒート何とかを着ていてたら、単にババ臭いだけですよね。大人の女性はドレスアップしなければいけないシーンが有りますよね? そんな時にお薦めなのが、この最高級カシミアのセーターです。良い物を、長く使う事が本当のコスパなのですよー ″


〝 おぉ――――――――っ! ″


「ババアを肯定しつつ、ババアを否定し、ババアと言うワードを巧みに使い、いつの間にかババアを虜にしているっ! 恐るべし……三宅一慶!」


「そーゆー事、それがイッケイ・マッジックなんよっ!」


〝 これは、お色の発色も素晴らしいですけど、生地の厚みが全然違いますね? ″


〝 最近では、本当に良い品物に触れる機会も減りましたが、本物のカシミアは軽くて保温性が高く、こんなに素晴らしいのです。そして、今回、特別にこの毛足の長いモヘアのセーターもメーカーの御厚意でお付けしまーすっ! ”


〝 おぉ――――――――っ! ″


〝 でも、お高いんでしょう? ″


〝 メーカー希望小売価格、税込み九万七千円のところ……この番組を見ている方に限り…… ″


〝 限り――ぃ? ″


〝 三万九千八百円で――すっ! ″


〝 おぉ――――――――っ! パチパチパチパチパチパチパチパチ ″


〝 さあ、今なら送料無料! 毛足の長いモヘアのセーターも付いてぇー、更に『コーディネイト・バイブル、イッケイのこれでオッケイ』も差し上げま―――す! お電話お待ちしておりま―――すっ! ″


「めぐみ姉ちゃん、電話、電話!」


「七海ちゃんはまだ若いんだから、ヒート何とかで何とかしなさいよ。しょうがないわね……あっ、もしもし、はい、ええ、はい、そうです。サックス・ブルーで、はい、あー、ライラックで、私はボルドーと、そうだなぁ……ダーク・ブラウンで、おなしゃ――すっ」


「買うんか―いっ!」



 テレビを観終えると、ふたりでお風呂に入り、湯上りにコーヒー牛乳を正しい作法で飲んだ――


「ふぅ――っ、ん旨いっ!」


「めぐみ姉ちゃん、明日は早いんでしょ? サッサと歯を磨いて寝たら?」


「前夜祭のその前夜に、やる事が有るのよんっ!」


 パソコンをチェックすると神官から返信が有り「胡桃が割れて、殻に閉じ込めていたふたりの心が解放されました。全ては順調に進んでおります」との事だった――


「ふむふむ、これでひと安心ね。歯を磨いて、ゆっくり寝るとしよう」


 虫の音が聞こえる秋の夜は長かった――



御読み頂き有難う御座います。


次回もお楽しみに。

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