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迷子になって幸せと出会う。

 菜月は既に仕事を終えて帰宅していた為、レジには居なかった。そして店長が会計をしながら、本を探し始めた――


「あのぉ、どうかしましたか?」


「お待たせしてすみません。えっと、田中様に御注文を頂いていた本が入荷したと思ったのですが……担当の黒田がたった今、すれ違いで帰ってしまったものですから……」


「あれっ? この間、その黒田さんから『無理です』って言われたのですが……」 


「いえいえ、そんな事は無いと思いますよ……午後に入荷して……先程、田中様のケータイに入荷連絡をしたと思いましたが?」


 一輝は病院でケータイの電源を切っていたので、慌てて電源を入れると、着信がある事を確認した――


「あー本当だ。病院に居たので分かりませんでしたよ。入荷した事が分かれば今日はこれだけで良いですよ、又、明日にでも取りに来ますから」


「そうですかー、すみません、そうして頂けると助かりますよ。有難う御座いました」



 菜月は注文票の住所に届けるために本を持ち出していた。連絡ボードにそう書いておいたのだが、店長は全く気が付かなかった。一度は断った縁談だが、文子の言葉に勇気付けられ本を直接手渡す時に、お見合いをしたいと申し出るつもりでいた――


「あれ? 何処だろう……この辺のはずなんだけど……ケータイの地図で住所を確認して来たのに、このお家は違うし……」


 菜月はすっかり迷子になってしまい、一輝の家の周りをウロウロしていた――


「困ったなぁ……仕方ない、田中様に連絡して、直接、場所を教えて貰うしかないか……」


 一輝は帰宅途中で突然ケータイが鳴り、画面を見ると非通知だったので、切ろうとした――


 〝 ドスンッ ”


「きゃっ!」


「危ないっ!」


 路地から出て来た迷子の菜月と出合い頭にぶつかって、転びそうになった菜月の身体を支えた――


「大丈夫ですかっ! すみません、歩きながらケータイを……あれ? 黒田さん? 黒田さんじゃないですか、こんな所で会うなんて……」


「あ、大丈夫です。あの、あの、御注文の本をお渡しに来たんですけど……迷子になってしまって」


「わざわざ届けて頂かなくても、明日で良かったのに」


「あ、でも、ずっと探していましたよね? だから、早くお渡ししたいと思いまして……」


 ふたりが落ち着きを取り戻し、落としたケータイを拾おうとすると、互いのケータイに付けた御守りに気が付いた――


「あれ? 黒田さんもこの御守りを?」


「あっ、それは喜多美神社で授かった物ですっ!」


「そうですか、僕もですよ。奇遇だな……あれ?」


「どうかしましたか?」


「すみません、この赤い紐が絡まって……胡桃が食い込んで取れないのです、んぐっ」


「私も手伝います」


 ふたりが向かい合い、絡んだ赤い紐を外そうと躍起になり、互いの手が触れ、見つめ合ったその時だった。ケータイの画面が眩しい程に白く輝き『シャリ――ンッ!』と、神楽鈴の音が夜の住宅街に響き渡たった――――


「うわっ!」


「きゃっ!」


「あっ……胡桃が割れましたよ。これで外れますよ」


「本当だ……良かったぁ」


 お互いにケータイを引っ張り合うと、堅い胡桃が割れて、解けて緩んだはずの紐が、くるくるっと絡んで巻き付いて、奇麗な結び目になるとフッと消えてしまった――


「あれ? 消えちゃった? どうして? なんで? 胡桃が割れた時、願いが叶うと言われましたけど……不思議な事が有るものですね……」


「ええ……」


 ふたりは茫然として言葉を失った。そして、沈黙を破ったのは菜月だった――


「あのぉ、一輝さん、この間は、無理だなんて言ってしまいましたけど、撤回しますっ! 大丈夫です私。大丈夫なんです」


「あぁっ、そんな事は気にしていません、でも、良かったですよ、本当に。有難う御座います」

 

 菜月はお見合いの話を、一輝は本の話をしたつもりだった――


「こちらが、御注文の本です」


「どうも有難うっ! 御守りの御利益があった! いやぁ―、念願叶って、やっと手に入りましたよ。」



 菜月は代金を持って本屋に戻り、一輝は帰宅をすると、早速、部屋で読書に耽っていた――


「今晩は。大森です、大森文子です」


「あらっ、文子さん、いらっしゃい。心配お掛けして、すみませんねぇ。わざわざ来て頂かなくても良かったのに」


「美佐江さん、夜分遅くに御免なさいねぇ、どうしても、今夜中に話しておきたかったもので。おーっほっほ」


 文子と美佐江は、リビングで滋賀県のお土産を摘まみながらお茶を飲んで談笑していた――


「あ、文子おばさん、いらっしゃい。父が検査入院になって、心配掛けてすみません」


「ほらねっ、うふふふっ、違うのよ―、文子さんが来たのは、お父さんの事じゃなくて、あなたの事なんだって」


「えっ? 僕の事? 又、お見合いですかぁ……いやぁ……」


「あらっ、一輝さん、今日は良いお話を持って来たわよー。今日のは本当に良いお話だからっ! 間違い無いから。ねっ!」


「あー、分かりました。後で見ておきますから……」


「お日にちはそうねぇ、ふーん、十月十八日にしましょう」


「えぇっ! 大祭の翌日じゃないですか……代役も土日だから引き受けただけで、平日は仕事が有るので、ちょっと……無理かなぁ……あはは」


「休むのが大変なのは分かっていますよ。仕事が終わってからで良いのよ。只、あまり遅くなると、困るのよねぇ」


「あなた、今日だって早退したんだし、月曜日も父の付き添いが有るからとか、何とでも言えるでしょう? せっかく大森さんが良い話を持って来てくれたのに、失礼よ」


「そんな、良い加減な事を言わないでくれよっ、無責任だよ……」


「一輝さん、良いお話だから、ゆっくり考えてみてちょうだい。ねっ、おほほほ」


 文子はお見合い写真と一緒に、一輝の好物のシウマイ弁当を渡した――

御読み頂き有難う御座います。


次回もお楽しみに。

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