大都市ウルプス
カインを乗せた馬車は、大都市ウルプスへ向かった。
「カイン、着きましたぜ。ここが、大都市『ウルプス』です。」
行商がそう言うと、馬車が動きを止めた。俺は、馬車の動きが止まった後、馬車の窓から顔を出し、前方向を確認した。
今までに見たこともないような大きな門。その門の前には、重装備の兵士が二人、それぞれ門の両端に足っている。おそらくあの二人の兵士は門番なのだろう。
二人の兵士の他には、いかにも都市の職員というような格好をした者が数人いる。その職員達は、前にいる馬車の中を確認しているように見える。何をしているのだろうか?
「カイン。あれは検問ですよ。都市に入るものは皆、あの職員のチェックを受けることになっているんですよ。このチェックがあるお陰で、この都市はある程度治安が保たれているんです。」
俺が質問をする前に、行商は説明をしてきた。多分俺が不安そうな表情をしていたからだろう。何が起こっているのか分かると、確かに不安は小さくなった。
「カイン。身分証は持っていますよね。職員のチェックの時に出してください。出入りする人間の管理が、この都市ではかなり重要視されているんです。身分証が無い者は、都市に入ることが出来ないんですよ。」
行商に言われて、俺は身分証を出して、検問を待つことにした。だが俺は、身分証を他人に見せることに物凄い抵抗があるんだ。この世界の身分証には、機械による読み取り機能が付いているんだが、機械で読み取った際に、成長素質の表示もしてしまうのだ。そうなると、この俺の成長素質、オール1であることが、他人にばれてしまう。このオール1は、間違いなく世界最弱。俺の地元の者達は、オール1の俺のことを物凄い哀れみの目で見ていた。俺には、それが耐えられなかった。ここでも、成長素質がオール1ということがばれたら、同じような目に合うのは確実。だが、身分証を見せないことにはこの都市に入ることができないのだ。
俺がそう考えているうちに、検問の職員が俺達が乗っている馬車にやって来た。俺は、検問の職員に身分証を見せた。職員は機械に身分証を通すと、俺にすぐに身分証を返してきた。機械で身分証のデータを見ないのだろうか?俺は不思議そうな表情をしていたのだろうか、検問の職員は答えるように俺に喋ってきた。
「ああ、これは、あくまでもチェックにすぎない。一人一人細かく確認していたら、いくら時間があっても足りないからな。それだと、都市の治安はどうなるかって?それは問題ない。過去にたいほれきがある者の身分証だと、機械が読み取ったらアラームが鳴るからな。あんたはアラームが鳴らなかった。ここでは、それでオッケーなんだ。」
検問がそう言うと、行商に進んで言いとジェスチャーをした。それを受けて、馬車はゆっくりと進みだした。大きな門をくぐる際に、またもや俺はこの都市の門に驚いた。
さっきは門の大きさに驚いたのだが、今は門の厚さに驚いた。かなり、やりすぎと言えるほど重厚。どんな攻撃を受けても壊される心配はない。いったい、何を想定して建築したのだろうか?
「カイン、門を見て驚きましたか。門だけではないでよ。この都市は、この門と同等かそれ以上の強度を持つ壁で囲まれているんですよ。まあ、私には、この都市自体が一つの大きな要塞みたいに見えますね。」
行商の説明を聞いて、確かに、と思った。こんな頑丈な壁で都市全体を囲むなんて、何のためなんだろうか。ものすごく興味がある。ああ、やはり、外へ出てきて正解だった。都市に着いただけでこの発見。これからも、どんどんと新しい発見があるだろう。その度に驚くようなことも知っていくことになるだろう。楽しみだ。
だが、両親には、黙って出てきて申し訳ないことをした。きっと両親は、成長素質がオール1であるこよ俺が、何かのトラブルにあってすぐに命を落としてしまうことを心配しているのだろう。その点は、俺も同じだ。
それでも俺は、冒険者になりたい。冒険者とは、世界各地を転々としながら、各地にある冒険者ギルドに集まった依頼、言い換えるとクエストを達成することで、富や名声を得ている。過去には、莫大な富や名声を手にいれた冒険者が、国を造ったということもあると聞く。なんと素晴らしいことだろうか。身分が高くないものでも、国の王になることが出来るのだ。これは、誰でも王になるチャンスがあるということになる。生まれや身分で一生が決まることはないんだ。おれは、冒険者ギルドが発行している新聞を見てその事実を知った時、物凄く興奮したのだ。
誰にでも王になるチャンスがあるということは、この俺にもチャンスがあるということ。だから俺も、冒険者になりたい。成長素質がオール1の俺には無理な事だと地元の奴にも何度も言われてきた。実際、その通りだと思う。
でも、こんな俺にも冒険者としてやっていける希望はあるんだ。それは、俺が持っている裏スキルだ。神官が言うには、裏スキルを複数持っているのは非常に珍しいことらしい。俺は、その裏スキルを4つも持っているんだ。ただし、今の時点で分かっているのは、自分自身の裏スキルを確認出来ると言うことだけ。残りの3つのうち2つは、俺のレベルが2に上がらないと確認できない。もう1つは、レベルが2にならないと発動しないのだ。つまりは、レベルが2に上がらないことには、何もならないということ。
問題は、どうやってレベル2に上がるのか、ということだ。この世界では、レベルを上げるには、一般的にモンスターを倒すしかないのだ。成長素質がオール1の俺では、現在のHPも1しかないので、モンスターと戦うことは自殺行為に等しい。ということは、モンスターを倒すことは無理だ。それでは、俺はレベルを2にすることなど不可能なんだ。
でも、俺は諦めたくないんだ。何故なら、レベルを上げには一般的に、モンスターを倒すしかない、とは言われているが、あくまでも『一般的に』ということ。つまりは、他にも方法はあるということなんだ。おれは、それに賭けてみることにしたんだ。だけど、モンスターを倒すこと以外にレベルを上げる方法なんて、分かるはずない。
分からないのなら、専門の者に聞いてみればいいのだ。冒険者ギルドの職員ならば、他の方法も知っているはずだ。そこで、レベルを上げる方法を聞き出し、なんとしてもレベルを2に上げて裏スキルを確認する。全てはそこから始まるんだ。
「着きましたよ。冒険者ギルドです。でも、カイン。本当に冒険者になるんですか?私も知ってますよ。カインの成長素質はオール1なんですよね。絶対にやめた方がいいですよ。きっと、両親や村の方達も心配してます。」
冒険者ギルドの前に来たというのに、行商までもが、俺が冒険者になることを反対している。そんな行商の目は、まるで死にに行く者を見ていようだった。俺は、その目が嫌だったんだ。確かにずっと村にいれば危険はない。だが、そういう目で俺を見てほしくない。だから俺は村を出たんだ。絶対にレベルを2に上げて、裏スキルを確認してやる。
きっと、俺の成長素質がオール1なのには、理由があるはずなんだ。それは、裏スキルに原因があると思う。裏スキルがあまりにも優秀すぎるせいで、俺の成長素質がオール1に制限されているんだ。つまりは、成長素質がオール1でも、裏スキルを使えば強くなれる。冒険者としても成功できるということなんだ。
「大丈夫だ。俺は、死なない。冒険者として、しっかりと生きていくよ。ここまで送ってくれて、ありがとう。」
俺は行商にそう返事をして、馬車の中から自分の荷物を出した。
「カイン。そこまで言うのなら、もう止めません。ですが、条件があります。」
「なんだと、条件?」
「はい。それは、絶対に死なないこと。そして、必ず両親へ手紙を書くこと。手紙は、月一回ビーラムへ届けます。手紙があれば、両親も安心するでしょうから。」
ここまでしてくれるとは、この行商。なかなか言い奴だなと、俺は思った。確かに、勝手に家を出てきたから、両親は心配しているだろう。ならばせめて、手紙を書けば、俺が生きていると分かれば、両親は安心するはずだ。
「ああ、分かった。約束する。」
「手紙は、この冒険者ギルドに預けておいてください。ビーラムへ行くときに回収しますので。
それでは、頑張ってください。」
そう言って、行商は馬車を動かしては去っていった。俺は、馬車が見えなくなるまで見送った後、冒険者ギルドの入り口へと向かった。