討伐を終えて
カインは、スキル複数同時発動によってワイルドボアの集団を一気に倒し、更なる強さを手にいれたのだった。
地鳴りが収まったことで、地下から町民達が地上へと上がってきた。
「な、何ですか、これは?」
数百頭はいるであろう、ワイルドボアの死骸を見て、町長は腰を抜かして倒れこんだ。
「あ、あの一瞬で、これらの全てのワイルドボアを、討伐したのですか?し、信じられない。な、な、何なんですか、あなた達は?」
町長が腰を抜かした恐怖の対象は、数百頭ものワイルドボアの死骸の山ではなく、俺達に対してのものだった。俺達を、化け物でも見るような目で見ていた。
「町長、安心するといい。あの大群は、あくまでもワイルドボアだ。強い攻撃を一発でも当てられれば、冒険者であれば誰でも倒せる。今回は、たまたまワイルドボアの数が多かったが、討伐することは苦ではなかった。そういうことにしておいてくれ。頼む。」
アイザックは、怯えきっている町長に対し、忠告とも言えるように説明をしていた。これでは、まるで、詳細を誰にも言うなと、警告しているようにも見える。
実際、ワイルドボアを一撃で倒すことなんて、冒険者の大半は無理なのだ。ワイルドボアは、Dランクのモンスターだ。Dランクのモンスターを一撃で倒すには、ランクC以上の冒険者でないと不可能。ランクCになれる冒険者は、あまり多くはないのだ。
「とにかく、あんたは、ただBランクの依頼達成の報告をしてくれればいいんだ。それで、俺達も晴れて依頼を達成したことになる。この件は、これで終わり。いいな?」
アイザックは、再度町長に忠告した。しかし、町長は怯えて頷くことしかできない。冷静な判断能力を失っているようだ。
「おい、町長!しっかりしないか!ワイルドボアの件はこれで終わりだが、あんたには、まだやることがあるだろう!壊れた街の柵を、1日でも早く復旧させる必要があるだろう!そうしないと、いつまでたっても街は元通りにはならないんだ!」
アイザックの叱咤を聞いて、ようやく町長は我に返ったようだ。確かに、街の柵はワイルドボアによって崩壊している。このままだと、夜間に徘徊するモンスターに、街に侵入されてしまうのだ。
普段、単独で行動するモンスターは、街の柵を壊してまで街に侵入することなどないのだ。柵を壊すような手間をするよりも、近くにいる小動物を捕らえる方が、明らかに容易だからだ。
我に返った町長は、町民達に急いで指示を出し、街の柵の再建に取り掛かった。俺達は、街の柵が完全に修復するまで、街の護衛をすることにした。それを聞いた町長は、怯えながらではあるが、俺達に礼を言ってきた。
「あ、ありがとうございます。今回の追加の依頼ですが、アイザック様と、カイン様の2人で達成したと、ウルプスの冒険者ギルドに、正式に報告させていただきます。では、引き続き、護衛の方を、よろしくお願いいたします。」
これで、何とか街の再建と、俺達の依頼達成の件は落ち着きそうだ。後は、1日でも早く、柵の修復が完了してくれるのを待つ。その間、街に近付くモンスターを討伐するだけだな。
その日の夜、案の定、モンスターがやってきた。レッドウルフだ。レッドウルフは、ブルーウルフよりも強い、ランクDのモンスターだ。強さは、ワイルドボアに匹敵する。ブルーウルフとは違い、単体で行動することが多い。
俺は、討伐するために前に出ようとしたが、アイザックに止められた。
「カイン。ここは、俺に任せてくれ。」
アイザックはそう言って、装備している弓で矢を引き、狙いを付けずに無造作に放った。
「アイザック、何をしているんだ?」
「いいから、よく見てな。」
俺の忠告を遮り、矢をよく見ろというアイザック。仕方なく、矢を見ると、矢はまっすぐの軌道をせずに、レッドウルフの方へと軌道を変えながら向かっていった。矢は、レッドウルフのこめかみに命中し、あっという間にレッドウルフは息絶えた。
「こ、これは?」
「今のは、俺の職業である『狩人』のスキル『ホーミング』だ。このスキルを使えば、矢は相手を追尾し、必ず命中する。おそらくこのスキルは、魔法や遠距離攻撃のスキルにも応用できるはずだ。次のモンスターが来たら、試して見るといいだろう。」
解説マニアのアイザックは、俺にホーミングというスキルを、実践しながら丁寧に教えてくれた。それにしても、ランクDのモンスターを一撃で倒すなんて、アイザックはこれ程までに強かったのか?
疑問に感じた俺は、アイザックを鑑定してみると、アイザックのレベルは30に上がっていた。おそらく、俺がワイルドボアを一気に倒したことにより、パーティー恩恵として、アイザックにも経験値が入っていたのだろう。
だが、アイザックに入る経験値は、今の俺の裏スキルの
『モンスター撃破時入手経験値120万倍』は、反映されていない。正常な経験値分だけ、入手できたということだ。
「アイザック、レベル30に上がっているぞ。」
「なに、そうなのか。ということは、今回の件が決着したら、ウルプスに戻って上級職になれるのか。ありがとう。お前のお陰だ。」
アイザックは、レベル30になったと知って、かなり上機嫌だった。アイザックによると、狩人の上級職は、『イエーガー』というらしい。イエーガーになると、特性として、『矢形成』というスキルを覚えることができる。
『矢形成』とは、弓を構えるだけで、何もないところから矢が出現する。出現する矢は、腕力に影響し、硬度が変わって来るらしい。つまり、イエーガーは、弓を扱うものはにとって、矢の残量という最大の問題を解決しているのだ。これは、反則とも言えるスキルだ。
残念ながら、薬師には、上級職は存在しないらしい。仕方ないのだ。もともと、薬師は冒険者向きではないのだから。上級職になれないことを知った俺は、ショックだった。
「上級職になれなくても、お前はすでに強すぎるから気にする必要はないんじゃないか。どうせこの先、いくらでもスキルラーニングで、使えるようになるスキルが増えていくんだから。」
アイザックは、そう言って俺を慰めてきた。確かにその通りだと思う。俺は、もう、十分すぎるぐらい強く成りすぎたんだ。職業にこだわるなんて、あまりにも無意味。いや、今の俺にとっては、職業なんてもの自体が無意味なんだ。
あれから、一週間が経った。ようやく、街の柵が完成した。その間、俺達は完璧に街の護衛をしてきた。その事で、町長は俺達をある程度信用するようになった。恐怖心も、ほぼ無くなってくれたようだ。帰り際、俺達の強さは誰にも言わないと約束してくれた。
ちなみに、数百頭のワイルドボアの死骸は、街の者達で使える部分別に解体し、肉は全て薫製にし保存食として、倉庫に保管した。残りの部位は、道具や装備品等に使うということだ。俺達は、ワイルドボアの部位は一つも受け取らなかった。
矢の残量の心配がいらないアイザックと、強くなりすぎてしまった俺では、もう、武器の調達は、意味がないからだ。全ての部位を街で使ってもいいと言ったら、街の者達に多いに感謝された。
今回の依頼は、実に良い収穫があったと言える。アイザックはレベル30になることができたし、俺は、レベルが10000を越えた。お互いに、大きくパワーアップできたのだ。
早く上級職に転職したいアイザックは、とてもとても上機嫌だった。
ウルプスへと帰ってきたと俺達は、早速冒険者ギルドへ行き、今回の本来依頼したDランクの依頼達成と、追加のBランクの依頼達成の報告をした。
今回の受付はアリアだった。アリアは俺達2人だけでBランクの依頼を達成したことを、物凄く驚いていたようだった。どうやってワイルドボアの集団を倒したのか、あまりにもしつこく聞いてくる。そこは、何とかアイザックに誤魔化してもらった。アリアが納得するのに、一時間もかかってしまったのだ。今回の依頼より、アリアの説得の方が疲れたと、アイザックが嘆いていたのには笑えた。
報告が終わったことで、一旦俺達は解散することにした。ちょうど、寮の畑の薬草の収穫時期だったのと、アイザックの上級職への転職と、二人でやることが決まっていたからである。
寮に着いてから、畑を確認すると、予想通り、ちょうど薬草の収穫時期を向かえていた。薬草は、育ちすぎると、かえってポーションの質が悪くなってしまう。そこで俺は、全力のスピードで一気に薬草を採取することにした。はたして、素早さ20000越えの本気のスピードとは、いかほどなのか。自分自身でも楽しみだ。
俺は、全力の早さで、一気に畑の薬草を採取した。なんと、結構な大きさ畑の中で、約3分の1の面積一杯にある薬草を、1分もたたずに全て採取してしまった。俺のあまりの速さに、採取した薬草の水分は、全て飛んでしまっていた。今の俺の動きは、絶対に一般人には見えないはずだ。
続いて、俺は採取した薬草を、一気にすり鉢で粉状にし、ポーション生成を行った。生成できたポーションは、なんと樽10本にもなってしまった。これは、明らかに調子に乗りすぎ、完全に作りすぎた。なんか、採取した薬草の量よりも、沢山のポーションが出来たようだ。これはおそらく、薬師のスキルの影響だろう。
俺は、生成したポーションを寮長に見せることにした。
「な、なんで、これだけの量のポーションが一瞬で出来るんだ?それに、畑にあった薬草はどうした?ま、まさか、お前、全部採取したのか?そんな時間は、どこにあった?意味が分からん。」
寮長は、思い切り取り乱していた。確かに、普通ではあり得ないスピードでポーションを作りすぎてしまった。これは、俺の話術では誤魔化しきれない。
どうしようか悩んでいると、俺の背後に他の者の気配を感じた。
「誰だ?」
俺はそう言って振り向くと、そこには、意外すぎる人物が立っていたのだ。
「さすがはカイン殿。さっきの薬草を採取した動き。俺の目では、追うことは出来ませんでした。素晴らしい速力です。」
そこに立っていたのは、あの『最強のレオナルド』だった。




