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感傷的な季節の日々

夜のコンビニ

作者: DRtanuki

 夜の道路に車の姿はない。蝙蝠が辺りで鳴いている以外に物音は聞こえない。

 熱気は夜になってもひかず、映画館から出て少ししただけでもその暑さにうんざりした体は汗を途端に噴き出させる。さっきスポーツドリンクを飲んで喉を潤していたのに、もう次の飲み物が欲しくなってくる。でもスポーツドリンクは思ったよりも甘ったるさが口に残る。次に買うならお茶だろうか。子供の頃は暑い日にはあれだけジュースを欲したのに大人になるにつれてジュースの甘ったるさがうざったくなってきている。

 時々無性に飲みたくなるけど、200mlくらいの缶ジュースですら一缶飲むだけでもう飽きが来る。ペットボトルのジュースをうっかり買ってしまった日には半分飲んだ辺りでどうしようか後悔する事の方が多いのだ。

 

 レイトショーを見終えた僕は眠気でかすんだ目をこすりながら運転する為にキーを鍵穴に差し込み、右に捻った。エンジンがかかり、車は細かな振動音を立てながら駆動を始める。僕はライトを点けた。

 夜だから車の中はそこまで暑くなってないだろうと思ったけど、湿気が酷いので已む無くエアコンも入れる。窓を開けて外の空気を入れながらの運転をしたかったのだが、こうも蒸し暑いようではそれもかなわない。

 駐車場には前を向いたまま車を入れたので出る時はバックになるが、昼とは違いもう誰も居ないのでわりと乱暴なやり方でバックしても何も問題はない。

 道路に出る。

 深夜なので行き交う車はタクシーやトラック以外ほとんどないと言ってもいいくらいに空いている。僕のアクセルを踏む力も自然と強まり、スピードも乗っていく。

 とはいえ、僕の乗っている車は所詮軽自動車なのでその速度もたかが知れているのだが。たまにくる乗用車には軽く抜かされていくのには毎度のことながら釈然としない思いがある。やはりそろそろスピードが軽く出る車に乗り換えるべきなのだろうかと考えることも多い。

 

 普段ならば車で詰まっている事が多い国道も実にスムーズに走り抜けられて気持ちが良い。時折、隣を通り過ぎるトラックの高速道路かと思うくらいの速度を見るたびに少しばかりぎょっとする。

 国道を渡り、県道に入るとほぼ全くと言っていいほど車の通りはなくなる。

 信号も黄色や赤に点滅しているものばかり。

 歩行者もなく、何にも気兼ねする事なく気持ちよく運転できるから夜のドライブというのもたまには悪くないな、と思える。たまに警察が潜んでいる事もあるからそこだけには気を付けたいが。

 

 ずっと家までの道を運転していたが、どうしても口の中の甘ったるさが我慢できなくなってきていた。

 渋くて苦いお茶が欲しい。

 ふと帰り道にコンビニがあった事を思い出す。というかコンビニ自体最近よく出来ていて道を通れば大概どこかにコンビニはあるものだ。何故ここまでコンビニエンスストアが建設されるのかよくわからない。まあ出来る分には利用者としては有難いのでそれは良いのだが。

 コンビニが見えてきたのでウインカーを出して駐車場に止める。

 コンビニには明かりにつられて多種多様な虫が集まって来ていた。今日は酷く暑いから虫もかなり群がっている。大概は羽虫や蛾ばかりなのだが、時折カナブンやコガネムシのような甲虫も見られる。中にはカミキリムシなども居る。

 羽虫は忙しなく動いているが、甲虫類はじっとして動かない。多分寝ているのだろう。


 コンビニに入り、僕はジャスミン茶を買った。これで口の中の甘ったるさも流してしまえる。

 店から出て、車に乗り込もうと鍵を手にした時、ふと車の上に何かが居る事に気づいた。よくよく見てみるとそれはカミキリムシで、僕の親指よりも大きい。いつの間にか天板に乗っていたのだろう。それは何時のタイミングでなのかは全くわからないが。

 カミキリムシは触覚を上下に動かしながらゆっくりと歩いている。

 僕はカミキリムシの背中をちょいちょいと押してみた。

 当然のことながら、彼は怒ってギィギィと鳴き声を上げる。なんとなく僕は笑ってしまった。

 夏休みの自由研究の課題に悩む子供、深夜のコンビニに来たら結構いいんじゃないだろうかと僕は思った。それまでに起きていられればの話だけど。それに深夜にコンビニに子供がたむろしていたら通報されるかもしれないな。


 僕は車に乗り込んでジャスミン茶を一口飲んだ。

 思った通りお茶は甘ったるさを全て胃に押し流す。鼻にはジャスミン茶特有の芳香が通り抜け、先ほどからの眠気も少しは飛ばしてくれた。

 そして今更ながら気づいたのだが、あとはもう眠るだけなのに眠気を吹き飛ばしたら駄目じゃないのか? 

 でも喉は乾くし明日も休みだし、ぬるい風呂にじっくりと浸かって布団に入ればたぶん眠気もそのうちやってくるだろう。

 

 僕は車のキーを鍵穴に差し込んでエンジンをかけ、家路に戻るべくアクセルを踏み込んだのだった。

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