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異世界でだって変われない!  作者: ダメダメ人間
1/3

プロローグ

「“待て“!ワンコロ!」


 夜の路地裏を僕は一心不乱に駆け抜ける。


「やなこった!」


 前方の犬の頭をした獣人が僕に気づき走りはじめた。背中の麻の袋は盗んだ宝石や魔術用具、武器などで詰まっている。あれを取り返し、泥棒のワンコロを捕まえるのが今回の依頼の目的。失敗すれば報酬が受け取れない!


 逃げながらワンコロは後ろを向き、あっかんべー。そのべろ噛んでしまえ!


「“待て“と言われて待つ馬鹿がいるかよ!」

「その馬鹿がお前!」


 ムカついて僕は怒鳴る。


「逃げはじめは何度も引っかかっただろ!」

「もう引っかからん!効果が無いということは呪文を放つ魔力も無いということだな!」

「呪文でも何でもない!」


 追跡中僕は“待て“と意図的に何度も叫んでいる。逃亡序盤、僕が思わず叫んだ《待て》の言葉にワンコロは素直に従った。僕も呆気にとられ、追いついても混乱して何度も捕縛のチャンスを逃した。


「待ったのはそっちが犬でアホだったから!」


 僕は飼い犬のしつけにある“待て“なのだと考える。誰にしつけられたのかはまぁどうでもいい事。ワンコロは“待て“と言われて待つ馬鹿だったのだ。


「呪文じゃないのならなおさらいい!もう追いつかれんぞ!」


 ワンコロは余裕の高笑い。確かにもう“待て“には引っかからないらしい。

 ならば


「“お座り“!」


 これでどうだ!


「誰が座るかよ!」


 またもワンコロは高笑い。その余裕の通り、止まりはしなかった。がその走り方は明らかに変わり、お尻は地面スレスレ。


「ギリギリじゃないか!」

「うるせー!」

「“お座り““お座り““お座り““お座り“!」


 ごり押しなら効くんじゃないかと思い、連呼してみたがお尻が上下に激しく動くだけ。意味がなかった。なんでそんな状態で走れるの!?


 “お手“も叫んでみたけど、これに関してはワンコロは丁度酒場から出てきたノリのいい酔っ払いとすれ違いざまにハイタッチしただけだった。酔っ払い!あなた善良な市民でしょ!捕まえてよ!

 

 僕はつぶやく。


「まずい」


 犬の定番のしつけ作戦がきかなくなった今、犬の獣人にスピードで勝つのは無理だろう。現に少しずつ距離をはなされはじめている。どうにかしなければ。

 不安がよぎる中、僕は周りの景色を見て気づく。


「ここは三人が待ち伏せしている通りだ!」


 4人でこの依頼はうけた。うけてすぐの作戦会議で泥棒が逃げだした場合、他3人がそれぞれの場所で待ち伏せすると話し合っておいた。僕は今の通り追跡役で、なるべくこの通りにでるよう追いかけろといわれていたのだ。完全にわすれていたけど、偶然この通りにでたのは幸運。勝機がみえてきた!


 僕は叫ぶ。


「もう逃げられないぞワンコロ!」

「追いつけねぇ癖にいうじゃねぇか!アホめ!」


 吠えてろ!三人とのはさみ打ちでとっつかまえてやる!

 僕が気合いを入れ直し、追いかけ続けていると大きな酒場が見えてきた。待ち伏せポイントの一つ目だ。作戦会議ではあの酒場の前に一人仲間が待ち伏せると言った、、、、だが


「いない!」


 もし待ち伏せしているなら姿がみえても良いタイミングなのにどこにも見当たらない。どこにいる!これじゃはさみ打ちできない!それとも彼は影に隠れてて、ギリギリまで引きつけてから横からタックルでもするつもりだから見えないのかも。


 僕の予想はむなしく外れ、待ち伏せの酒場を素通りする。しかし酒場の横をかける時、酒場のお客さんの中で僕は見つけた。


 一心不乱に大盛りステーキを食べる、待ち伏せ役のクラトの姿を。


「なにしてんのーーー!」


 僕は走りながら叫ぶ。

 あの大食漢!依頼の成功より空腹を優先して夕飯食べてる!僕がどれだけ走っていると思ってるんだ!横に何枚も皿が重ねられているのを見ると、かなり長い時間あの状態らしい!報酬を貰えなくてもいいのか!


 クラトへの怒りが次から次へと溢れ出る。まさかこんな裏切りをされるとは思っていなかったけど、作戦会議時に待ち伏せ役を立候補、場所は酒場と提案したのを疑うべきだった。もっと言うとその時にクラトの口元からよだれがでていたような気がしてきた。

 クラトの待ち伏せは完全に失敗。失敗というか最初から成功するわけなかったんだけど。


 依頼を達成できなかったら、クラトのお腹を思いっきりつねってやる!達成してもつねってやる!断食もさせてやる!そしてその間目の前で朝昼夜三食それはもう美味しそうにご飯を食べてやる!少し太り気味のクラトにはお似合いの罰だ!まぁ依頼を達成できなきゃ三食野草を食べることになるかもしれないのだけど。そうならないためにも泥棒をつかまなくては!


 一度目のチャンスを裏切りにより逃した僕は頭を切り替える。次の待ち伏せはどこだったか!?


「あそこだ!」


 目の前にこの町の中心地である噴水広場が見えてきた。あそこが第二の待ち伏せポイント。仲間の一人がここで待ち伏せているはずだ。


「くそ先回りしてやがったか!」


 ワンコロが吐き捨てる。

 正面には待ち伏せの女の子がいた。


「やっときた!」


 噴水広場での待ち伏せる女の子、イオが身構える。どっかの食いしん坊とは違い、しっかりと職務を全うしている。イオ愛してる!先ほどの裏切りからの落差から、そうおもってしまう。


「イオ愛してる!」


 ていうか言ってしまう。


「ななななに突然!意味わかんないし!」


 身構えていたイオの顔が赤くなる。そして身体が熱くなってきたのか無防備に顔を両手でパタパタとあおぎはじめる。こんな時に乙女の面をだすな!


 イオを正気に戻すため、僕は叫ぶ。


「イオのブス!」

「サイテー!」

「依頼に集中しろ!」

「言われなくてもわかってますー!」


 僕のブス発言に乙女モードは解除、頬を膨らませながらもまた身構えた。


「あんな見るからに運動不足な女に俺が止められるか!」


 ワンコロは余裕の笑みをもらした。イオをかわして、逃げきるつもりでいる。

 だがイオもナメられたのが心外だったらしい。


「運動不足じゃないしー!入浴後のストレッチはきちんとやってるしー!」


 そう叫びながら、ワンコロに向かって飛びかかった。


「うおっ!」


 ワンコロは、油断していたからなのか、避けきれなかった。

 見事イオはワンコロを押し倒した。ずれた事いってたけど、ストレッチの効果はでているのかも!


「いいぞイオ!」


 ナイスだ!

 僕は走りながら腰の袋から縄を取り出す。


「大人しくしなさい!」

「離しやがれこの野郎!」


 僕が走り寄っていく間にもイオとワンコロはもみ合っている。油断していた所を押し倒せても流石にずっと抑え込んでおく力はイオにはないらしく劣勢なようだ。この縄で急いで縛らなければ。早く報酬を貰うためにも!


 だが僕が近づくにつれ

「暴れんなし!、、、ってあら」

「捕まってたまるか!邪魔だワン」

「結構なで心地いいわね。毛並みも整ってるし」

「何言ってるワン!頭撫でるなワン!クゥーーン!」

 みるみる内に2人の様子が変わっていって


「こーら顔は舐めちゃダメ」

「ハッハッ!キャンキャン!クゥーン!」


 最終的に仲良くじゃれあう飼い主と飼い犬のように楽しそう。


「遊ぶなイオ!真面目にやれ!」

「遊びたくて遊んでるわけじゃないわ!この子が可愛いのがいけないの!」


 遊んでるのは否定しないのか!僕の誉め言葉を返せ!イオは喜怒哀楽コロコロ変わる女子力高めの女の子だった!こんな時にまでふざけるなんて!てかワンコロもしつけどころか撫でられても完全に犬なの!?

 尻尾をちぎれんばかりに振るただの犬となった泥棒に呆れる。あっ!チンチンまでしてる!


「いやまてよ、、、」


 僕は呆れながらも冷静に思考する。

 単純に力の無いイオが押さえつけるのならば僕が追いつく前に逃げられる可能性がある。ならばこの犬の本能を利用しておいた方が確実なのではと。

 だがそううまくはいかずワンコロは正気に戻りイオを突き飛ばした。


「キャッ!」

「くそなんて強力な幻術使いだ!」


 幻術じゃないよ。


「だからお前が犬でアホなだけだから」

「うるせー!もう油断しねーぞ!」


 ワンコロはまた逃げ始めた。

 今度こそ本当にまずい!この噴水広場を抜けて真っ直ぐ行けば町の外に出られてしまう。一度森に隠れられると捕まえることはほぼ不可能になってしまう!


「やっと私の出番ね」


 鈴とした声がした。僕はその声で安心した。そうだまだ一人残っている。待ち伏せ場所は出口へと続くこの一本道。仲間の一人、荒事においてもっとも頼りになる彼女が道の真ん中に立っていた。


「もう油断しねぇ!怪我したくなきゃそこをどけ!」


 ワンコロは盗品の袋から武器屋から盗んだ剣を取り出す。邪魔な奴は切りつけて逃げきるつもりでいるらしい。剣など彼女の前では役にたたないのに。


「物騒ね」


 月光を反射させる鋭い剣を見ても彼女は動じない。それどころか歩いて近づき始める。


「そんな細い体真っ二つにしちまうぜ!」

「それは困るわ。盗品はきれいなままで返したいの。私の血で汚しちゃ依頼人に顔向けできないわ」


 彼女は困ったような顔はせず、脅しもどこ吹く風、一歩一歩歩みを止めない。


 ワンコロと彼女の距離が剣の間合いになった瞬間だった。


「馬鹿な女だ!」


 ワンコロは突きを繰り出す。走っていた分、剣速は凄まじい。


「だから」


 だか剣先は空を突く。


「何だと!」


「当たらない」


 彼女はよけた。体を少しそらすだけの最小限の動きだけで。


「いけー!トーカ!」


 僕がトーカと呼ぶ女の子は強い。彼女はあらゆる武道に精通していて毎日の鍛錬を欠かしていない。そういう家庭だったそうで、生まれた時から戦いの技術を叩き込まれていたという。僕たち4人が受けてきた依頼においてモンスター討伐や山賊への襲撃、旅商人の護衛があった。そんな荒事で彼女はとてつもない活躍を見せてくれている。

 彼女は格闘系女子なのだ。


 ワンコロは突きが外れたことで体制を崩した。また懐にトーカがもぐり込んでいる状態。


「この野郎!」


 態勢を崩しながらも、剣をそのまま横になぐ。だがそんな剣は当然当たらない。しゃがんだトーカの頭の上を通過するだけ。そのままワンコロは二回も剣をかわされ無防備に前に倒れこんでいく。


「終わりです」


 その勢いと伸び上がりの勢いがのったトーカの掌底がワンコロの顎をぶち抜いた。ワンコロはのけぞり、気絶。勝負ありだ。


「ふう。やっと終わった」


 トーカの姿が見えた時、僕は依頼の成功を確信し、縄の準備に入っていた。泥棒をふんじばってこの依頼は一件落着だ。そう安心した時


「ぽいっと」

「げふっ」


 僕はトーカに投げ飛ばされたワンコロの下敷きになった。後できくとたったまま気絶しているワンコロが無防備で投げたくなったのと言われた。勘弁してください。




   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 ワンコロを縛ると僕はトーカと後処理をはじめた。

 後処理とはそこらじゅうの地面に散らばった盗品の回収だ。

 トーカが思わずワンコロを投げてしまったため、盗品の袋が全部飛び出してしまったのだ。


 いつもの僕なら文句の一つも言うけれど、泥棒確保の最大の功労者はトーカに間違いないのであまりグチグチ言うつもりはなくなった。ペコペコ謝ってきたし。トーカの罪悪感を消すための提案の胸揉ませてという頼みも睨まれて拒絶されたし。別にホントに揉みたかった訳じゃないよ。僕のそういう欲望は依頼でくる牛の乳搾り手伝いで充分満たされているから安心して揉まれなさいという説明を付け加えた所、宝石の散らばるがたがたの地面に投げ飛ばされ悶絶した。だから全然文句はないよ。


 文句があるとするならば


「これでたくさん食べれるね~」

「貴様は充分食べた!何も望むな!」


 裏切り者のクラトにだ。何が食べれるだ。充分すぎる程食べただろ!


 クラトが僕達の所にきたのは片付けをはじめた少し後だった。

 きてすぐに僕はクラトのお腹をつねる。痛い痛いごめんごめんと逃げるクラトを僕は追いかけつねりまくる。ごめんと言っても口だけだろ!許さんぞ!


「何やってるのよ」


 僕らのやりとりを呆れたトーカが仲裁にはいる。

 理由を知らないトーカは僕が一方的にクラトに嫌がらせをしているように見えたらしい。僕はクラトのサボリをちくった。


「なるほどね。それは私でも怒るわ」


 納得するとクラトの方を向いた。クラトはビクッとする。


「クラト、服をめくってお腹をだしなさい」

「え?何で?」

「いいから」

「理由を教えてよ~?」

「早く!」

「わ、分かったよ。恐いな~」


 トーカの睨みに負けて、しぶしぶ服をめくってお腹をだすクラト。

 お腹が丸見えになった瞬間


 パーーーン!


 路上に鋭い音が響いた。


「これで今回のサボりは無し」


 トーカがクラトのお腹を平手で張ったようだ。これは痛い。張った所にくっきり赤い手形、いわゆる紅葉ができている。


「これで気が晴れたでしょ。片付けるわよ」


 トーカは片付けを再開。僕もクラトをつねる気はなくなった。だが断食はまた別でしてもらうぞ!

 叩かれた所を押さえて涙目のクラトに近寄り、その事を伝え作業にもどる。そんなの死んじゃうよ~と嘆きが聞こえたが無視無視。

 僕も片付けを再開した。


「それにしてもイオはどこ?」


 地面に散らばった盗品の片付けが終わり、みんなでギルドに戻ろうとした時トーカが僕に聞いてきた。トーカに言われて僕も気付いた。イオがまだここにいない。


 イオを最後に見たのはワンコロに突き飛ばされた時だ。イオを連れて一緒に追えばよかったかもしれなかったけれど、ワンコロ確保に気を取られていてイオにまで頭が回らなかった。

 道順的に会っていないかと思ってクラトに尋ねてみたが、知らないという。


 別に4人揃わなくても、ワンコロの引き渡しと盗品の返還はでき、報酬を貰うこともできる。だけど4人で受けた依頼だから、最後も4人で依頼を完了させないとなにかしまらない。


 今からイオを探すのはそんなに苦労しないだろう。

 探すため3人でイオが寄りそうな場所を話し合い出発しようとした時、イオが到着した。


「あ!ワンコ捕まったんだ!みんなお疲れ~」


 イオは何事も無かったようにそう言って、縛られ気絶しているワンコロに近づき、頭をなで始めた。

 トーカはイオにかけよる。


「イオ。あなたどこにいたの?」

「いやまぁちょっちね~」


 トーカの質問にイオはなぜか曖昧な返事。変なの。僕も話を聞こう。そう思い近づくといい香りが鼻に広がる。

これは、、、石鹸?、、、まさか!

 トーカも気付いたようだ。そのまさかだった。


「あなたお風呂入ってきたの!」

「ばれちゃった~」


 舌を出しながらイオは説明した。

 イオはワンコロに突き飛ばされた後、一緒に追いかけようとしたけれど服の汚れが気になって一旦着替えようと拠点に帰ったらしい。帰ったら帰ったで、夢中な内は気にならなかったワンコロの顔なめや撫でたことが汚く感じはじめたのだと。うんうん!どんなにかわいい動物触った後も冷静に手洗いたくなる事ってあるよね。じゃないよ!


「で今日この依頼で朝から働きっぱなしだったから汗も気になりだしてもうお風呂入っちゃえって思ったの!」


 ぺろっとまた舌を出してくるイオに僕らは呆れた。

 クラトは言う。


「サボってたなんて許せないぞ~」

「クラトは黙って!」


 僕はクラトを一喝。

 クラトは逃亡の最初から最後までサボりっぱなしだったので文句言う権利はない!イオは待ち伏せはきちんとしてくれていた!

 だが確かに誉められるのは待ち伏せだけで、その後の行動に目を瞑る訳にはいかない。


「何かイオにもサボリの罰が無いと僕の気が収まらないよ!」

「罰なんてイーヤ!もう解決したんだし気にしなーい!」


 イオはうやむやにしようとしている。風呂上がりだからなのか上機嫌で必死さも無くそれでいて完全に水に流す気だ。そうはさせない!

 僕は何をさせようか考える。


「ねぇねぇみんなで浴場に行こ!あたしもまた入りたいし!」


 僕が考えている間にイオはどんどん話を進めていく。

 そしてトーカの後ろに回り込み、


「トーちゃんの胸の成長も見せてね!」

「え!ちょっとやめ!あっ、、、んっ、、、いや」


 胸を揉み、喘がせた。

 ありがとうイオ。罰を与えるなんて僕が愚かだったよ。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 依頼を完了し報酬をもらい、イオに連れてかれた公衆浴場から帰ってきた後、僕らが住んでいる宿へと帰ってきた。


 僕の部屋に4人が集まる。反省会みたいなものだ。今日の収支報告や依頼でのやりとり、最近の町の出来事、訪れる珍しい商人や旅人達の動向などこの世界での重要な情報達をまとめていく。

 なぜこんなことをしているのかって?

 その理由はもちろん毎日を充実させるためやもっとお金を稼ぐためっていうのもある。だけどそれらでさえ、ある目的の過程でしかない。


 僕達の真の目的とは

 「全ては異世界から抜けだすために」

 元の世界への帰還だ。


 トラックに引かれるだとか海で溺れるだとかでこの異世界にきたわけではない。何の前触れもなく、学校のベンチで昼ご飯を食べていた時に、突然異世界へと転移してきた。

 僕らは正真正銘平凡なただの高校生4人組だ。それぞれ現実へ帰ることを強く願っている。


 暴食グラトニーならぬクラトニーの定本倉人さだもとくらと

「まだ開けてもいなかったソーセージパンを食べるため」

 帰りたい。


 女子力高め、カワイイの()滝川伊桜たきかわいお

「発見したカワイイやお洒落な料理をSNSにアップするため」

 帰りたい。


 力自慢の格闘家、天海冬火てんかいとうか

「体得した必殺技を親兄弟に披露、ぶつけるため」

 帰りたい。

 

「やっぱおかしい」


 毎回帰るための決意表明を発表しているけど、突っ込まずにはいられない。


「もっと切実な思いを持ってないの?」


 僕が質問を投げかけると

 クラトは「食品ロスをなくしたい」

 イオは「異世界なんて誰も経験ないし、女子会のいいトークテーマ」

 トーカは「体がなまってしまうわ」

 とまたも三者三様のずれた返答。


「もういいよ」


 仕方ないのかもしれない。僕らは結構長い付き合い。僕がこれ以上何か言っても変わらない事を経験から知っている。


 僕は説得を諦めた。

 僕のため息を見て三人は

「ため息なんて、傷つくよ~」

「あたしだってしっかり考えてるしー」

「私間違ったこと言ったかしら」

 と不満たらたらで、僕にも帰りたい理由を発表しろとうるさくなった。


 僕は胸を張った。


「好きなアイドルのライブを見にいくため!」


 僕の名前は瀬川啄せがわたく。友達からはドルオ“タク“と言われ一目置かれていた。

 


 この物語は僕らのカオスな異世界での奮闘記。



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