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窓の外の演奏会

作者: 野兎症候群

 自室でみかんを食べていると窓の外から水の雫がガラスコップを叩くような音が聴こえ始めた。木琴だ。僕はそれまでBGM代わりにかけていた音楽を止めて流れてくる木琴の演奏に耳を傾ける。演奏は少し前に聴いたときよりもずっと滑らかになっていた。ピアノとは少し違う音の間隔。


 木琴の演奏が窓の外から聴こえるようになったのは去年の年末ぐらいだったと思う。方向からすると直ぐ隣のマンションから演奏の音は漏れてきているようだった。きっとどこかの家庭でクリスマスプレゼントか何かで木琴を買ったのだろう。


 以来、朝、昼、夜問わず木琴の澄んだ音はほどんど毎日響いてきた。最初はぎこちない演奏だったが、数日も経つとそれらしい演奏ができるようになっていた。奏者はとても練習熱心とみえる。ところどころ拙い部分もあるが、その演奏を聴くことは嫌いじゃなかった。木琴の弾き手はどこかで木琴を習ったことがあるのかもしれない。僕は窓の外で行われている演奏会を聴くことを楽しむようになった。


 流れてくる曲はほとんど聞いたこともないものだったが、日々雄弁になってくる曲はどれも素敵な響きを帯びていて、聴いていて飽きなかった。


 木琴の音はまるで水の雫がガラスコップを叩くような澄んだ軽い響きで、僕は演奏が聞こえ始めると雨が振り始めたような錯覚を覚える。少しして木琴の奏でる音楽が耳に入ってきて現実に戻るのだが、ともあれ、木琴の演奏はそんな風に聴こえた。


 目を閉じて演奏を聴いているとすぐにでも雨に濡れた街の匂いが漂ってきそうで気分がいい。どこの誰が奏でているのかも分からない小さな幸せがあたりに満ちているような夢見心地なひと時を感じた。

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