ハッピーエンドのその後
リハビリです。
以前書いたハッピーエンドを目指して
http://ncode.syosetu.com/n3217cq/
の後日談的なものです。
一人暮らしというものは酷く面倒な事が多い。
通勤に車で約25分かかる事を計算して住む事にした賃貸住宅。
間取りは1DK、男一匹とくればそれほど問題のない広さだ。
家賃は駐車場共益費含めて4万3000円、防音に優れているのでかなりお得な物件である。
仕事は接客業、私服OKな珍しい職場で一念発起して取った国家資格のおかげで最近順調なワークライフを送っている。
仕事帰りの疲労は心地いい疲労であり9時間ぶりに帰った我が家は若干暑くもあり暗くはあるが心はどこか晴れやかだった。
部屋の窓を開けて換気をしてパソコンの電源を点けて、作り貯めしているカレーと炊飯ジャーに残しておいたご飯を大き目の皿に入れてレンジにGOする。
カレーは約2週間分溜め込んでいて冷蔵庫の内の4分の1を占めている、腐らないか心配してはいるが、これまで腐っていないのでそれほど心配していない。
本日は9日目のカレーである。
これまで帰ってくれば母が作ってくれた料理は出てこない、全て自分で作らなければ食卓に現れないのだ。
だが私は面倒くさがり屋で、毎日レパートリーを変えるほど器用でないし面倒なのは嫌なので基本私の家の冷蔵庫には『カレー』『シチュー』『ポトフ』のどれかが常駐している。
一人暮らしの冷蔵庫なんてこんなものだろう。
ちなみにこの電子レンジ、1年近く住んでいるが未だにワット数がどれほどなのか解らない、『高』のメモリで2分くらい温めれば冷蔵庫に突っ込んでいたルーが温かくなるのだから、相当熱いのだろう。
その間、冷蔵庫のチルドから引っ張り出したキュウリとアスパラを切り、アスパラは適当に切って耐熱皿に水を浸して入れ、出来上がったカレーを回収して入れ替わりに突っ込んで電子の熱の旅へ2分間送り出す。
郵便受けを覗くと今月の電気料金の明細が入っていた。
6月分利用料3238円、先月より42円安かった、勝利である。
水道代とガス代も先月より安かった、夏場だというのに安くなったというのはこの生活に慣れているからだろう。
どうせ帰ってきたら汗まみれなのだ、それまでは扇風機で済むし、お風呂に入ればさっぱりしているし夜も更けて暑さもそこまで酷くない。
西日本に住んでいる私だが、夏場だろうと冬場だろうと冷暖房を殆ど使わない私は珍しいタイプの日本人なのかもしれない。
「あとはフルーツをと…」
一人暮らしに最も気を使うのは水道光熱費もそうだが食費、もっといえば食生活だ。
昨今の経済事情の中、『国産』を貫いている俺の食費はおそらく食費の殆どを安さ重視、『外国産』を買われている人たちよりやはり高い。
野菜も魚もお肉も何もかもが国産オンリーなのだ。
だが、うれしいことに俺のご近所には安さを追及したスーパーが4店舗もある、こういうところも引越しの時に気にしていたので私は意外と勝ち組なんじゃないだろうか。
―――話を戻そう。
フルーツ、つまりビタミンを摂ったり食物繊維を摂るのに疎かになると体調が将来的に崩れてしまう。
現についこの間の健康診断で中性脂肪が179だった私は普段の運動量を増やすことを決めた。
料理がうますぎる私は現在食べている食事量を減らすことを決め、1ケ月の食費、特に夕飯の部分を大幅カットした。
おそらくはメイン、魚や肉にかける熱量を減らせば何とかなると思い、ご飯の量を減らし、野菜中心の生活を目指した。
そうそう、今日のフルーツは先輩からいただいたイチゴである、イチゴは最近食べていなかったので大変嬉しい、食費も浮くのでグッドである。
|夕食<カレーと野菜>を食べ終えて、私はお風呂の準備を始める。
安い賃貸住宅とあってか、二口のガスなのでシャワーのバランスが取れないのから基本熱いのを10分全力で出して、次に冷たいのを15分。
夏場のお風呂はこんなものである、忘れたら汗を掻きまくるので換気扇を忘れずに。
風呂から上がるとそのまま掃除の時間だ、次の日の洗濯でズボンを洗いたいから大きなバケツにいっぱい入れて浴室の外、トイレに置いておく。
水を抜いている内に歯磨きをして、風呂場洗いの洗剤を主しゅっとかけ、お掃除開始である。
ちなみに手桶に一杯だけお湯を入れているので、汗を掻いてもすぐに洗い流せる、経験のなせる技だね。
次の日に面倒を持ち越したくないので、なるべくその日の内に終わらせるのが我が家の約束事なのだ。
そして生活リズムを崩したくないのでその日の内に就寝、11時30分までに眠れればグッドである。
―――次の日、休みな私の朝は速い。
6時半に起きるとすぐさま溜め込んでいた洗濯物を洗濯にかける。
色物の服がいくつもあるので水代と電気代に洗剤、そして柔軟剤に痛いがまあ仕方ない、冷蔵庫を二つ使っていながら電気代3000弱の私は頑張って切り詰めていこうと思う。
洗濯物をこれまで親に任せ切だったが、洗濯というのは中々に奥が深い。
反転させて洗濯しないと服が傷むなんて言われてみてはじめて気づく一人暮らしの初歩的ミス、私も最初お気に入りの服をやらかしてほつれてしまったのは苦い思いでである。
母に感謝を。
8時30分までに洗濯を3度済ませ、朝食の時間。
朝御飯はカスピ海ヨーグルト4分の1、バナナ1本、そしてグラノーラ約100グラムほどだ。
朝ごはんを食べなくても平気な私だが、習慣というのは恐ろしいもので食べないとリズムが狂って妙にイライラするので食費がかかるが継続している、ヨーグルトinグラノーラうまし。
仕事の勉強を朝のうちにこなす、現在専門学校の通信教育をしながら国家資格取得に目指す私にとって休みの日とは家事をこなし今後の昼食、夕食の作り貯め、そして気晴らしのカラオケ以外基本お勉強のお時間なのだ。
お昼ごはんは賞味期限切れ間近のハムと冷凍してあるタマネギ(微塵切り)、中華スープの素を水で溶かして作ったお手軽チャーハンである。
卵も1個使ってちゃんとご飯に絡めてある、タマネギと薬味の白ネギがあるので野菜も少々だが摂った。
味も中華スープの素とあって味もしっかりしている。
たとえ休みだろうと妥協しない私、グッジョブなランチであった。
そしてお昼、勉強ばかりで腰に負担がかかり始めた私は息抜きに2台目の冷蔵庫に入れる作り貯めの料理を作ることにした。
材料は冷凍しておいた鳥モモ肉、カットトマト缶、冷凍タマネギ(微塵切り)、コンソメの素、コショウである。
既に午前中に冷凍庫から出しておいたので鳥モモ肉と冷凍タマネギに不安要素はない。
牛乳パックを敷いたまな板で鳥モモ肉を2分の1にカット、ちょっと大きめだし火を通り易くする為という一石二鳥の私の手馴れた感のあるテクニックが火を噴くぜ。
鳥モモ肉に片栗粉をまぶし、サラダ油をフライパンに強いて程よいところでお肉を皮の方から投下、クッキングスタートである。
10分ほどでこんがり両面焼いたところで一旦お肉をキッチンペーパーを敷いた皿に回収する、次の作業があるので手早く済ませていく。
カットトマト缶とタマネギをフライパンに投下、電子ヒーターなので3分ほどでトマトとタマネギが温まってくる。
ここで程よく砕いたコンソメの素2個とコショウを投下する、味付けはこれでばっちりなので、一旦回収させておいた鳥モモ肉をここで再びフライパンへ突っ込んだ。
味見とばかりに一口ぱくりと。
「……ふーん、ミネストローネみたいな味になったね」
ちなみに、今回の料理は初ということもあってどんな味になるのかはおぼろげな予想しかつかなかったのだが、ミネストローネ風なものになったので不味い訳ではなかった。
うん、モモ肉じゃなくてムネ肉ならもっと財布にも優しいかもね、と作り終えて荒熱をとり始めている私が思った主婦的感想だった。
それにしてもこのカットトマト缶うまい、100円しなかったし買い溜めして置こうそうしよう。
荒熱を取ったミネストローネ(もどき)を冷蔵庫に突っ込み、その後は食器を洗い、参考書を開き、洗濯物を取り込み…と途中で気付いた。
「しまった、今日は歓送迎会だ」
そして夕食…なのだがうっかりしていたのだが今日は中途職員を歓迎するため、異動した同僚たちを送り出すための歓送迎会がある日なのを思い出した私はパソコンの右下にある時間を調べた。
時刻は16時36分。
会場はここより1時間ほど離れた【無敵艦隊】という焼肉屋だ。
19時30分からだから問題はない、酒は飲まないが思う存分…いや、程々に飲み食いしようと思う。
私は灰色のシャツに黒のパンツというラフな格好をして姿見で一回転する。
焼肉屋というお店は中々に凶悪な店だ、何せ服にとんでもない臭いを客に押し付けてくるからな。
次の日には洗濯しないと臭いがやばい事になる、これも経験談の一つで、ここでも私はお気に入りの服を一着なくした。
今回の服も夏場だというのに地味目名チョイス、年齢的にももう少し若さの欲しいコーディネートだが仕方ないのだ、私も焼肉屋におしゃれをするという頓珍漢なマネはしたくない。
勉強も終えて服も着替えた、剃り残しもなくさっぱりとした青年の姿がそこにある。
休みの日だというのに遠出しないといけない…というつもりはない。
人との繋がりは大切なものだ。
資格の勉強や家事も大事だが、職場での環境を円滑にするには人間関係が大切なのだ。
今の職に就くまでその人間関係を疎かにし過ぎた私は母を悲しませ、姉を心配させてきた。
だからこそ思うことがある。
人間、本当の意味で独りにはなれないのだと。
そして独り暮らしをして始めて、家族のありがたみというものが分かってくるのだということを、私はそう思った。
車を走らせ会場の焼肉屋に着く、時刻は19時ジャストである。
早過ぎたが、まぁ主賓が少しくらい早くてもいいだろう。
「先輩、来るのちょっと早くないです?
まだまだ揃ってないですよ?」
そう声をかけてきたのは、私の初めての後輩であり今回の幹事をしている矢口甘莉だ。
「そういうなよ矢口、これでも楽しみにしていたんだ」
つい3時間ほど前まですっかり歓送迎会の事を記憶の彼方にすっ飛ばしていた私の言葉じゃないだろうが、社会人とはこうした見栄…小さな嘘をついてしまう生き物だという事を私は知った。
矢口はむぅとむすっとして私の名前の横にあるチェック表にレ点をつける。
「今の絶対嘘ですよね先輩?
先輩資格とか家事とか料理とかに夢中になって、一息ついた時に気付いたんですよね?
後輩の私には手に取るようにわかるのですよ?」
「ストー…じゃなかった、後輩怖い」
「先輩のその営業スマイルは基本まともそうに聞こえるけど嘘で塗り固められている事を身を以って私は知っていますから。
それじゃ先輩は上座へGOですよ、ウーロン茶でも飲んで待っててください」
じゃれ合いも何のその、中々に相性の良い私たち二人はそうして別れた。
歓送迎会が始まる。
それぞれの部署毎に集まって幹事の言葉を待っていた。
「それでは、中途職員の歓迎及び松永副館長の昇任祝いを兼ねた歓送迎会を始めます!!
ジョッキは持ちましたか~~~っ!?」
おお、と間延びしていた返事が会場から聞こえてくる。
そう、うっかり忘れていたが、今日は中途職員と私の昇任祝いの為の歓送迎会だったのだ。
母と姉にはもちろん連絡して、祝いとして食料を送ってもらっている。
ふるさと納税経由ではあるが肉に野菜、それに調味料が届いて本当に助かっている。
現在取ろうとしている国家資格も、更なる昇任のための布石といって良い。
おそらく最年少副館長として一時期新聞の記事に載るかもしれないが、まぁそれほど気にはしていない。
世間なんていちいち気にしていて、『ハッピーエンド』なんて目指せないからな。
これからの人生、何があるか分からないがなるべく後悔しない人生を送りたいと思う。
いや、後悔してもそれをバネにして歩いていける人生を送りたいと思う。
それでは皆様これにて失礼。
焼肉が俺を呼んでいるので。
拙作を読んで頂き、ありがとうございました。
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