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オルゴール

作者: 七夕ハル

 この世で一番の美人といえば誰だろう。僕は一人机を前に考える。ニトリで買った安い、それでいて柔らかい椅子に座っている。机の上にはボールペンとシャープペンシルが転がっているが、特に使うわけでもない。ひたすら頭の中でだけ考える。僕は考えるのが得意な方ではない。同時に、女性について深く知っていたり、数え切れない程の女と寝てきたわけではない。それでも、考えないといけない理由ははっきりしている。会社の上司の迫田の命令だ。会社勤めというやつは時に理不尽な命令にも、従わないといけない。けども、今回の仕事とは一体何なのだろう。「一番の美人は誰か?」この投げかけに対して、レポートを書いてこいという。まず頭に浮かぶのは、世界三大美人。楊貴妃、小野小町、クレオパトラだ。どの人物も実際の写真も何もないわけだし、美人であるとはいえない。確信をもつにはあまりにも時代が違いすぎる。僕の中にある悲しい性は、三ヶ月前に出会ったガールフレンドのような女のことを思い出させる。彼女は自分のことを楊貴妃の生まれ変わりだと公言してはばからない変わり者だ。でも、彼女の肉体は素晴らしく僕はその虜になっていた。今日も会う約束をしていたが、このレポートのために断らなければならなかった。ガールフレンドのような女と言ったのは理由がある。もし、彼女が僕のガールフレンドならば、今日彼女を部屋に呼んで、一緒に過ごしただろう。なぜなら僕が「仕事のためにいけない」という言葉をおそらく彼女は少しばかりの落胆と、少しばかりの喜びをもって聞いたからだ。喜びというのは他でもない。僕以外の男と彼女が寝る時間がいつもより余分に取れるという嬉しさだ。彼女はそういう女だった。でも、鹿の毛皮を買ったと話す彼女は、今日はどこにも行かないと約束した。そんな、約束は意味がなかったが、僕は満足した。そして、彼女に一時間おきに電話をかける。彼女は一時間おきに電話に出て、簡単な世間話をしようと試みる。でも、口から出るのは彼女への卑猥な言葉ばかり、つまり僕は彼女をそういう対象としか見ていないのだ。そして、電話を置き、またレポートを考える。考えるといっても、ただ虚無にふけるだけだ。浮かぶものは何もない。次の電話で、今度彼女に何を話そうかという雑念も入る。つまり、このレポートは完成のめどがたたない。夜の二十三時頃の電話でついに僕は彼女にレポートのことを話した。彼女は笑った。笑った声に誰かがまた笑いをかぶせたような音がした。そして、言った。「私にしときなさい」僕は彼女に反論した。「だって、君は淫売じゃないか」彼女と僕は確かに電波で繋がっているのに、沈黙が流れた。彼女は何も言わずに電話を切った。後には独特の電子音が僕の耳に入ってきた。僕は気にせずに、レポートに再びとりかかる。「そうか、身近な人物でもいいのか」僕の中にあった考えは僕の生活範囲に出てくる女を思い浮かべていた。総務のT嬢は少し、性格がきつい。でも、美人の部類に入るかもしれない。しかし、レポートに結論を書き、ひたすら、彼女の美人さをたたえる作業には気乗りしなかった。思い切って彼女のことを書いてみると、すらすらとペンが進んだ。ただ、とても人に見せられる内容ではない。卑猥な隠語と、独特の性癖で混ざり合って完成されているからだ。0時頃になり、彼女に電話をかけようか迷うが、結局は電話を取り、かける。彼女は電話に出る。ただ、おかしな音が聞こえる。オルゴール?いや違う、機械の音声が喋っている音だ。昔、電気街で聞いたことがある。彼女の声は聞こえない。ただ、いつまでも、機械の音は続いた。「ワタシハアナタガスキ」その言葉の繰り返しだ。僕は眠くなって電話を切った。もう彼女に用はなかった。布団に入ると、レポートのこと、いや、会社のことだってどうでもよくなってきた。いい夢を見る予感がした。彼女とのセックスを思い起こし、布団に入った。そうだ、僕は彼女に包まれてよく眠っていた。感覚がよみがえる。僕は眠りに落ちた。

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