処刑のエキストラをした男の話。
処刑人のエキストラを務めていたことがあるんだ。映画の話じゃないぜ。
知ってるかい、現代の処刑のシステム。
色々あるんだけど、首吊らせて殺すんだ。電気椅子? アメリカさんなんかはそれでビリビリってやるのかもしれないけどね。いや、いっそのこと、そっちの方がいいくらいだよ。絞首台っていうのはね、そう、絞首台っていうんだよ、首吊る道具は。絞首台っていうのは、どうもじめじめしていけない。なんか今までの罪人の怨嗟? そういうのが籠っている気がしてね。
そう、罪人なんだよ。処刑だからね。
その処刑方法が振るっている。三人の係がね、同時にボタンを押すのさ。正解は一つだけで、その一つのボタンは、絞首台の床をぱかっと開くスイッチなんだ。そう、台所の地下にある野菜室みたいなもんさ。あの蓋がスイッチひとつでぱかっと開くんだと思いねえ。首吊った状態で床が抜けたらどうなる? 落ちるだろ。つまり、これが処刑なんだよ。
え? 何故三人も係がいるのかって。そう、それだ。それがミソなんだよ。
だからさ、いくら罪人って言っても、いくら床のスイッチ押しただけって言っても、結局、要は、つまるところ、はっきりともう殺人だろ? 後味悪いだろ? だからさ、三人の誰が本当に床の扉を開閉させたかわからないようにして、そこんところ、うやむやにするんだ。ダミーのスイッチがふたつ、本物のスイッチがひとつ、自分は罪人を殺したのかもしれないし、そうでないかもしれない。そうするとさ、確証がないから、まだ救いがあるだろ? 逃げともいうかな。とにかく、そういうシステムなんだな。別に珍しくないって聞くぜ。そのアメリカさんの電気椅子? それでも似たようなやり方でやるんだろう、多分。スイッチって辺りがクサいよな。どうせこの三人スイッチ制度もアメリカさんからの輸入なんだぜ。やだね、お偉い人ってのは。すぐに向こうさんをマネしたがるんだから。俺はほそっこかったり大味だったりする米より、断然コシヒカリの方が好きだね。
ええと、……それで何の話だったっけ。
そう、エキストラだ。
とはいえね、三人必要だとはいえね。集まらない時があるらしいんだよ。資格を持った人がさ。つまり、法の下だったら、罪人殺してもいいですよ許可証を持つ人らがさ。非番とか長期休暇とか五月病とか退職とか。とにかく人手が足りなくなっちゃうらしいんだよね。
で、エキストラの出番だ。
つまり、数合わせだよ。三人せーのでボタンを押さないといけないから、その人数合わせ。
でも。でも、だよ。
結局、無資格なんだからさ。そのエキストラのボタンは100%ダミーなんだ。だって、許可証ないんだから。もし、本当に俺らが殺したら、殺人になっちゃうから。一応体裁上、三人必要だから頭数揃えてるだけなんだから。そういうの、本当、お役所仕事ってかんじだよね。
だからさあ。
怖いよね。エキストラが二人いる処刑ってのは。
つまり、誰が殺したか一目瞭然じゃないか。しかもね、エキストラは知ってるんだ。自分のボタンがダミーだって。知らないのは、正規の係の一人なんだよ。一人だけ曖昧なシステムに乗っかって、ああ、俺は殺したかもしれない殺してないかもしれないっていう辛うじての保険にすがってボタン押して、辛うじて嘔吐したりノイローゼになることなく家路に着くわけだよ。
でもね、そう、滑稽だよな。
俺達は知ってる。犯人はお前なんだって。
だからさ、後をつけてきたんだ。せめて教えてあげなくちゃって。
俺って親切だろう?
それで、青くなっているところ、悪いけれど、どんな気分? 人を殺すのって。