第2話 お弁当
AM 9:00
「…この公式によって、Xの値が割り出せるため…」
ただ今数学の授業中。
担当は、大学卒業間もない新任教師。
朝のホームルーム後、案の定、美紀には質問の波が押し寄せていた。その為、幸平はゆっくり窓の外を眺める事も出来ず、席を外さざるをえなかった。
が、さすがに授業が始まると、それも一旦は収まり、静かになった。
そっと、隣の席を盗み見る。
日に焼けてない白い肌と、肩の辺りまでのストレートヘア。
その視線は真っ直ぐにノートへと落とされ、時々、落ちてきた髪を耳に掛けながら、黒板をノートに書き写している。
(指、細いなー。…ん?)
幸平の目が、ある地点で止まる。彼女の手首に見つけた、薄い跡。
(何かで切ったのか?)
なんて考えていると、視線に気づいた彼女と、思いっきし目が合ってしまった。
「…?」
不思議そうに見つめられる。
(何?)
とでも言っているようだ。
(ワリィ)
手を顔の前に持ってきて、心の中で謝る。何で謝ったかは、自分でも分からない。
(いえ…)
すると彼女も、ジェスチャーで答えてくれた。
PM 0:20
午前の授業が終わり、皆それぞれ昼食をとる為に、移動し始める。
幸平も、席を立とうとしたときだった。
ふと、自分の隣の席に目がいく。
今日転校してきたその子は、困り顔でそこにいた。
「どうした?」
何となく、尋ねてみる。
「えっと…。ここってお弁当なんだね。」
「そーだけど。まさか、弁当忘れた?」
「うん…」
その通りだと、俯き顔で肯定された。
「どーすっか〜。あっ、じゃあ売店でなんか買えば?」
「売店、あるの?」
「あぁ。北校舎にな。一緒に行く?」
なんて、言ったら、彼女がはっと顔を上げて、首を振った。
「えっ、でも悪い…。」
本当に申し訳なさそうな顔をする。
「良いって別に。どうせ俺も、今日はパンなんだ。」
「…ありがとう。」
売店までの道のり、彼らはたわいも無い話しをした。
幸平が、ここまで女子生徒に心を開くなんて、珍しい事だ。それも転校生に…。
「にしても、弁当忘れるとわな〜。お前んとこ、給食だったの?}
高校で給食って、どんな学校だよ。とでも言いたげな口調だ。
「ううん。ただ、いつも学食で食べてたから。」
何故か、彼女の声が少し暗くなった気がした。
「ふ〜ん。うち、学食ねーんだ。」
「何でだろう?」
「何でも、コスト削減のためとか…。うちの学校、変なところにばっか金かけたがるから、そういうとこにまで金が回んねーんだ。」
「へ〜」
妙に感心した感じ。
そんなこと言いながら、
(何で俺、こいつとこんな事話してんだろ?)
何て、ふと疑問に思ったりもする。が、自然と出てくる言葉を無理に留めるも面倒なので、幸平はそのまま放っておくことにした。
午後の授業は、日本史だっけ?