第14話 俯き顔
AM 9:50
「おいっ並木!」
「んだよ?」
「先公から聞いただろ? あのこと。」
「…あぁ。」
「…お前、何か知らないか。」
「何かって?」
「だから! 犯人についてだよ!」
「…俺を疑ってんのか。」
「ばっ! ちげーよ!」
「あっそ。…俺は、何も知らない。」
「でもお前は…」
「しつけーよ! 俺は、もう関係ねーだろ!?」
AM 8:55
「え〜、既に知っている者も多いと思うが…」
おもむろに話し始めた担任の岡崎こと、じいちゃん先生。
「今朝、サッカー部の部室が荒らされているのが見つかった。」
やはり知っている者が多かったのか、驚きの声をあげる者は殆どいなかった。
「犯人はまだ分かっていない。」
そりゃそうだろう。
「まぁ、部室があんな状況だ。サッカー部も、しばらく休部となるらしい。」
それじゃあ…
「もしかしたら、今度の大会は棄権となるかもしれないな。」
………。
「以上だ。誰か、犯人についての情報等あれば、必ず報告するように。」
そうして、先生が教室を出ようとした時だった。
一人の男子生徒が、勢いよく立ち上がる。
「岡崎!」
「…何だ?」
振り返った担任の目は、その歳を彷彿とさせないほど鋭く尖っている。
この人は、何か知っている…。
しかし男子生徒も、その教師の視線の矢をもろともせずに話し続ける。
「その犯人だけど、調べるまでもないだろう?」
「…どういう意味だ?」
「それは、あんた等の方が良く分かってる筈だ。」
「…分からんな。」
そう言うときびすを返し、再び教室を出ようとする。
その背中に、尚も論を唱え続けるのは、納得のいかない顔。
「また…あんた等はまた、目を瞑るのか!」
「………。」
「岡崎!」
「お前も少しは大人になれ。…並木。」
―バタンッ―
担任が扉の向こうに消え、後に残されたのは、
重たい空気と、唇をかみ締める幸平の俯き顔だけ。
AM 7:50
「並木先輩!」
幸平は、登校早々、知らない女子に呼び止められた。
「………何?」
相当不機嫌そうな顔をしていたのだろう。
彼女達が、慌てて謝罪してくる。
「あっ、すいません! 私達、2年なんですけど…。」
「2年? 何か用?」
ぶっきらぼうな奴。
「あの…並木先輩って、米坂先輩と仲いいですよね?」
「…は? 何お前等、アイツの知り合い?」
「知り合い…と言うか、家が近所なんです…。」
「へぇ。」
「それで。並木先輩なら、今 米坂先輩が何処にいるか知ってるんじゃないかと思って…」
唐突にそんな事言われて、幸平も少々驚き顔。
「……? 知らないけど。」
「そうですか…。」
「もうすぐ来るんじゃねーの?」
「いえ…それが、家に帰ってきてないらしいんです。」
「………。」
どういうことだろ…