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「ときにショーンよ、お主は魔物とモンスターの違いが分かっておるか?」
「似た存在ですが、魔法を使えるのが魔物で、使えないのがモンスター……ですよね?」
「ほう。人間たちの間ではそういう認識なのか」
「違うんですか?」
魔王リディアは一つ咳払いをしてから、講義のテンションで両者の違いを語り始めた。
「魔物とモンスターの一番の違いは成り立ちじゃな。モンスターは想像上の化け物、可愛く言うとお化けに近いものを起源としておる」
お化けが可愛いのかはさておき。想像上の化け物が起源だというのは納得だ。そういった姿形のモンスターを旅の中で何度も見ている。
「一方で魔物は魔力を持っている生き物。動物に近い存在と言える」
そこまで言った魔王リディアは、人差し指を立てて左右に振った。
「つまり、魔物とモンスターは全く似ておらん。どちらかと言うと、魔物はモンスターよりも人間に近い存在なのじゃ」
魔物とモンスターよりも、魔物と人間の方が近い存在。
今の話で分かったような気もするが、しかしどうにも飲み込むことが出来ない。だってあまりにも人間と魔物は姿が違いすぎる。
「妾はかなり人間に近い姿じゃと思うぞ」
「リディアさんはそうですが、人間とかけ離れた外見の魔物の方が多いと思います」
「ふむ。姿うんぬん言うのであれば、人間と犬と鳥は姿が違うが、同じ動物の括りじゃ。対して幽霊は姿が人間に似ていようと、同じ括りにはせぬであろう?」
「確かに、そうですが……」
そうなると、魔物が人間を殺して世界征服をしようとしていることが、ただの悪ではないように思えてしまう。だって、それは。
魔物が悪なのではなく、ただの生存競争だ。
この世界で魔物が栄えるために魔物は人間と戦い、人間はこの世界で栄え続けるために魔物と戦っている。
魔王討伐というのは、悪を懲らしめる戦いではなく「敵の親玉を殺して敵側の戦意を喪失させ生存競争に勝て」という意味を持っているのではないだろうか。
「そうじゃ。青少年よ、悩み、疑い、考えろ。それだけが、誰にでも許された権利なのじゃから」
俺はダンジョンを歩きながら、魔王リディアの発言について考え続けていた。
魔物は人間と同じ括りであり、生存競争をする相手。そもそも魔物が悪さをしているというのは、人間側から見た意見だ。魔物側から見たら、悪さをしているのは人間の方かもしれない。だから……。
「ワッハッハ。そんな甘い考えでは人間は生存競争に負けてしまうぞ。国王のように、魔物を悪に仕立て上げ殲滅させるようなズル賢さが無いとのう。彼は実に上手い指揮官じゃ」
魔物たちが不当な扱いを受けているというのに、魔王リディアは楽しそうにしている。
「人間の俺が言うことではないですが……魔物たちは、魔王のあなたに人間を滅ぼしてほしいと願っているのではないですか?」
俺の質問に、魔王リディアは困ったように眉を下げた。
「実際、そのように願っている魔物は多い。妾はそのものたちの思想を止めはしなかった。そして、妾は協力せぬが各々の考えるまま行動するとよい、と進言した。妾は人間を殲滅するよりも、のんびり旅をする方が好きじゃからのう。関わりたくなかったんじゃ」
「……魔物たちがそんな状態の中、本当にリディアさんは自分勝手が許されたんですか?」
「妾に反対意見を言えるものなど存在せぬ。しかしいい顔はされんかった。だから今は別のものが魔王城を管理しておる」
「魔王じゃなくても、魔王城を管理出来るものなんですか?」
俺の素朴な疑問に、魔王リディアは困ったような顔のまま微笑んだ。
「妾が魔王と呼ばれるのは、魔物の中で一番強いからじゃ。統率力で言うなら、妾よりも今現在魔王城を管理しているものの方が、よっぽど魔王に向いておるかもしれんのう」
「魔王の座をその人に譲らないんですか?」
「嫌じゃ! 妾が魔物の中で一番強いのじゃ。魔王の座を譲ったら、妾が一番ではないみたいになるのじゃ」
「そんなしょうもない理由で魔王をやってるんですか?」
「しょうもなくないのじゃ! 一番かそうでないかは、とっても重要なことなのじゃ! 妾が一番なのじゃ!」
話を聞く限り、目の前の美少女は世界征服を目論む魔王像とはかけ離れている。どこからどう見ても、世界征服なんて望んでいない。
「その通り、妾は世界征服などどうでもよい。しかし、そうではない魔物が多いこともまた事実。そして妾は、魔物たちの行動をそれぞれの自由意思に任せておる。世界征服をしようとする魔物がいてもおかしくはないのじゃ」
難しい話だ。魔物のトップである魔王は世界征服を狙ってはいないが、魔物の中には狙っているものもいる。だから人間側の国王が言っていることのすべてが嘘なわけでもないのだろう。




