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雨は味方のふりをする ―― 雨の日だけ、君が遠い

作者: 通学路
掲載日:2026/02/20

私の初めての作品です良ければ温かい目で読んでみてください

梅雨の雨は、やさしい。

強く責めたりしないし、答えを迫ったりもしない。

ただ静かに降り続いて、全部を曖昧にしてくれる。


だから六月は嫌いで、好きだ。


傘をさして歩きながら、スマホの画面を見る。

新しい通知はない。

既読もつかない。


ほっとしている自分に気づいて、少しだけ胸が痛む。


返信が来なければ、何も決めなくていい。

好きかどうか、続けたいかどうか、

終わらせる勇気があるかどうかも。


雨は、そういう判断を先延ばしにするのが上手い。


前は、名前を見るだけで嬉しかった。

通知の振動ひとつで、世界が少し明るくなった。


今は、逆だ。

画面が光るたび、

心のどこかが固くなる。

開く前から、少し疲れている。


嫌いになったわけじゃない。

でも好きでもない。


一番残酷な温度だと思う。


「会いたい」


短いメッセージ。

たったそれだけなのに、雨音が急に大きく聞こえた。


会えばきっと、優しい。

笑うし、困った顔もするし、

前みたいに手を取ってくるかもしれない。


そうしたらたぶん、

「もう好きじゃない」なんて言えなくなる。


だから会いたくない。

でも会いたくないと言うほど、嫌いでもない。


中途半端な感情は、刃物より扱いづらい。


雨は全部を同じ重さにする。


好きだった記憶も、

楽しかった時間も、

今の違和感も、

罪悪感も。


全部、同じ音で叩いて、

同じ色に濁らせる。


何が本音なのか分からなくなる。


濡れた空気を吸い込むと、頭が冷える。

考えが一本の線になる。


別れたほうがいい。


シンプルで、正しくて、

たぶん誰に相談しても同じ答えが返ってくる。


でも雨がもう少し強くなると、

その線さえ滲んで消える。


「今じゃなくてもいいか」


そうやって、何度も先延ばしにしてきた。


好きな気持ちは、もう大きくない。

でも、ゼロでもない。


それが一番、逃げ場をなくす。


完全に嫌いなら、終われる。

まだ大好きなら、続けられる。


どちらでもないから、

どこにも行けない。


雨は優しい顔をしている。

でも本当は、何も解決してくれない。

ただ、決断の温度を下げるだけ。


別れる勇気も、

続ける覚悟も、

どっちも鈍らせる。


だから楽だ。

だから抜け出せない。


交差点で信号を待ちながら、空を見上げる。

灰色の向こう側なんて見えないのに、

なぜか見ようとしてしまう。


もし今、雨が止んだら——

全部決めなきゃいけない気がする。


だから、少しだけ願う。


もう少し降っていてほしい、と。


スマホが震える。


「既読ついた?大丈夫?」


優しい言葉。

責めてもいない。

ただ、こっちを気にしているだけ。


それが一番苦しい。


嫌な人なら、切り捨てられた。

冷たい人なら、怒れた。

どうでもいい人なら、無視できた。


優しい人だから、逃げられない。


画面に落ちた雨粒が、文字を歪ませる。

涙じゃないのに、境目が分からなくなる。


僕は雨が好きだ。


考えを流してくれるから。

気持ちを冷ましてくれるから。

どうでもよくしてくれるから。


でも同時に、

本当に大事な決断まで遠ざける。


返信欄を開いて、閉じて、また開く。

言葉はいくらでも浮かぶのに、

どれも本音じゃない気がする。


「ごめん」

「少し距離置きたい」

「もう好きじゃない」


どれも正しくて、

どれも残酷で、

どれも言えない。


雨はまだ降っている。


世界はぼやけて、

遠くの信号も、歩く人も、

全部少しずつ現実味がない。


このまま全部溶けて、

関係ごとなかったことになればいいのに、と思う。


でも雨はそこまで優しくない。

ただ薄めるだけだ。

消してはくれない。


結局、何も送れないまま画面を閉じる。


ほっとして、

同時にひどく自己嫌悪になる。


たぶんまた、明日も同じことを繰り返す。


だから僕は、雨が好きだ。


別れなくてもいい理由をくれるから。

向き合わなくていい時間をくれるから。

優しい顔をして、逃げ道を用意してくれるから。


そして何より——


好きじゃない相手を手放せない弱ささえ、

「仕方ないこと」にしてくれるから。


雨は味方じゃない。

敵でもない。


ただ、何も決められない人間の隣で、

静かに降り続いてくれるだけだ。


まるで、

この関係みたいに。



それでも、同じ雨の下にいる。



六月になると、既読が遅くなる。


最初は偶然だと思っていた。

雨で電波が悪いのかもしれないし、

部活や勉強が忙しいだけかもしれない。


でも、毎年そうだと気づいたとき、

偶然じゃないんだと思った。


梅雨のあいだだけ、

君は少し遠くに行く。


窓の外はずっと雨。

メッセージを打っては消して、打っては消す。


「大丈夫?」

「何してる?」

「会いたい」


どれも重い気がして、

でも何も送らないのはもっと怖くて、

結局いちばん短い言葉だけ送る。


「既読ついた?」


送ったあと、すぐ後悔する。

責めているみたいで、嫌だ。

本当はただ、つながっていたいだけなのに。


前はすぐ返ってきた。


どうでもいい話でも、

スタンプだけでも、

夜中でも。


通知が来るたびに、

「ああ、ちゃんといる」

って安心できた。


今は、画面が静かすぎる。


嫌われたのかもしれない、と思う。

でも決定的なことは何もない。


喧嘩もしていないし、

冷たい言葉を言われたわけでもない。

別れ話が出たわけでもない。


ただ、少しずつ遅くなっただけ。


それが一番怖い。


雨音は均一で、容赦がない。

考えたくないことまで浮かび上がらせる。


もしかして、もう好きじゃないのかな。


その可能性を思いついた瞬間、

胸の奥が冷たくなる。


でもすぐに否定する。


だってこの前も笑ってくれたし、

手も離さなかったし、

「大丈夫」って言ってた。


言ってたのに。


「会いたい」


送るのに三分かかった。

短い言葉なのに、やけに重い。


既読がつかない。


五分。

十分。

三十分。


たったそれだけで、

世界の重心がずれていく。


雨の日は、どうしてこんなに不安になるんだろう。


何も起きていないのに、

全部終わりに近づいている気がする。


傘を持って外に出る。

行くあてもないのに、歩き出す。


じっとしていると、

「考えすぎ」が膨らみすぎて壊れそうになるから。


君は雨が好きだと言っていた。


落ち着くから。

考えがまとまるから。

どうでもよくなるから。


そのときは、いいことだと思った。

穏やかな人なんだな、って。


でも今は少し怖い。


もし本当に全部どうでもよくなるなら、

私のこともその中に入ってしまうんじゃないか。


やっと既読がつく。


それだけで、心臓が強く鳴る。

でも返信は来ない。


「読んだ」という事実だけが残る。


期待と不安が同時に最大になる瞬間。


何か送ろうとして、やめる。

追い詰めたくない。

重いと思われたくない。

でも何もしないと消えてしまいそうで怖い。


どうすればいいのか分からない。


雨はやさしくない。


何もしてくれないくせに、

考えだけを増幅させる。


止んでくれれば、

会いに行く理由ができるのに。


ようやく返信が来る。


「ごめん、気づかなかった」


たったそれだけ。

絵文字もない。

句読点もない。


でも安堵が先に来る。

終わっていなかった、と思う。


同時に、どこかが少しだけ沈む。


前なら、

「どうしたの?」とか

「今何してるの?」とか

何かもう一言あったはずだから。


それでも、責められない。

責めたら壊れそうだから。


優しくするしかない。

普通にするしかない。

何も気づいていないふりをするしかない。


君はきっと、何かと戦っている。

勉強かもしれないし、

疲れかもしれないし、

ただ気分が沈んでいるだけかもしれない。


私が原因じゃない可能性に、

必死にしがみつく。


原因が私だったら、

どうしていいか分からないから。


雨はまだ降っている。


もし君がこの雨を好きなら、

今は少しだけ私よりも

この静けさのほうを選んでいるのかもしれない。


それは責められない。

でも、寂しい。


私は雨が嫌いだ。


君が遠くなるから。

声が届かなくなるから。

何もできないまま待つしかなくなるから。


でも本当は——


雨そのものが嫌いなんじゃない。

雨の日の君が、知らない人みたいになるのが怖い。


もし本当に、

もう好きじゃないなら、

はっきり言ってほしいと思う。


そのほうがきっと楽だ。


でも同時に、

言われたら壊れることも分かっている。


だから今日も、何も聞けない。


雨はただ降り続いている。


止めることも、

早めることも、

選ぶこともできない。


まるでこの関係みたいに。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


この物語は、

「雨が好きな人」と

「雨が嫌いな人」の両方を思い浮かべながら書きました。


同じ雨でも、

誰かにとっては逃げ場になり、

誰かにとっては孤独を深めるものになる。


もし今、何かを決められずにいる人や、

言えないまま抱えている気持ちがある人がいたら、

どうかあなたのせいだけではないと思ってほしいです。


雨は、味方のふりをするだけなので。


またどこかで、同じ雨の下で会えたら嬉しいです。


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