評価は正直
翌日。
俺は、いつもより早く目を覚ました。
理由ははっきりしている。
昨日、棚が空になるまで菓子がなくなったからだ。
「……調子に乗るなよ」
そう自分に言い聞かせながら、台所に立つ。
昨日と同じ手順。
だが、どこか慎重になっている自分に気づく。
誰かに食べさせる。
その前提があるだけで、手が変わる。
卵を割る音。
混ぜる速度。
火を見る目。
失敗が、前より怖い。
「……落ち着け」
深く息を吐き、作業を続ける。
昼過ぎ。
戸を叩く音がした。
「……来たか」
扉を開けると、昨日来た男と、その後ろに二人。
顔見知りが、少しずつ増えている。
「今日は、あるか?」
「……ある」
棚から、皿を出す。
「ただし」
「……?」
「感想は、正直に言え」
男は一瞬きょとんとしたあと、笑った。
「最初から、そのつもりだ」
一口。
二口。
「……昨日より、いい」
「粉っぽさ、減ったな」
すぐに、別の声。
「でも、ちょっと固い」
「中の甘さ、もう少し欲しい」
胸が、ちくりとする。
だが、目を逸らさずに聞いた。
「……他は」
女が顎に手を当てる。
「見た目、可愛いわ」
「色がついたら、もっといいかも」
「色?」
「果物とか、使えない?」
知らなかった視点だ。
前世では、当たり前だったこと。
「……考えてみる」
言葉にすると、不思議と前向きになる。
全員が食べ終わる頃には、皿は空になっていた。
「……以上だ」
男は満足そうに頷く。
「正直に言うぞ」
「……ああ」
「これは、また食いたい味だ」
「完璧じゃねぇが、癖になる」
その一言で、胸の奥が少し軽くなる。
「明日も、あるか?」
「……分からん」
即答しなかった。
だが、否定もしなかった。
人が帰ったあと、俺は椅子に腰を下ろす。
評価は、正直だった。
甘い言葉だけじゃない。
欠点も、はっきり言われた。
それでも。
「……悪くないな」
前世では、評価される前に諦めていた。
怖くて、聞けなかった。
だが今は、違う。
棚の上の空いた場所を見つめる。
「……次は、もう一段、上だな」
不器用でもいい。
遅くてもいい。
誰かが、正直に向き合ってくれるなら。
俺は、まだ作れる。




