王の口に、もう一度
再び呼ばれたのは、昼過ぎだった。
「王がお呼びだ」
昨日と同じ言葉。
だが、胸の中の重さは違う。
「……今度は、逃げ道がないな」
盆の上に、しぶ甘菓を並べる。
今日は、形のいいものだけを選んだ。
七十八の中から、六つ。
「……足りるか」
「十分だ」
料理長は、そう言って頷いた。
広間は、前より静かだった。
余計な者はいない。
王は、昨日と同じ椅子に座っている。
「来たか」
「……はい」
皿を差し出す。
「量産したと聞いた」
「……まだ、完全ではありません」
「完全なものなど、そうそう無い」
王は、一つ手に取った。
一口。
目を閉じる。
二口目で、少しだけ眉が動いた。
「……昨日より」
「甘さが、引いているな」
「……城向けに、調整しました」
「ほう」
三口目。
「軽いのは、変わらん」
「だが」
「後に残らん」
王は、皿を見下ろす。
「城の菓子はな」
「甘さで、黙らせるものが多い」
「……はい」
「だが、これは」
「仕事の合間に、食える」
その言葉に、喉が少し熱くなる。
「不満は、あるか」
急に、そう聞かれた。
「……あります」
思わず、答えてしまった。
側仕えが、わずかに身じろぐ。
「言え」
「聞こう」
「……数が、安定しません」
「……自分が、不器用なので」
王は、少しだけ笑った。
「それで良い」
「……?」
「不器用な者はな」
「手を抜かん」
「器用な者は、近道を探す」
「どちらが良いかは、時と場合だ」
王は、はっきり言った。
「城に、残れ」
「……専属、ですか」
「そうだ」
「菓子担当としてな」
言葉が、胸に落ちる。
「……市場には、出られませんか」
「制限は、付く」
「だが」
「許可があれば、可能だ」
一瞬、迷いが走る。
市場の喧騒。
少年の笑顔。
ガルドの声。
「……考える時間を」
「一晩やる」
「……ありがとうございます」
王は、満足そうに頷いた。
「明日」
「答えを聞こう」
城を出る。
空は、少し曇っていた。
「……専属、か」
重い言葉だ。
逃げ場がなくなる。
だが、作る場所は、安定する。
「……どうする」
厨房の隅。
ルークが、黙って片付けをしていた。
「……王に、言われた」
「残れって」
「……だろうな」
「……どう、思う」
ルークは、少し考えてから言った。
「逃げるなら」
「今だ」
「……残るなら」
「地獄だ」
「だが」
「腕は、確実に上がる」
「……お前は」
「……ここに、残る」
「仕事だからな」
その答えが、妙に救いだった。
「……一晩、考える」
厨房を出る。
しぶ甘菓の匂いが、まだ指に残っていた。
「……不器用、か」
王の言葉が、頭に残る。
「……悪くない」
そう呟いて、空を見上げた。




