目覚めたら中年だった
土の冷たさと、空の青さに目を覚ました。
夢にしては、あまりにも現実的だった。
立ち上がった瞬間、身体の違和感に気づく。
重心、視線の高さ、関節の感覚。
すべてが、知らない。
水桶に映る顔を見て、言葉を失った。
白髪混じりの中年。
疲れた目。
愛想の欠片もない表情。
「……誰だ、これ」
だが、記憶が流れ込んできて理解する。
ここは異世界。
自分は転生した。
しかも、若返りもしていない。
「……運、悪いな」
そう呟いた声だけは、なぜか落ち着いていた。
第2話 甘いものが足りない
町の食堂で出された食事は、質素だが温かかった。
パン、スープ、煮込み。
だが、食後。
どうしても、何かが足りなかった。
「……甘いもの」
ぽつりと零れた言葉に、店主は首を傾げる。
菓子はある。
だが、どれも素朴で、軽い。
前世で当たり前だった、あの鮮やかな甘さ。
それが、この世界には存在しない。
胸の奥が、じわりと冷えた。
第3話 マカロンという言葉
「マカロン?」
その言葉は、誰にも通じなかった。
丸い菓子だと言っても、首を振られる。
甘くて、軽くて、間にクリームがあると言っても、想像すらされない。
その瞬間、理解した。
これは、失ったものだ。
世界ごと、置いてきたものだ。
だが同時に、奇妙な火が灯る。
「……ないなら、作るしかない」
第4話 無謀な挑戦
市場で材料を探し、台所に立つ。
ナッツを砕き、卵を混ぜ、砂糖を加える。
指は痛く、腕は重い。
失敗作が山のように積み上がる。
割れる。
焦げる。
潰れる。
「……向いてないな」
それでも、捨てられなかった。
不器用だからこそ、諦めきれなかった。
第5話 それでも、作り続ける
夜。
粉まみれの台所で、一人座り込む。
前世で、静かにマカロンを食べていた自分を思い出す。
あの時間が、どれほど救いだったか。
「……もう一回だけだ」
そう呟いて、立ち上がる。
それが、この世界での、第二の人生の第一歩だった。




