王城向け、最初の百
朝が来る前から、厨房は明るかった。
火は既に入っている。
鍋の音も、包丁の音も、昨日より早い。
「……百、か」
数字にすると、途端に重くなる。
「数を決める」
「今日は、百だ」
料理長の声は、容赦がなかった。
「失敗したら」
「その分、減るだけだ」
「……分かりました」
卵の箱が、積まれる。
「割るの、手伝うか」
「……頼む」
ルークが、無言で隣に立った。
手つきは、俺よりずっと速い。
殻も、混じらない。
「……すごいな」
「仕事だからな」
それだけ言って、作業を続ける。
砂糖の量を、微調整する。
蜂蜜は、昨日より控えめ。
「甘さ、落としたな」
「……城向けだ」
「王様か」
「……たぶん」
窯に入れる。
温度計を、何度も確認する。
「……高すぎる」
「一段、下げろ」
ルークが言う。
「……分かった」
従う。
焼き上がり。
最初の二十。
「……割れてる」
「……歪んでる」
数個、形が崩れた。
「……使えない」
「……味は、同じだ」
「城だぞ」
ルークは、厳しい。
「……下げる」
「……廃棄だ」
胸が、少し痛む。
「……次、行く」
二回目。
温度を、さらに調整。
今度は、安定した。
「……いける」
三回目。
途中、窯の火が強くなった。
「……焦げる」
慌てて、調整。
結果、十個、色が濃い。
「……使えない」
「……下げる」
料理長は、無言で数を減らす。
「……最終、七十八」
百には、届かなかった。
「……すみません」
「謝るな」
「結果だ」
料理長は、淡々としている。
だが、続けて言った。
「初日で、七十八」
「悪くない」
ルークが、横を見る。
「……次は、いけるな」
「……ああ」
配膳。
皿に、しぶ甘菓が並ぶ。
城の使用人たちが、恐る恐る口にする。
「……軽い」
「……疲れた後に、いい」
声が、広がる。
「……甘すぎない」
「……また、食べたい」
胸の奥が、じんわりする。
「……売れる、な」
「……城では、な」
ルークが、小さく言う。
片付けの後。
窯の前で、二人並ぶ。
「……不器用だな」
「……ああ」
「でも」
「続ける気は、ある」
「……ある」
「なら」
「教える」
その一言が、妙に重かった。
「……ありがとう」
「礼は」
「百、作れてからだ」
厨房の外。
空は、もう明るい。
「……百、か」
昨日より、少しだけ近く感じた。




