売れた数、売れなかった数
市場は、朝から騒がしかった。
呼び込みの声、荷を下ろす音、人の足音。
いつもより少しだけ、心臓の音がうるさい。
「緊張してるか」
「……少しな」
ガルドの荷車の横。
簡素な木箱の上に、白布を敷き、その上に菓子を並べた。
三十個。
形は揃っている。
だが、一つ一つ、微妙に表情が違う。
「最初は、声を出すぞ」
「任せろ」
ガルドが低く通る声で呼びかける。
「新作の菓子だ」
「果実と蜂蜜、軽くて甘い」
足を止める者が、ちらほら出る。
だが、すぐには手が伸びない。
「……見慣れないな」
「焼き菓子か?」
「白いな」
視線は集まるが、買うには至らない。
「……やっぱ、早すぎたか」
そう思った瞬間。
「それ、一つもらえる?」
声をかけてきたのは、若い女だった。
籠を抱え、服は質素。
「銅貨三枚だ」
「……安いのね」
女は迷わず、硬貨を置いた。
一つ目。
包んで渡すと、女はその場で一口かじる。
「……あ」
「……甘い」
目を丸くした。
「中、柔らかい」
「これ、何?」
「焼き菓子だ」
「名前は……まだだ」
「じゃあ、また来るわ」
そう言って、人混みに消えた。
そこからだった。
「あの人、戻ってきたぞ」
「本当だ」
女は、二人連れになっていた。
「三つ、ください」
「……三つ?」
「家で食べさせたいの」
それで、四つ目。
昼前には、十を超えた。
「……動き、悪くないな」
「……正直、意外だ」
だが、勢いは長く続かない。
昼過ぎ、人の流れが変わる。
日用品に集中し、菓子は後回しだ。
箱の中には、まだ十六。
「……残るな」
「そうだな」
ガルドは、数字を冷静に見ている。
「だが」
「最初にしちゃ、上出来だ」
「……そうか?」
「全部売れると思ってたか?」
「……少し」
「欲張りだな」
夕方。
市場が片付けに入る頃、残りは十二。
「……半分以上、残ったな」
包みを見つめる。
「……失敗、か」
「違う」
ガルドは、はっきり言った。
「売れた」
「それだけだ」
「……」
「買ったやつは、味で買った」
「物珍しさじゃねぇ」
少し、胸が軽くなる。
「残りは、どうする」
「……明日、改良する」
「ほう」
「今日の分は」
「……自分で食べる」
「全部か?」
「……食える分だけな」
ガルドは、珍しく笑った。
「悪くねぇ」
市場を後にする。
箱は、軽くなった。
だが、頭の中は、重い。
売れた数。
売れなかった数。
どちらも、事実だ。
「……次は」
「次は、もっと、うまくやる」
そう、心の中で繰り返した。




