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西園寺青豆の不運  作者: 雨水卯月
第三章

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2.考える人は、ほんとに考えてる?

海翔は思った。

同棲を始めて、ようやく分かった。


高校二年のとき、すずめが言った言葉。

「あんたの不安はなくならないよ」――あれだ。


今さらだ。重い。ずっしりと重い。


「一緒に住んでも、かぁ…」


頭を抱える海翔。


青豆には、ちょっと、いやだいぶ無理をさせている気がする。

友達も、家族も、環境も全部置いて、彼女はここに来てくれたのに。

それなのに、自分はまだ不安だなんて。


医大生の自分と、語学留学中の彼女。

活動時間はズレまくりだ。

語学学校は昼過ぎまで。

そのあと何をしているか、逐一報告させるのは酷だと分かっている。

でも心配だ。いろんな意味で。


課外授業で観光地に行くと聞いたときも、

「男と二人っきりには絶対ならないで!」

つい、言ってしまった。


かっこ悪い。狭量すぎる。


でも文化的にカップル同伴OKだし、

彼女の集まりに飛び入り参加して牽制している。

授業との兼ね合いもあるが、なるべく。


彼女がそばにいるせいでの葛藤。

勉強との両立の難しさ。


藤堂海翔は、今までにないくらい悩んでいた。

すずめに言わせれば「くだらない悩み」と一刀両断されるだろう。


________________________________________


最近、青豆が何かこそこそしている。

海翔は気が気でなかったが、面と向かって聞く勇気はない。

彼の自己肯定感は地の底を這っていた。


「あのさ、ちょっといい?」


青豆が、少し言いにくそうに声を掛ける。

ああ、とうとうこの時が来たか――。


海翔は覚悟して目を閉じる。


思えば一か月前、布石はあった。

青豆が難しい顔でパソコンに向かっていた時のこと。

海翔がコーヒーを淹れて近づく。


「どうしたの?」

「留学先の大学、いいところが見つからなくて…」

「今の大学じゃダメなの?」


Y大の留学プログラムは一年限定。

半年語学学校、半年提携大学。

青豆は楽しみにしていたが、希望のカリキュラムではなかった。


「うん、ちゃんとした建築学部じゃなかったの…」


そのときから、なんとなく予感していた。

彼女は帰国するのだろう、と。

そして、別れを切り出されるのだろう、と。


________________________________________


――そして今、青豆は申し訳なさそうに口を開く。


「私、ちゃんと建築学びたいの。そのためには帰国してあっちの大学に通う」

「うん…」


分かる。分かるよ。


「ごめんね、海翔。期待させるようなこと言って、結局出来なくて」

「いいよ…」


本当は嫌だ。ずっと側にいて欲しい。

でも言えない。


「それでさ、私たちまた離れ離れになっちゃうでしょ」

「…」


それ以上は言わないで。


「海翔、私がこっちに来てからも、辛そうにしてたよね?」


聞くのが怖い。


「だから、私考えたの」


湖面のように澄んだ目で青豆が海翔を見る。

声が震える。先の言葉は簡単に予測できた。


いやだ。絶対に聞きたくない。


「私たち、結婚しよ」


「………え?」


時間が止まった気がした。

音も光も、世界が一瞬止まった。

言葉だけが、宙に浮いている。


________________________________________


すると、玄関ががやがやと騒がしくなる。

身動きが取れない海翔を置いて、彼女は玄関へ行ってしまった。

ぽかーん。ぽつーん。


「けっこんしよ…って、どういう意味だっけ?」

たぶん、今IQ3くらいだった。

じわじわ意味を噛みしめ、涙が零れる。

あ、泣いてる。

泣いてる自分を笑う暇もない――その時、


パンッ! パンッ!


クラッカーの音が現実に引き戻す。

「結婚おめでとー!!」「ヒュー!」


友人の七瀬、百田、すずめ、青豆の妹・香澄が現れた。

海翔は状況が飲み込めず、再び、ぽかーんとする。


「え? 何? サプライズ失敗?」

「ちょっと! 青豆! もしかしてプロポーズ断られたの?」

「…あ、返事まだだった」


青豆が恥ずかしそうに近づく。

背の高さもあり、微妙に緊張。


「海翔、返事は?」

「青豆、俺と結婚してくれるの?」

「うん、だってプロポーズしたよ」

「あの言い方…別れ話かと思った」


海翔はぎゅっと青豆を抱きしめる。

青豆は少し焦った。


「よか、った…」


肩に温かいものが落ちる。


「海翔、泣いてんじゃん…」

「わぁ、マジだ。引くわ」

「最高のプロポーズじゃん! ネット小説書くといいよ!」

「おねえ、良かった…これで念願のサンフランシスコでの結婚式が実現できるね」


なんだかカオスな状況。

――人生って、本当に不運と幸運のいたちごっこだ。


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