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西園寺青豆の不運  作者: 雨水卯月
第三章

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29/33

1.私たち、同棲してみました。

彼女の名前は、西園寺青豆。

大学二年生で、ただいま一時留学中。

最近、同じく留学中の彼氏と同棲を始めた。


一見、勝ち組。しかし、彼女の人生は順風満帆とは程遠い。

不運の女神は、遠い異国の地でもしつこくついてくる。


狙っていたサンドウィッチは目の前で売り切れ、

バスは満員、

歩けばめったに降らない土砂降りの雨に直撃。


青豆はため息をつきつつ、人生ってこういうものかと呟く。


一方、彼の名前は、藤堂海翔。

留学中の医学部二年生。

最近、大好きな彼女と念願の同棲を始めた。


彼の人生は常に幸運に恵まれている。

家族運以外という注釈付きだが。

異国の地でも、彼には幸運の女神に微笑んでいる。


彼女が狙っていたサンドウィッチが目の前で補充され、朝から感謝される。

満員バスも、彼女との時間の増加と捉えれば、嬉しいハプニングだ。

土砂降りの雨に降られても、常備している傘で平気。相合傘が出来てラッキー。


そう、これは正反対の二人の物語だ。

……ただし、幸運と不運のバランスは、いつだって予告なしに崩れる。


---


同棲が始まり、青豆は気づいた。

海翔は以前よりずっと優しくなっていた。

言葉の端々に、甘さが混じっている。


「海翔、そんなに見られるとやりにくい…」


包丁を握ったまま、青豆はつぶやく。


「何か手伝うよ」

「いい。指示出すの、面倒だから」

「ひどいな」


海翔の笑い声が湯気のように台所に漂う。

二人の間は、恋人と家族の距離の中でいつもふわふわ揺れていた。


________________________________________


海翔も気づく。

青豆は、視線を受けるのが少し苦手だということに。


彼女は好意の光を真正面から受け止めることに慣れていない。

たぶん、これまでの不運が、彼女を世間の好奇の目から遠ざけてきたのだろう。

同時にそれが、彼女を守ってもいた。


「なに……?」

「うん、かわいいなぁと思って」

「もー…からかってるでしょ」


笑いながらも、彼は本心。

伝わらないもどかしさが、胸の奥でじんわり熱を帯びる。

だから今日も、静かに見つめるのだ。


⁻⁻⁻


青豆が狙っていたサンドウィッチは、あと一つだけ。

並び順もあと一人。今日はいけるはず。

胸の中で確信する青豆。


しかし、目の前の人ではなく、会計を済ませたはずの人が戻ってきた。

最後の一つは、青豆の目の前から消えた。


しょんぼりと肩を落とし、カフェオレと二番目に狙っていたバゲットを注文する。

すると海翔が現れて、静かにそのサンドウィッチを皿に乗せた。


「え? なんで? さっき売り切れてたのに」

青豆は驚きと戸惑いを隠せなかった。


「すぐ補充されたみたい。それと取り換えて」

海翔は涼しい顔で言った。


青豆にはわかっていた。このサンドウィッチは、自分のために頼まれたものだということを。

彼は、いつだって青豆に甘かった。


________________________________________


停留所で二人はバスを待った。

しかし満員。仕方なく、青豆は海翔と学校まで歩くことにした。


空は曇り、今にも雨が降り出しそうだった。

「急ごう」と促した途端、土砂降りになった。


今日の天気予報も外れた。

青豆は心に決めた。

もう、サンフランシスコの天気予報は信じない、と。


隣で海翔は涼しい顔のまま傘を差している。


「学校まで送っていくよ」


その一言に、青豆の心は軽くくすぐられる。

彼は優しい、とんでもなく甘い。


語学学校に着くと、青豆は途端に手を引かれた。


『マメ! こっちこっち!』


人気者の彼女を持つのは、けっこう大変だ。


引き寄せられるようにグループの中へ吸い込まれていく青豆。

海翔は男の存在をしっかり目に焼き付ける。


こうして、二人の同棲生活は始まった。

日常の些細な瞬間も、少しずつ積み重なっていく。


青豆の笑顔と、海翔の微妙な嫉妬の間に、日々のリズムが生まれていくのだった。

――そして、そのリズムは、少しだけ恋のテンポが早かった。


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