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西園寺青豆の不運  作者: 雨水卯月
第二章

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小話4 青豆の周りには、自由が多すぎる

「小話 誰も彼も足りないものを持って、それでも生きている」の続きのようなお話です

すずめと青豆の間に、自分の入る余地がない――

そんな焦りを感じた高二の冬のこと。

海翔は、青豆の“世界”に少しずつ触れていくことになる。

そう、想像以上にディープでカオスな世界に。


⁻⁻⁻


「え!?香澄ちゃんって青豆と血がつながってないの!?」


青豆がキッチンでお茶を準備している間、

何気ない一言から海翔は人生で一番の驚きを味わっていた。


「だって、全然似てないでしょ?」

「顔はね…でも話し方とか、雰囲気は似てる」


あと強烈な個性も

だからてっきり、青豆が言っていた“血がつながってない妹”は

どこか別の場所で暮らしているんだろうと思っていた。


「おねえとは7歳の時に会ったから、まだ6、7年?」

「そんな風に見えないくらい仲いいね。俺は兄と仲良くなくて…」

「血がつながってるからじゃない?」

「仲悪いのが?」

「うん。おねえもお父さんと仲悪い。私はお父さんとは仲いいよ。血、つながってないけど」


「そっか……逆、なんだ。」


血のつながりは心のつながり。

その逆なんて、考えたこともなかった。

その瞬間、海翔の中の“常識”が小さくひとつ、崩れた音を立てた。


「その考え方、いいね」


海翔が笑うと、香澄が言う。


「おねえ、藤堂さんって罪作りだね。影と笑顔のバランスが絶妙」

「何の話?」


青豆が戻ってきて、きょとんとした顔をしている。

世界はやっぱり、青豆のまわりで動いている。




⁻⁻⁻


海翔はその後、密かに「家庭調査キャンペーン」を実施していた。

自分の中の凝り固まった“普通”を、壊すキャンペーン。

青豆の友達なら、きっと壊してくれる気がしたからだ。


「七瀬と百田って、兄妹いる?」

「俺は下に4人いるよ。モモは姉ちゃんになった兄ちゃんがいるよな?」


……情報量が多い。

しかも、「姉ちゃんになった兄ちゃん」という新しい言葉に、脳が追いつかない。


「もー!七瀬ってば、あの人は最初から女なの。身体が違って生まれてきちゃっただけなの!」


センシティブな話題のはずなのに、百田は笑っている。

笑えるほど、受け止め終わった話なんだろう。


「女性ホルモン飲んで落ち着いたけど、瑠衣ちゃん、七瀬くらいなら倒せるよ」

「お前も俺くらい倒せるだろ」

「え?そうなの?」

「モモ、柔道黒帯。」


海翔の頭の中で、柔らかい花びらがバキバキと割れる音がした。

恋愛至上主義ふわふわ女子が、T大法学部で柔道黒帯。

世の中って、偏差値では測れない。


「七瀬は?下が4人?」

「うん、俺の下に14歳下の双子の弟と妹。俺、貰いっ子なんだ」


あまりに軽く言われて、海翔の方が息をのんだ。


「貰いっ子?」

「養子」

「えっ……」


この陽キャの象徴みたいな男が――?

戸惑う海翔に、七瀬は肩を叩いて笑う。


「気にすんなって!父さんと母さん、親友が事故で亡くなって、赤ん坊の俺を引き取ってくれたんだ」

「それ、知った時、大丈夫だった?」

「大丈夫大丈夫!お前いい奴だな!」


人はみんな、見えない事情を持ってる。

明るく笑っている人ほど、実は。

そんな当たり前のことを、海翔はようやく知る。


「モモ、藤堂の家族のこと聞きたいな。さぞかしカッコいい兄弟がいそう」


さすが百田、恋愛情報収集に余念がない


「残念。兄が一人いるけど、他人に興味ない研究オタクだよ。申し訳ないけど、仲悪いから紹介出来ない。」


いつもならここで話は終わる。

でもこの二人なら――


「俺、家族に見捨てられて…でも青豆に出会って、俺の悩みなんてちっぽけだなって」

「それは、全然ちっぽけじゃなくない?」

「でも血も繋がってるし」

「なのに、見捨てたの?そっちのがショックだよ」

「学費は払ってくれてる」

「そこに愛はあるんか?」


百田の一言がずしりと刺さる。

海翔は苦笑しながら、「ないよ。体裁だけ」と答えた。

空気が少し静かになって、百田がぽつりと言った。


「でも、そっか。なら藤堂は青豆って言う運命に出会っだんだね」

「うん。」


海翔は嬉しそうにはにかんだ。

素直で、純粋で、一途ボーイ。藤堂海翔

こういうちょっとしたしぐさでファンを増やしていく。


二人は顔を見合わせると、

次の瞬間、海翔の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。


――これからは、お前は愛されるだけの人生が待ってるぞ。

そう言わんばかりに、力を込めて。


人は、優しさに触れた数だけ、少しずつ柔らかくなる。

きっと、藤堂海翔の世界も、

今日また少し、丸くなった。


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