小話4 青豆の周りには、自由が多すぎる
「小話 誰も彼も足りないものを持って、それでも生きている」の続きのようなお話です
すずめと青豆の間に、自分の入る余地がない――
そんな焦りを感じた高二の冬のこと。
海翔は、青豆の“世界”に少しずつ触れていくことになる。
そう、想像以上にディープでカオスな世界に。
⁻⁻⁻
「え!?香澄ちゃんって青豆と血がつながってないの!?」
青豆がキッチンでお茶を準備している間、
何気ない一言から海翔は人生で一番の驚きを味わっていた。
「だって、全然似てないでしょ?」
「顔はね…でも話し方とか、雰囲気は似てる」
あと強烈な個性も
だからてっきり、青豆が言っていた“血がつながってない妹”は
どこか別の場所で暮らしているんだろうと思っていた。
「おねえとは7歳の時に会ったから、まだ6、7年?」
「そんな風に見えないくらい仲いいね。俺は兄と仲良くなくて…」
「血がつながってるからじゃない?」
「仲悪いのが?」
「うん。おねえもお父さんと仲悪い。私はお父さんとは仲いいよ。血、つながってないけど」
「そっか……逆、なんだ。」
血のつながりは心のつながり。
その逆なんて、考えたこともなかった。
その瞬間、海翔の中の“常識”が小さくひとつ、崩れた音を立てた。
「その考え方、いいね」
海翔が笑うと、香澄が言う。
「おねえ、藤堂さんって罪作りだね。影と笑顔のバランスが絶妙」
「何の話?」
青豆が戻ってきて、きょとんとした顔をしている。
世界はやっぱり、青豆のまわりで動いている。
⁻⁻⁻
海翔はその後、密かに「家庭調査キャンペーン」を実施していた。
自分の中の凝り固まった“普通”を、壊すキャンペーン。
青豆の友達なら、きっと壊してくれる気がしたからだ。
「七瀬と百田って、兄妹いる?」
「俺は下に4人いるよ。モモは姉ちゃんになった兄ちゃんがいるよな?」
……情報量が多い。
しかも、「姉ちゃんになった兄ちゃん」という新しい言葉に、脳が追いつかない。
「もー!七瀬ってば、あの人は最初から女なの。身体が違って生まれてきちゃっただけなの!」
センシティブな話題のはずなのに、百田は笑っている。
笑えるほど、受け止め終わった話なんだろう。
「女性ホルモン飲んで落ち着いたけど、瑠衣ちゃん、七瀬くらいなら倒せるよ」
「お前も俺くらい倒せるだろ」
「え?そうなの?」
「モモ、柔道黒帯。」
海翔の頭の中で、柔らかい花びらがバキバキと割れる音がした。
恋愛至上主義ふわふわ女子が、T大法学部で柔道黒帯。
世の中って、偏差値では測れない。
「七瀬は?下が4人?」
「うん、俺の下に14歳下の双子の弟と妹。俺、貰いっ子なんだ」
あまりに軽く言われて、海翔の方が息をのんだ。
「貰いっ子?」
「養子」
「えっ……」
この陽キャの象徴みたいな男が――?
戸惑う海翔に、七瀬は肩を叩いて笑う。
「気にすんなって!父さんと母さん、親友が事故で亡くなって、赤ん坊の俺を引き取ってくれたんだ」
「それ、知った時、大丈夫だった?」
「大丈夫大丈夫!お前いい奴だな!」
人はみんな、見えない事情を持ってる。
明るく笑っている人ほど、実は。
そんな当たり前のことを、海翔はようやく知る。
「モモ、藤堂の家族のこと聞きたいな。さぞかしカッコいい兄弟がいそう」
さすが百田、恋愛情報収集に余念がない
「残念。兄が一人いるけど、他人に興味ない研究オタクだよ。申し訳ないけど、仲悪いから紹介出来ない。」
いつもならここで話は終わる。
でもこの二人なら――
「俺、家族に見捨てられて…でも青豆に出会って、俺の悩みなんてちっぽけだなって」
「それは、全然ちっぽけじゃなくない?」
「でも血も繋がってるし」
「なのに、見捨てたの?そっちのがショックだよ」
「学費は払ってくれてる」
「そこに愛はあるんか?」
百田の一言がずしりと刺さる。
海翔は苦笑しながら、「ないよ。体裁だけ」と答えた。
空気が少し静かになって、百田がぽつりと言った。
「でも、そっか。なら藤堂は青豆って言う運命に出会っだんだね」
「うん。」
海翔は嬉しそうにはにかんだ。
素直で、純粋で、一途ボーイ。藤堂海翔
こういうちょっとしたしぐさでファンを増やしていく。
二人は顔を見合わせると、
次の瞬間、海翔の頭をぐしゃぐしゃと撫でまわした。
――これからは、お前は愛されるだけの人生が待ってるぞ。
そう言わんばかりに、力を込めて。
人は、優しさに触れた数だけ、少しずつ柔らかくなる。
きっと、藤堂海翔の世界も、
今日また少し、丸くなった。




