小話3 青豆と海翔
青豆と海翔。
いつも仲良し――に見えるけれど、実はよくケンカする。
内容は大体くだらない。
LINEの返信を忘れたとか、どっちが多く電話かけたかとか。
「もうっ!知らないっ!」
大抵、青豆が怒って、海翔が慌てて謝る。
恋とは、想いの深さと重さと質で、力関係が決まる。
でも、今回は違った。
『今回は俺も折れない。絶対』
青豆、びっくり。
でも引くのもなんだか違う気がする。
青豆は、頑固ではない。
もし石みたいに固い頭をしていたら、
降りかかる不運を、こんなに上手に受け流せない。
彼女は柔軟だ。つまり、最先端だ。
そう、「彼氏以外の男友達と海に行くことの、何が悪いの?」理論である。
一方、海翔は保守。いや、保守中の保守。
俺が隣に居ない時に「足は出さないで」「肩も出さないで」
それが彼の信条。
発端は青豆の何気ない一言。
「七瀬とモモで来週海に行くんだ~」
『何言ってんの!?絶対ダメだよ!なんで、七瀬に青豆の水着姿見られなきゃなんないのっ!』
俺だって見たことないのに――
と、海翔は心の中で叫ぶ。
くだらない。
実にくだらない。
けど、本人たちはいたって真剣だ。
「だって、女の子だけじゃダメって言った!」
『それもダメだよ、絶対ナンパされるじゃん!』
「じゃあ、海に行きたい時、どうすればいいの?」
『家族で行くとか?』
「お父さんと海?ないないない!!」
会話は平行線。
いや、もう水平線の彼方。
「ラッシュガード着る。絶対脱がない。」
『……』
「七瀬とモモから離れない。」
『……』
「ね?いいでしょ?海翔」
『わ、』
「わかった?」
『…分かってあげられなくてごめん』
「なにそれぇ!?」
そして冒頭に戻る。
「もうっ!知らないっ!」
『今回は俺も折れない。絶対』
「知らないもん。勝手に行くもん」
---
怒りが行き場をなくした青豆は、
香澄とすずめに愚痴をこぼす。
「海くらい我慢しなよ。お義兄ちゃんがかわいそうじゃん。」
香澄はサンフランシスコ限定のスタバポーチを指で回しながら言う。
海翔のセンスは、抜群だった。
故に……買収は、完璧だった。
「そこまでして海行きたい?ベタベタするし、砂だらけになるし、クラゲいるし」
すずめよ、なぜお前が敵側なのか。
まさかのホームで味方、ゼロ。
こうなったら、七瀬に助けを――
《ごめん、海行けなくなった》
《モモも~》
二人からのメッセージ。
グループLINEが、一気に静まり返る。
《なんで今さら?》
《青豆との友情と、海翔との友情だったら、海翔の方を取る》
《モモ、ナンパはキライだから。青豆と二人なら行かな~い》
青豆は、この日初めて、恋人の“運のよさ”を呪った。
(もー!この前の帰国で二人を紹介するんじゃなかった!)




